10.13WBC世界フライ級王座決定戦に挑む寺地拳四朗の“転級”に当てはまる井上尚弥のパターン…2階級4団体統一も視野へ…ターゲットは誰だ?

 プロボクシングの前WBC&WBA世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(32、BMB)が27日、練馬区の三迫ジムで10月13日に有明アリーナで行われるWBC世界フライ級王座決定戦に向けての公開練習を行った。減量苦から解放された拳四朗にはプラス材料が多く、この階級での目標をライトフライで果たせなかった「4団体統一」に置いた。2DAYS興行では、WBA世界同級王者のユーリ阿久井政悟(29、倉敷守安)、かつて激闘の末に破ったWBO世界同級王者の級王者アンソニー・オラスクアガ(25、米国)も防衛戦を行う予定で、統一戦の有力な対戦候補となるが「どっちでも」のスタンス。さらに将来的にはスーパーフライ級に上げて、スーパーバンタム級の4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)が果たした2階級4団体制覇も視野に入れていることも明かした。

 ライトフライ級時代は絶食で息があがる

 見るからにでかくなった。
「周りにも言われるんですよ」
 元々骨格が大きいそうで、加藤健太トレーナーは「ライトフライでこの時期なら(筋肉、脂肪を)そぎ落としていかないといけない。それがないから、いつもよりでかく感じるのでしょう」という。
 フライ級への転級で地獄の減量からは解放された。
 加藤トレーナーは、2-0判定で勝利した1月のカルロス・カニサレス(ベネズエラ)戦の試合前のアップで異変を感じ取ったという。
「めちゃくちゃ息が切れていたんです。もう結構きついところまで来ている。体にエネルギーがないんだなと実感しました」
 10キロ近く減量があり、この時期には、スパー前に、おにぎりを一個を食べるのがやっとで、1週間前には減量方法として取り入れている酵素ドリンクに切り替えて、ほぼ絶食。その上、最後は2日間かけて水抜きをするという過酷な減量を乗り越えなければならなかった。当然、試合が近づくと、体重を落とすことが主眼となり、スパーでスキルアップに集中することができなかった。
「今回は体にエネルギーがある状態でリングに上がるのがテーマ」と加藤トレーナーは期待を寄せる。
「落とせるか、落とせないかのプレッシャーがだいぶ減って気持ちが楽になった。この状態でどれだけ力が発揮できるか、試合が楽しみなんです。スパーはよくなっている。勝てる自信が上がっている」
 井上尚弥やWBC世界バンタム級王者の中谷潤人(M.T)も減量苦から解放されてパフォーマンスが数段レベルアップした。拳四朗にもそのパターンが当てはまると見ている。2年前の矢吹正道(LUSH緑)戦を境にファイトスタイルが変わって覚醒した拳四朗が、フライ級でさらに進化を見せる可能性は大きい。
 そしてフライ級であれば、拳四朗が願う「4団体統一。ベルトを増やしたい」という目標が具体化する可能性も広がる。
 ライトフライ級時代は、2023年3月に一度は決まっていたWBO世界ライトフライ級王者、ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)との3団体王座統一戦が相手の急病で流れるなど、3つ目、4つ目のベルト獲得へは進まなかった。フライ級では、すでにWBA王者がユーリで、WBO王者は拳四朗が激闘の末に9回TKOしたトニーで“有明2DAYS”で防衛戦を行う。2人の王者との対戦交渉はスムーズに運ぶだろう。
 「試合は意識するし結果も楽しみ」
 拳四朗は、そう言うが「誰と戦いたい」の固執はない。
「どっちも一緒くらい。むしろ3個ある。どれでもいいくらい。タイミングとチャンス。それだけ」
 今回の対戦相手の元WBC世界フライ級王者のクリストファー・ロサレス(29、ニカラグア)は、身長1m70、リーチは1m80ある選手のため、1m70ある西岡伶英(川崎新田)らバンタム級のボクサーとスパーリングを行っている。その中で「スーパーフライ級でもいける」との感触はつかんでいる。
ーー2階級4団体制覇も狙うのか?
 そう聞くと、「時間次第ですね。一人では無理っすね。そういうの(2団体統一王者)があればラッキーですね」と、まんざらでもない返答だった。
 現在32歳。拳四朗は「疲れがたまりやすくなっている」と言うが、とても32歳には見えない。「35歳までできたらいい方じゃないですか?」と想定している。
 あと3年あれば、指名試合などの絡みが厄介だが、フライ級の4団体統一を達成するための時間は十分にある。問題はその上。

 

 

 井上尚弥は、スーパーバンタム級に上がった際にWBC&WBO世界同級王者のスティーブン・フルトン(米国)、WBA&IBF世界同級王者のマーロン・タパレス(フィリピン)を続けて倒して、2試合で4団体を統一した。現在フライ級は統一王者はいないが、スーパーフライ級は、WBAとIBFが、井岡一翔(志成)からタイトルを奪ったフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)で、10月14日に防衛戦を行うWBO世界同級王者の田中恒成(畑中)も統一王者を狙っていて、WBC世界同級王者は“最強”の呼び声の高いジェシー“バム”ロドリゲス(米国)。もしかすれば、拳四朗が挑戦する頃には、ベルトがまとまっているかもしれない。
 夢プランを論じる前に転級初戦の王座決定戦でロサレスに勝利しなければならない。戦績は37勝22KO6敗で、このベルトの元持ち主。6年前に計量オーバーでふらふらになっていた比嘉大吾(志成)を9回TKOに仕留めて新王者となり、2度目の防衛戦で、チャーリー・エドワーズ(英国)に判定で敗れ、2019年には、WBC世界同級決定戦に抜擢されたがフリオ・セサール・マルティネス(メキシコ)に9回TKO負けを喫した。2年前にも現在IBF世界同級王者のアンヘル・アヤラ(メキシコ)に判定負けしたが、その後、5連勝。ランキング2位の通りの実力者だ。
 スピードはないが、とにかく好戦的で前へ前へプレスをかけてきて手数が多い。受けに回るとペースを握られてポイントを奪われる危険性がある。そして打たれ強い。
「距離は遠い。足を止めないことを意識している。足を止めて打ちたい選手なのでそこは気をつけたい。入りすぎず打ったら動く」
 拳四朗は動きが止まり下がれば主導権を握られることをよくわかっている。
「KOは結果的にできたらってぐらい。これまでもいつも狙っているわけじゃなかった。綺麗に当たれば倒れてくれる」
 フライ級への転級を契機にディフェンスの意識を強く持つようになった。
「相手の動きをちゃんと見て判断する判断力とディフェンスは強化してきた。攻めることした考えていなかったので、前足が残る課題もあったけど、ディフェンス力を加えてよくはなっている。選手寿命的にも被弾も減らしたい」
 階級が上がれば相手のパンチ力、耐久性は上がる。対策は練るのは必要なことだろう。前回のカニサレス戦は判定にもつれこんだが、矢吹戦から4試合連続KOで世界的な評価を高めた拳四朗がフライ級でどんな新境地を見せてくれるのか。

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