学生からのパワハラ訴えに告発された側が弁護士選任して「問題なし」 結論にも150万円支出にも疑問の声【関東学生ゴルフ連盟に激震・続報】
松山英樹をはじめとして数々の有名プロゴルファーが輩出した関東学生ゴルフ連盟。本来は学生が運営する学生のための団体ですが、実は実権を握っているのは社会人。現在、恣意的な運営による問題点が表面化し、“大人のもめごと”で学生が苦しむ現状になっているというのです。JGAはもちろんスポーツ庁も問題視し、この異常事態の収拾に乗り出しました。
「強い恐怖心を覚え、精神的にまいっております」
関東学生ゴルフ連盟の学生委員長が、会長代行からのパワハラ被害を内部通報窓口に告発していた――。
こんな衝撃の事実が、11月20、21日に開催された関東学生ゴルフ連盟(以下、学連)の説明会で明らかになりました。しかも学連側がこの内部通報の調査を依頼した3人の弁護士に、払った費用が150万円。これが学連の予算から計上されていたことも分かり「自分がパワハラで追及されているのに、その調査費を学連の予算から支払うのはおかしい」との声が関係者から次々に上がっているのです。
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学連内のパワハラ体質に対する問題提起は、約1年前から多くの関係者が知らないままに行われていました。10月27日に飯田橋で発生した社会人理事から学生へのパワハラ疑惑については本サイトで既報の通りですが、実は昨年、それ以上に深刻な事態が起きていました。
その事実が明らかになったのは、11月20日に東京都千代田区の貸会議室で開かれた「関東学生ゴルフ連盟主催による加盟校の皆様への意見交換会・説明会」の席上でした。
前学生委員長のAさんから、パワハラを行ったとの告発を受けた議長役の北口博会長代行(立教大学出身)が、各大学の監督や学生を前に、自らこの経緯を説明したからです。
「結論が出ていますので、かいつまんで申し上げますと、昨年の11月に当時のA(会議では実名)委員長から内部通報窓口に、『会長(代行)である私からパワハラを受けた』と(の通報がありました)。学連内部の人間が、内部の人間を調査して結論づけるというのは一般的でない。それで第三者にお任せした。そして9月ですか、10月ですか、正式な報告がございまして『その(内部通報の)ような事実は見当たらない。ありませんでした』というのが正式な回答でした」
すでにこの問題にケリがついたかのような口ぶりですが、本人はもとより学生や監督ら、多くの関係者がこの結論に納得はしていません。
まずAさん本人の証言をもとに振り返ってみましょう。関東学生ゴルフ連盟の委員長を務めていたAさんが、悩みに悩んだ末「関東学生ゴルフ連盟の会長代行からパワハラを受けている」と、内部通報窓口に訴えたのは2023年11月10日。その内容は「加盟校の部長・監督。関東の理事、他地区の理事へ、私の名誉を毀損するような書類が勝手に送られる」(通報内容より抜粋)というものでした。
その文書には「私の名前だけ黒字で塗られておらず、私のみを悪者にするかのように記載されています」という切実な思いがつづられていました。この文書が拡散した結果、「加盟校から強い疑いを向けられている状況にあり(中略)今回の書類を勝手に送付した北口会長代行に対し強い恐怖心を覚え、精神的にまいっております。以上報告させていただきます。何卒お力添えいただけませんでしょうか」と、精神的にもギリギリにところまで追い込まれていることも吐露していました。
添付されていた文書は、確かに他の個人名はマジックで消されているにもかかわらず、Aさんの実名はそのままでした。これにAさんはショックを受け、悩んだあげく内部通報窓口への通報に踏み切ったというわけです。
しかし、Aさんはこのあと内部通報窓口と理事会の担当理事が選任した担当弁護士からの事情聴取を拒否します。その理由をAさんが在学していた大学のゴルフ部監督であるB氏は、説明会の席上こう明かしています。
「今回の選任方法というのは、第三者ではなくて、どちらかというと学連の意向を受けて調査をされる可能性のある方を選定されてしまったので、弱い立場であるAとしてはその聴取には協力したくないと。自分の身を守るためにそれ(聴取)は嫌だということで、お答えしなかったと聞いております」
北口会長代行が関係各所に送り付けている文書は、Aさんがパワハラを受けていると感じるものだったわけです。しかし、一旦は年配の社会人がずらりと顔を揃えた関東学生連盟理事会という強大な存在と闘うために内部通報を決断したものの、自分を助けてくれるはずの弁護士すら信用できない。その時にAさんが感じた絶望感は、容易に想像できます。その結果、Aさんが自分を守るために聴取を拒否したのも無理はありません。
訴えた本人の聞き取りができていないのに結論
B監督はこの選定事情について、さらにこう説明しています。
「北口さんは調査した弁護士を第三者と言いましたが、第三者ではないのです。北口さんや理事会側の弁護士なのです」
「学連の内部通報の規約では、調査する人間の選定方法はこう決まっています。『内部通報窓口の弁護士と担当理事が選定する』というものです。これは訴えられている理事会側が、調査する弁護士を恣意的に選ぶことになります。A君の側が依頼すれば当然有罪にするために依頼するし、理事会側が依頼すれば無罪にするために依頼します。だから本来なら日弁連などに、第三者機関の設置を依頼して、それで初めてどちらの意向も受けない第三者機関となるのに、自分たちの都合良い弁護士に依頼して無罪とさせたと言われても仕方ありません」
「訴えた本人の聞き取りができていないのに結論が出たのも、最初から結論ありきだったのではとの疑念が生まれています。さらにそんな自分の無罪を作るための弁護士費用を連盟の予算でまかなったとの批判も出ているのです」
参加した別の監督が、この内部通報にかかった費用が北口会長代行からではなく、連盟の予算から拠出されていることを指摘していました。
「3名の弁護士先生の費用に150万円というお金がかかっております。このお金は全部学生たちが負担しているわけですよね。加盟費1万5千円、それの100人分です。かなりの高額だと思います。それが連盟にとって必要だったお金。でも、学生にとって必要だったのかどうか、というのが僕、疑問なんですね。学生のために弁護士を雇ったのかどうか」
これに対し、北口会長代行の反論は次のようなものでした。
「当然学生のためになります。というのはこの関東学連の運営ですとか、存続に関わる問題でございましたので、そこは曖昧にするわけにはいかない。専門の弁護士先生にお願いして、はっきりとそういう事実があったのか、なかったのかということを精査、報告をいただくための費用ですから、この関東学連の継続ということは、私は学生の皆様のためという判断をしています」
参加した他の監督の「学生が北口代行のパワハラを受けた。それに対して北口さんが連盟として弁護士を選出したわけですよね。これはおかしい」という指摘に対しても、「私個人の問題であれば、当然これは私の責任ですので、私が費用を負担する。これは当然、当たり前だと思います。ただあるのかないのか、警察でも裁判でも何でも『有罪なのか、無罪なのか』とやってやるのと同じように、当時の内部調査の中では、その判定をする機関が学連の中にはございませんので、公平な立場で事実を判断していただけるというところに(お願いした)。私が個人でお願いしているわけではありません」と反論しています。
150万円と1年近くを費やした末、届いたのは簡単なメール1本
実は取材の過程でパワハラの件と150万円の件の情報は届いており、北口会長代行には 10月28日に関東学生ゴルフ連盟の事務局経由で5項目の質問を送っています。以下がその内容です。
・2年近く関東学生ゴルフ連盟の会長が決まらないのはなぜなのか。
・主将、主務、監督の話し合いの場に北口会長代行が参加しないのはなぜなのか。
・昨年、北口会長代行の関係するパワハラ事件についての調査結果が1年近くもでていないのはなぜか。
・パワハラの件の調査費用を学連から支出する理由を教えて欲しい。
・日本学連の通達文(後述)の期限を過ぎる前に、加盟校に対してアクションを起こさなかった理由を知りたい。
筆者は説明会の行われた11月20、21日の両日、千代田区の説明会場に出向き、説明会終了後の北口代行に3週以上前に送付した「5項目のメールに返信してください」と投げかけましたがが、明確な返答は得られずじまいでした。実は11月中旬、Aさん宛てに下記のようなメールが届いたそうです。
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A様(メールでは実名)
A様からの通報内容については、内部通報規定第9条1項に基づいて選任された調査委員で構成される調査委員会において、調査を実施しました。
同調査の結果、通報内容は名誉棄損またはパワーハラスメントに該当しないとの結論に至った旨の報告を受領いたしましたので、内部通報規定に基づいてご連絡します。 関東学生ゴルフ連盟 内部通報担当弁護士 服部滋多
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「9月ですか、10月ですか」(北口代行)に調査が終了していたにもかかわらず、服部弁護士からの知らせが届いたのは11月中旬。Aさんの不信感が募るのも無理からぬところ。
「A君は、どういう方法で(調査の)結論を出されたのかを公表してほしいと言っています」と、Aさんが在籍していた大学のB監督は説明会の会場で明言しました。
150万円もの費用と1年近くの歳月を費やしながら、Aさんに届いたのは簡単なメール1本。現在の心境をAさんに聞いたところ、こんな答えが返ってきました。
「まったく納得はしていません」
一方で全国組織である日本学生ゴルフ連盟が9月4日付で関東学連に出した「10月14日に事態の収拾に向ける動きがみられなかった場合には主要大会における出場枠を15人ずつ減らし、それを他の連盟に振り分ける」という通達に応じるどころか、北口会長代行はこの通達を「撤回させる」とまで説明会場で言い切り、対決姿勢を鮮明にしています。
こうした態度に最も困惑し、動揺しているのは参加の枠を一気に狭められてしまう可能性がある学生たちに他なりません。今年の7月19日、様々な大学の学連に所属する6人の学生が、揃って日本ゴルフ協会(JGA)の山中博史専務執行役を訪ねています。
「自分たちが競技の運営に集中しなければいけない時に、大人同士の対立によって、それができない状況になっている」と涙ながらに訴えたことで「正しい形になってほしい」と、スポーツ庁とJGA、日本学生連盟がサポートに乗り出すことになったいきさつは、前回の記事にも書きました。
12月1日。都内で新会長を決める関東学連の総会が行われます。学生たちが望む「正常な形」を取り戻すことができるのでしょうか。当事者である学生たちはもちろんのこと、各界に身を置く学連OBたちも、事のなりゆきに注目しています。
取材・文/小川朗
日本ゴルフジャーナリスト協会会長。東京スポーツ新聞社「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女メジャーなど通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。東京運動記者クラブ会友。新聞、雑誌、ネットメディアに幅広く寄稿。(一社)終活カウンセラー協会の終活認定講師、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。日本自殺予防学会会員。(株)清流舎代表取締役。
11/29 09:10
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