「佐々木朗希はメジャーで通用しない」広岡達朗が持論「1シーズン元気に投げられないし、なぜフォーク多投?」吉井監督の過保護ぶりも疑問
〈広岡達朗が、4年ぶりのV巨人に注文「特別顧問の原は、他球団で勉強すべきだった。阿部への口出しはやめてほしい」〉から続く
千葉ロッテからポスティングシステムでMLB入りをめざす佐々木朗希。しかし、ケガがちの佐々木の体質と千葉ロッテ・吉井理人監督の特別待遇してきた育成方針に、92歳・球界の重鎮・広岡達朗氏は疑問を抱いている。新著『阿部巨人は本当に強いのか 日本球界への遺言』 (朝日新聞出版)より一部抜粋・再構成してお届けする。
不可解なエース・佐々木朗希
2023年7月24日、パ・リーグ2位で首位・オリックスを追っていたロッテのエース・佐々木朗希投手がソフトバンク戦のマウンドで突然、左脇腹の肉離れを起こし、登録を抹消された。この試合に先発した佐々木は1失点で迎えた6回、90球目を投げた際に左脇を痛め、「左内腹斜筋損傷」と診断された。
吉井理人監督によると全治2か月。高卒でプロ4年目の佐々木はそれまで13試合に登板して7勝2敗、防御率1.48で130奪三振。勝ちが計算できる先発の柱だっただけに、18年ぶりのリーグ優勝を目指す吉井ロッテにとっては、チームの大黒柱が倒れたような衝撃だった。
最速165キロの剛腕は前年4月、史上16人目の完全試合を最年少20歳5か月で達成し、2023年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも日本の優勝に貢献した。
192センチの長身から投げ下ろす速球と低めに落とすフォークボールで同季も13試合で130の三振を奪い、四死球18 が示すようにコントロールも安定している。
だがプロ2年目の2021年に一軍のマウンドに上がってからは完投がなく、2023年も5月5日のソフトバンク戦で右手中指のマメで降板し、次の登板までに中22日かかるなど、ひ弱な一面ものぞかせた。
たしかに球は速いことは速いものの、気になるのはフォークボールを投げすぎることだ。あんなに速い球があるのだから、打者の胸元に放って引かせてから、アウトコースに速い球をピッと決めれば楽なピッチングができるのに。
いまの選手はやるべきことをやらずに、楽をして成功したいという人間が多いのではないか。そして、やるべきこととは何かがわかっている指導者がいないから、選手に教えられないのだ。
だから佐々木も、2023年オフの契約更改交渉では代理人の弁護士を通じてポスティング制度を使って大リーグ移籍を強く迫った。早ければ2024年オフのメジャー移籍が実現するだろうが、アメリカでは先発投手は中4日で回すのだから、いまの佐々木はそれに耐えられないだろう。
自分だけ「登板間隔は6日いただきます」なんて、そんなことできるわけがない。いまの佐々木はあそこが痛い、ここが痛いと言っているが、それを叱る監督がいないのだ。
2024年も相次ぐ戦線離脱
佐々木は入団4年目の2023年も指のマメで長いこと休んだが、翌2024年も不思議な病状で長期休暇を取った。
まず5月28日に上半身の疲労回復遅れのため、今季初めての出場選手登録を抹消。6月8日に再登録され、同日の広島戦に中14日で先発し、6回3安打1失点(自責点0)、9奪三振で5勝目を挙げた。
ところが6月13日にはまた登録抹消。球団は「右の上肢のコンディショニング不良。登板後のコンディショニング確認の中で、上肢の状態が万全ではないことを受けての総合判断」と説明した。
しかもこれを受けて吉井監督は「前回も2週間空けて試合で投げて、また同じような状態だったらしいんだけど、今回は中6日ではまたきついということだった」と説明したが、これはいったいどういうことか。私も現役選手からコーチ・監督まで長いプロ野球人生を生きてきたが、こんなエースは見たことがない。
不可解な体調不良はこれで終わらない。監督を困惑させた佐々木はなんと、その後も1か月半戦列を離れ、8月1日の西武戦でやっとマウンドに戻ってきた。54日ぶりのこの日は5回1失点で6勝目(2敗)を挙げたが、72球で3奪三振は本来の投球ではなく、同8日のソフトバンク戦では5回9安打、失点・自責点3で3敗目を喫した。
この日も最速161キロを記録したが、ソフトバンク打線にこの直球をねらい打たれ、9三振を奪うために佐々木はフォークボールを多投した。
この日の球種はフォークが30%。力任せの速球とフォーク、スライダーを投げるために、投手に一番大事な体の軸がリリースのあと一塁側に傾き、最大の武器である速球は力とバックスピン(回転数)がかからなかったのだろう。
私が監督なら、まず彼がどういう生活をしているかチェックする。その結果、体質的にちょっとやらせたらケガをする選手だったら、もういらない。プロとしてほかの選手の邪魔になるからだ。ほかの選手は一生懸命練習して短い間隔で登板しているのに、佐々木だけ特別待遇したら不公平ではないか。そんな選手はチームにとって必要ない。
吉井監督は過保護すぎないか
佐々木は長身で、あれだけ速い球を放れるのに、フォークばかり放っているのはもったいない。
私に言わせれば、吉井監督は投手出身なのに本当の指導を知らない、していない。佐々木はどんな練習をしているのか。本気でしっかり練習していたら、試合ではなく練習のときに指や腕が痛くなるはずだ。どんなキャンプを送ったのかも、見ていないのでわからないが「朗希さまさま」で大事にやらせたのではないか。
問題は、キャンプでやるべきことをちゃんとやったうえでおかしくなっているのかどうかだ。
佐々木のやるべきこととは何か。一言でいえば、あんなにフォークボールを投げる必要はないということだ。あれだけ速い球を持っているのだから、アウトコースに速い球をピュッピュッと投げて、打者が前傾でかぶさってきたら、私の西武監督時代の東尾のように、胸元にびっくりするような球を投げて起こしてから、外角に速い球を投げたら楽なピッチングができるはずだ。
ロッテでは2023年に新型コロナで主力選手の大量発熱があったが、こんなことが起こるのは、フロントがチームの健康管理に気をつけず、監督や選手たちに厳重注意をしないことも一因ではないか。
私が広島のコーチのとき、「必勝法70 か条」という冊子を手に入れた。ドジャースの戦術書だが、この本の第1条に「常にベストコンディションを保て」と書いてある。
ベストコンディションを保つにはどうしたらいいか。わかる人がいるだろうか。“how to say” ができる人はいるが、“how to do” を言える人がいるか。
病気のときも、「あなたは生活習慣が悪いから病気になった。病気にならないためにはこういう生活をしなさい」といえる医者がいるか。
「暴飲暴食を避けなさい」「酒はやめなさい」程度のことは言うだろうが、もっと丁寧に生活習慣の改善法を指導する先生がいるか。患者の顔もろくに見ないで、パソコンのカルテを見ながら薬だけ出す医者が多いだろう。
いま、「糖尿病の患者が増えて薬が足りない」とニュースになっているが、医者が日ごろから親身になって生活習慣を指導しないから、患者はおいしいものを好きなだけ食べ、酒をたくさん飲んで糖尿病が増えて薬が足りなくなる。世の中が緩んで贅沢病が蔓延(まんえん)しているのだ。
いまの佐々木は大リーグで通用しない
新聞によれば、佐々木は2023年末の契約更改後の記者会見で2024年オフのメジャー挑戦について聞かれ、「将来的にメジャーリーグでプレーしたいという思いはありますけど、まずはしっかり目の前のシーズンをプレーすることが大事かなとは思っています」と語った。
ところが日本で最後になるかもしれない2024年シーズンも、右上肢のコンディション不良などで2度も戦列を離脱してチームやファンを失望させた。開幕の4月は4試合に先発登板して3勝(1敗)したが、5月・6月は各1勝、8月・9月は各2勝どまりで、防御率も8月が2.96、9月は3.50と、大リーグを目指すエースの投球とはいえなかった。
そんな大黒柱がやっとスポーツ新聞の1面を飾ったのは10月2日。前夜、4位でAクラスに迫る楽天を1失点10奪三振でかわし、やっとロッテの2年連続CS進出を決めた。
佐々木にとってはプロ生活5年目にして初めての10 勝で、オリックス戦で完全試合を達成した2022年4月以来2年ぶりの完投勝利だから、驚くよりあきれてしまう。
10月になってやっと帰ってきたエースを、吉井監督は「いままでは65%の朗希だったが、今日は90%だった」と称賛したというから、新聞も監督ものんきなものだ。私に言わせれば、ファンに最後までBクラス転落を心配させたロッテも、ひ弱なエースがしっかりしていれば楽に2位にはなれただろう。
そんな佐々木を見るにつけ、私は巨人で一緒にプレーをした堀内恒夫を思い出す。甲府の高校から出てきた右腕は身長178センチ・体重73キロの華奢な体で1年目から33試合に登板し、開幕13連勝を含む16勝(2敗)を挙げた。
その後も1978年までの13年間2ケタ勝利を続け、通算18年間で203勝の記録を残した。
しかも彼は、いまだにフォークボールやスライダーを多投する佐々木と違って、伸びのある速球と大きなドロップ(落ちるカーブ)しか投げなかった。
佐々木がCSでどんな投球を見せるか、大リーグのアジア担当スカウトも見守ったが、先日来日した旧知のフロント幹部が私に「佐々木はどうですかね」と意見を求めたので、「ダメダメ。いまだに1シーズン元気に投げられないのだから、10日も20日も連戦があるアメリカで、中4日のローテーションは守れないね」と答えておいた。
11/23 17:00
集英社オンライン