「ブーイングしている奴らは黙ってろ!」井上尚弥に倒されたフルトンが1年2か月ぶりの再起戦で観客に“逆ギレ”…ダウンを喫するも2-1判定勝利の採点に観客が不服

 プロボクシングのWBA米大陸フェザー級王座決定戦(10回戦)が14日(日本時間15日)、米国ラスベガスのT―モバイルアリーナで行われ、元WBO&WBC世界スーパーバンタム級王者のスティーブン・フルトン(30、米国)が5回にダウンを奪われる苦しい試合を制してカルロス・カストロ(30、米国)に2-1判定勝利した。フルトンは、昨年7月に井上尚弥(30、大橋)に8回TKO負けして以来の再起戦だったが、会場は判定を不服とするブーイングに包まれ、リング上から「ブーイングしている奴らは黙ってろ!」と“逆ギレ”した。フルトンは、WBA世界フェザー級王座に照準を絞っており、そのベルトを獲得して2026年にフェザー級に転級してくる井上との再戦を希望している。

 5回に右ストレートを食らって痛恨のダウン

 スコアカードが割れた。
 ローカルタイトルのかかったフルトンの再起戦の10回戦は判定にもつれこんだ。ジャッジの1人目が95-94でカストロ、2人目が98-93でフルトン、そして3人目が95-94でフルトン。スプリットテジションで勝利を手にしたフルトンは右手を掲げて喜びを表現したが、まだアンダーカードでまばらだったT―モバイルアリーナの観客からはブーイングが飛び交った。判定結果に対する不服だ。
 リング上でインタビューに応じていたフルトンは自らマイクをとって「ブーイングをしている奴らは黙ってろ!」と“逆ギレ”。さらにブーイングが強くなった。
 白黒をつけることはできなかった。
 昨年7月に井上に2度倒されてTKO負けを喫して2つのベルトを失ったフルトンはスーパーバンタム級からフェザー級に転級して再起戦を迎えた。だが、体格に勝るカストロのジャブで圧倒され、なかなか突破口を開けなかった。スピードも物足りない。2回には鼻血を出してコーナーに帰る始末だった。
 5回には、珍しく強引にインファイトを仕掛けたがその至近距離でのパンチの打ち終わりに悲劇が起きた。ガードが甘くなった“エアポケット”に右のストレートをまともに食らって、腰から背中をキャンバス打ちつけてダウンしたのだ。5月6日の東京ドームでのルイス・ネリ(メキシコ)戦で1回にダウンを喫した井上がしたように、フルトンもすぐには立ち上がらずに、片膝を立ててカウント8まで冷静に回復をはかった。だが、ダメージは顕著で、足を使って逃げまわり、クリンチの連発で時間を稼ぎ、なんとかこの回を切り抜けた。
 6回から、もう一度距離を取り、ジャブから組み立て直した。左右のフック、左右のボデイなどの強打をまとめて挽回をはかったが、8回にまたカストロの左フックから右ストレートをまともに浴びてバランスを崩した。足を使うが左フックの追い打ちまで許した。クリンチを駆使してKOだけは回避。9回、10回は意地を見せて、左右のフックで攻め立てて、その最終回には強烈な左フックを計3発クリーンヒットさせたが、カストロをキャンバスに這わせることはできなかった。
 中継局のデータでは、パンチのトータル数は、フルトンが450発で、カストロが622発だったが、有効打はフルトンが159発でカストロが160発でほぼ互角。さらにパワーパンチのヒット数ではフルトンが282発中120発、カストロが278発中93発でフルトンが上回っていた。ダウンはあったが、2-1判定は、妥当な採点だったとも感じたが、スコアカードなどをつけていない観客の印象度で言えば、5回にダウンを喫して、8回には、またふらついてラッシュされたフルトンが負けたように映ったのも無理はない。
「タフなラウンドの連続だった。トレーナーには“右を警戒しろ”と言われていたが、それを怠ったのが、よくなかったのかな。カストロはいい選手だった。だが、久々の試合に勝てたことは良かった。ブランクの影響がなかったとは言わないが、オレはこうやってちゃんとカムバックした」
 リング上でフルトンはそう吠えた。

 

 

 そしてフェザー級転級の手応えを聞かれ「いけそうだ」とも語った。
 井上に敗れてフルトンの名誉も評価も失墜した。2度再起計画があったが流れた。今回の興行は、スーパーミドル級の3団体統一王者のサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)対無敗のエドガー・ベルガンダ(プエルトリコ)がメーンカードだが、フルトンのカードは、PPV枠からも外され、無料放送枠の思い切り前座扱いだった。
 試合前には「あまりにも無礼な試合構成だ」とその扱いに文句をつけていた。
 チームフルトンの体制も見直した。アマチュアの頃から無償でサポートしてくれていて井上戦では、チーフセコンドだったワヒド・ラヒム氏は、マネジェーに専念し、新たにボジー・エニス・トレーナーとコンビを組んだ。
 そして試合前には、リング誌のインタビューで井上戦を振り返ってこんな決意を口にしていた、
「オレは自分に対して怒っている。井上戦での私は最高のバージョンではなかった。準備のできていなかった自分自身に怒っているんだ。何も(ベストなら)井上を倒していたとか、彼に勝っていたとは言っていない。ベストのオレなら、あの時(井上戦)の自分のパフォーマンスよりも良かったと思う。だからオレは怒っている。オレは自分自身を見つめ直さなければならなかった。プロとしても個人的にも研ぎ澄ます必要があることをたくさん学んだ。過去にこだわっていないが、今のオレはまったく違う。カストロ戦で見た目から変わった姿をお見せすることに期待して欲しい」
 確かにファイトスタイルは、インファイトにも挑むなど好戦的に変貌していた。
しかし、2年前にルイス・ネリに判定負けを喫して、現在WBC世界フェザー級暫定王者のブランドン・フィゲロア(米国)に6回TKOしてから、3連勝中で、WBCで5位、WBAで7位にランキングされているカストロに、フィジカルでは対抗できていなかった。フルトンは、2026年にはフェザー級に転級してくる井上をチャンピオンとして待ち受けて再戦したいという考えでいる。
 具体的には10月5日に英国で対戦するWBA世界同級王者のニック・ボール(英国)と同13位ロニー・リオス(米国)の勝者をターゲットにしている。だが、“フェザー級の壁”という問題を突きつけられた。
 それでもフルトンは言う。
「またジムに戻り、本来の動きを取り戻して世界タイトルのために戻ってこなければならない」
 陣営は12月に、もう1試合、世界前哨戦を挟んで来年にも世界へ挑むプランを練っている。

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