「自分は白だ!」も「潔白証明は?」ドーピング疑惑を完全否定した平本蓮の緊急会見で残った疑問と告発者を擁護した“陰謀論”とは?…すべてはRIZINの検査結果に委ねられる

 ドーピング疑惑で揺れる平本蓮(26、剛毅會)が2日、都内のホテルで2人の弁護士をと共に会見を開き、禁止薬物の使用疑惑を全面否定した。平本は7月28日にさいたまスーパーアリーナで開催された「超RIZIN.3」で総合格闘家の朝倉未来(32、JTT)と対戦して1回TKO勝利したが8月に入ってSNSでドーピング疑惑を示す音声がアップされ、DEEPなどに参戦している格闘家の赤沢幸典氏(32)が使用を指南し禁止薬物を提供したことを告発していた。平本は一部の事実関係は認めたが、使用については全面否定し、赤沢氏をかばい「本人の文章とは思えない。後ろにわからない大人がいる」との陰謀説を訴えた。RIZINは今週にもドーピング検査の結果を発表する予定となっている。

 「正々堂々と戦った」

 渦中の人は、開口一番。ドーピング疑惑を完全否定した。
 ストライプ柄の白い上下のスーツにサングラス姿で、ジャニーズ事務所の問題などの弁護も担当したのぞみ総合法律事務所の吉野弦太弁護士と成豪哲弁護士と共に会見に臨んだ平本は、その冒頭で「自分は一切、ドーピングに違反するようなことはやっておりませんし、自分からドーピングをお願いしたような事実はまったくありません」と疑惑を完全否定した。
 今週中にもRIZINがドーピング検査発表がされる予定だが「その発表前に声明を発表したかった」という。得意のSNSで応酬せずに会見を開いた理由について吉野弁護士は、「検査結果が出ていないこの段階で語れることに限界があるかもしれないけれど、自らの口で、SNS 対SNSではなく報道機関のみなさんにお越しいただいて直接伝えたいとの思いから会見を設定した」と明かした。
 平本の説明によると、5月にフィジカルトレーナーとジムでトレーニングを行っているところに告白者の赤沢氏が来て「ドーピング検査が大丈夫なトレーニングの効率を上げるサプリ」を勧められ「値段だけ言われて購入した」という。
 6月に梱包されたサプリを受け取ったが、そのまま封を開けずに自宅に放置していたところ、マネージメント契約をしている所属事務所のスタッフから「今は風邪薬でもドーピング違反になるから接種しないほうがいいんじゃないか」とのアドバイスを受けて「(梱包)外した状態にして自分は一切使わなかった」という。
 赤沢氏とは、K-1からRIZINに戦いの舞台を移してMMAに挑戦した2021年からの付き合いがあり、米国修行のあと指導者が見つからなかったときに指導を受け、過去に2試合セコンドについてもらったこともあった。
「その試合も勝っていて信頼していた」
 メールなどで相談にも乗ってくれる良好な関係だった。
 8月20日にSNSのアカウント「復活の日本」にて公開された平本と赤沢氏の間で交わされたとされる電話の会話の音声では、ステロイド使用を示唆する生々しいやりとりがあった。平本は、それが8月4日の電話の隠し撮りで本物であることを認めた。
「試合が終わって電話があった。録音を聞いた人もいると思いますが、信頼関係もあったので無下にすることも出来ないと思い話を合わせていた」 
 会話の途中で赤沢氏が平本を「ステ本蓮」との呼称で呼ぶ場面もあった。
「一度もそれまでの僕たちの会話になかったステロイド錠剤の話や『ステ本蓮』といった(言葉が)出てきて何か“もやっ”とするのものがあったが、8月20日のSNSの音声を聞いて(その理由がわかり)すっきりした」
 試合後の奇妙な電話があった理由もわかり平本は嵌められたのだと感じた。

 

 その音声データの中では「注射をケツにした」とのやりとりもあった。平本の説明によると、4月にアイルランドを訪れ、UFCの“レジェンド”コナー・マクレガーのジムで修行を積んだが、練習中に靭帯を半月板損傷を負い、2か月の予定を1か月早めて帰国した。
「一時は歩けないくらい大きな怪我で、(7月28日の試合まで)1か月切ったくらいで怪我が相当悪化していた」
 そこで高校生の時から指導を受けて信頼しているフィジカルトレーナーに「膝の回復に何か案がないか?」と相談したところ「ドーピング検査で問題のない」注射を勧められ、自分で打った」という。赤沢氏から提供された薬を打ったのではないが、そのフィジカルトレーナーは、赤沢氏も知っている人物で「会話の延長上」で「注射をケツに打った」との話が出たという。
 赤沢氏は8月28日に流出した音声の相手自分であることを明かした上で長文の告発文を掲載。続いてSARMs(筋肉増強剤であるステロイドの一種)などの禁止薬物14万1450円分の見積書と平本がその料金の14万1450円を振り込んだ銀行口座の出入金明細画像をアップした。平本は、その振り込みが事実であることを認め「やましいことがないから」振り込み人の名義が実名だったことを明かした。
「よりによって自分がずっと望んでいた朝倉未来選手との試合でそんな馬鹿なことを僕が一切するわけがありません。(RIZINの)検査結果はまだだが、僕は必ず白だと自分を信じている」
 強く潔白を主張した。
 だが、この会見の前に赤沢氏が「僕の告発はすべて事実」などと投稿するなど「使った」「使っていない」の“水掛け論争”となっている。
 平本が主張するようにRIZINの検査結果がすべてだろう。しかしこの段階で会見を開くのであれば、平本が現時点で可能な限りの潔白の証明を行うべきだった。赤沢氏から送られたステロイドを使用していないのであれば、未開封の現物でも持ってくるべきだったが、それもなかった。会見でその点を聞くと「所属事務所で管理しているので、これから必要であれば、その都度証明をしていこうと思います」と答えるに留まった。いわゆるステロイドの痕跡を残さないマスキング剤を併用した場合、ドーピング検査で禁止薬物は検出されない。ただ平本は今後RIZINが毛髪検査や血液検査を求めてきた際には「従う」と明言した。

 

 

 また注射器を使って摂取した怪我の回復に効果のある薬についても「怪我の回復を早めドーピング検査に違反しないと言われた。医者ではなく詳しいことは分からないが、フィジカルトレーナーを信頼して使った。アスリートとしていくら信頼するトレーナーから(の推薦)とはいえ、自分で調べる必要があったんじゃないかとは思う」と語り、それ以上の詳しい説明はなかった。平本の持つ認識とは違うかもしれないが、任意のドーピング検査を実施しているプロ野球のNPBでは、たとえニンニク注射などであっても、許可なく注射、点滴などの行為を行った場合はドーピング違反の一種とみなされ罰則が与えられる。本人は「今後は丁寧にしていきたい」と振り返っていたがRIZINとの朝倉戦の契約時にドーピング検査の実施が伝えられていたのだから、あまりにも脇が甘すぎる行為だ。
 平本の急激な肉体の変化に疑念を抱く声もある。だが、その質問に関しては興奮気味に猛反発した。
「10週間をすべて(をフィジカルトレーニング費やせば)当たり前にでかくなる。筋トレをしたことはない?10週間すればわかりますよ」
 細かいトレーニングメニューについては「トレーナーの企業秘密」として明かさなかったが、「今後の試合でも素晴らしい結果でRIZINを引っ張っていこうと思う。朝倉未来戦があったから、1日3部練を死ぬ気でこなしてきた。それに嘘はひとつもない」と続けた。
 平本は日本に比べてドーピングに関するノウハウなどが広がっている米国など海外修行の機会が多いが、過去に「そのような現場も見たこともないし、そのようなやりとりが話にあったことも一度もありません」と断言した。
「僕はなくても勝てるタイプの考え。昔の格闘技と今の格闘技は別モノ」
 そして間接的にではあるが騒動に巻き込むこととなった朝倉には真摯にこうメッセージを送った。
「試合自体は自信を持って正々堂々と戦った。でもこのような騒動が出て引退をかけて戦ってくれた朝倉選手や陣営にはご心配をおかけしたと思います」
 朝倉は「負けたら引退」の決意で、平本との大一番に望み、その後、改めて引退を示唆している。再戦の可能性について聞かれた平本は「いつでも何回でもやります」と即答した。

 

 そして会見での質疑に多くの時間が割かれたのが、突然、告発をした赤沢氏の動機と背後関係の問題だ。平本は「人生で初めて人に裏切られた。ショックな出来事だった。その時の模様は今でも思い出したくないし正直信じられません」と話す一方で、「怒りはない。何か赤沢さんに特別な事情があったのではないか。今でも赤沢さんを正直心配している気持ちもある」との心境を口ににしたのだ。
「僕は(3000文字以上の長文告発文を)赤沢さんが書いたんじゃないと正直思う気持ちがある。赤沢さんが“朝倉未来選手に申し訳ない気持ち”と言っているが、今までの対戦相手に対しての申し訳ない気持ちは書いてなかったので本当に赤沢さんが書いたのかなと。朝倉未来サイドというか、朝倉未来に寄り添いすぎている文章に感じた」
 音声データを録音された8月4日以来赤沢氏と連絡がとれないという。そもそも平本が、弁護士に今回の件を相談したきっかけが「後ろによくわからない大人がついていると感じた。これは1人で対処できないと相談させてもらった。」ということだった。平本は「陰謀なのかもしれない。会見が終わると向こうからアクションがある。その都度、(弁護士の)先生と話し合っていきたい」とまで語った。
 弁護士は赤沢氏の行為は、名誉棄損、及び偽計業務妨害にあたるとの認識を示したが、法廷闘争に持ち込む可能性については否定的だった。平本が赤沢氏を法廷闘争に引きずり込むことを望んでいないためだと思われる。また今回の騒動で赤沢氏と共に平本にも身の危険が及んでいるのではないかとの憶測もSNSでは飛んでいるが、これに関しては平本は「喋べれることと喋れないことがある。弁護士にお任せしたい。僕の口から言うことは何もない」と言葉を濁した。
 平本はここまでSNSを駆使して過激な発言などを繰り返してインフルエンサーとしてプロ格闘家のブランド価値を高めてきたという側面もあった。そのSNSで逆に騒動に巻き込まれるのも皮肉だが、今後については「反省しています。あまりにも嫌われていると改めて感じた。もう相手にしないだけ」と真面目な顔で答えている。
 平本の完全否定会見で、辻褄の合わない矛盾点はなかった。しかし明確な潔白の証拠を示すこともできなかった。赤沢氏との「やった」「やっていない」の“水掛け論”のすべての結論は、RIZINが今週発表予定のドーピング検査結果に委ねられた。
「検査結果はまだですが、僕は必ず白だと思っている。自分は正々堂々と戦った。あとは検査結果がすべて。まずは待ちたい」
 約70分間の会見を終えた平本氏の言葉がすべてだろう。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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