「胃のむかつきと吐き気との戦い」パラリンピックでもセーヌ川の水質悪化問題が浮上…トライアスロンと自転車ロードで2冠の豪州女性アスリートのパーカーが健康被害を告白

 パリパラリンピックの女子自転車ロードレース(H1-4)と女子トライアスロン(PTWC―H1)の2種目で金メダルを獲得した豪州代表のローレン・パーカー(35)が、パリ五輪から水質が問題となっていたセーヌ川を泳いだ影響で「胃がむかつき吐き気との戦いがあった」と告白した。英「デイリーメール」など複数の海外メディアが報じたもの。セーヌ川の水質問題は最後までアスリートを苦しめたようだ。

 

汚れたセーヌ川を泳いだことによる「胃のむかつきと吐き気」と戦いながらパーカーが2つ目の金メダルを獲得した(写真・ロイター/アフロ)

 

 セーヌ川の水質悪化問題はパラアスリートも苦しめていた。9月5日の自転車ロードで、2日のトライアスロンに続き、2つ目の金メダルを獲得したパーカーがレース後、こう告白したのだ。
「タイムトライアルも今日のレースもベストな状態ではなかったわ。トライアスロンのセーヌ川でのスイムを泳いだ後に、胃のむかつきとかなりの吐き気があったの。でも私にはやるべき仕事があった。だから、その問題を脇に追いやって、レースに集中することを選んだ。私はそれを成し遂げたわ」
 パーカーは9月2日にセーヌ川を使ったパラリンピックのトライアスロンに出場。セーヌ川を750m泳ぐ競技で、金メダルを獲得したが、やはりセーヌ川の“汚れた水”を飲むことになり、体に異常が発生したのだ。
 当初、パラリンピックのトライアスロンは、9月1日に実施される予定だったが、その数時間前に運営組織のワールドトライアスロンが、「2日間続いた雨の影響で水質が低下して定めた閾値をクリアできていない」との理由で2日に延期された。ワールドトライアスロンは「アスリートの健康を最優先に考えていることを改めて表明します」とも付け加えた。1日の延期で、水質は基準値をクリアしたそうだが、また健康被害を訴える“犠牲者”を生み出す結果となってしまった。
 パーカーは、元々豪州のトライアスロン選手だったが、2017年に自転車のトレーニング中に転倒事故を起こし、肺に穴が開き、背中、肩甲骨、4本の肋骨を骨折し、脊髄を損傷した。車イス生活を余儀なくされ、医師から「二度とアスリートには戻れない」と宣告された。だが、パラアスリートとして復活。東京五輪のトライアスロンでも銀メダルを獲得している。

 

 

 先のパリ五輪ではセーヌ川の水質問題が大きくクローズアップされた。運営サイドが連日水質をチェック。基準値をクリアした場合のみ実施されたが、カナダの男子代表のタイラー・ミスローチャックが10回も嘔吐。レース後には、体調不良を訴える選手が続出し、ベルギー女子代表のクレア・ミシェルは、ウイルス性感染症の下痢と嘔吐が続き、チームはセーヌ川の汚染水が選手に与える影響を考慮してその後の混合リレーを辞退。またその混合リレー後には、ポルトガルの男女2選手が胃腸感染症を発症したことが発表された。
 東京五輪の金メダリストで、世界シリーズの総合優勝や世界新記録を樹立したこともあるノルウェースポーツ界のスターであるクリスティアン・ブルンメンフェルトは、帰国後、地元メディアに「運営サイドは水の状態を制御できなかった。ただのギャンブルだった。そんな場所でアスリートのためといって行うのは、ある意味、無礼なこと」と非難の声をあげた。
 また米国五輪委員会の医療の最高責任者であるジョナサン・フィノフ博士は、同競技に出場した全選手の約10%の選手が胃腸炎を発症していたという衝撃データを発表している。
 水質の悪化したセーヌ川は長年遊泳禁止だった。だが、パリ五輪を前にパリ市は、約14億ユーロ(約2209億円)もの巨額を投資して水質の改善に乗り出し、大規模な浄水場などを建設するなどした。パリ五輪前には、パリ市長のアンヌ・イダルゴが、セーヌ川を泳ぐデモンストレーションまでしたが、汚れた水は綺麗にはならなかった。来年には市民の遊泳が解禁される方向となっている。
 2028年のロス五輪ではトライアスロン、マラソンスイムなどは西海岸の有名な遊泳場であるロングビーチで開催される予定となっていて健康被害の不安はない。

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