本来の目的を誤解している人が多い“ライ角調整” 「引っかかるからフラットに、つかまらないからアップライトに」は間違い?

多くのメディアでアイアンのライ角の重要性が語られていますが、自分のアイアンのライ角が自分にとって正しい角度なのか、ピンときていない人は多いと思います。今回はアイアンのライ角について、人気フィッターの石井建嗣(いしい・たけし)さんに聞きました。

ライ角とはシャフトと地面の間の角度

 ライ角を変えることで球筋も変化させられると聞き、安易なライ角変更をする方もいます。ですが、ライ角調整の本来の目的は弾道を変えることではありません。今回はライ角調整の本当の意味について説明しようと思います。

ライ角調整の本来の目的とは

ライ角調整の本来の目的とは

 そもそもライ角とは、クラブのソールを地面に平行に置いた時のシャフトと地面の間の角度を指します。クラブを構えた時にトゥ側が浮いている状態をアップライトといい、逆にヒール側が浮いている状態をフラットといいます。

 ひと昔前はアドレス時にトゥ側の底にコインが2枚入るくらいのライ角が適正という教えがあったのですが、そもそもほとんどのアマチュアゴルファーにとってアドレスとインパクトは別物です。現在は測定器の進化によって、インパクト時の正確なライ角を調べることが可能です。本来のライ角を調べるためには測定器が必須で、インパクトライ角を見て調整するというやり方がベストといえます。

 ちなみに右打ちの場合、インパクト時にトゥ側が極端に浮いている、いわゆるアップライトの状態だとフェースが左方向を向き、左に引っかかりやすくなります。逆にヒール側が極端に浮いている、いわゆるフラットの状態だとフェースが右方向を向き、右に抜けやすくなってしまいます。これはボールの手前から噛み気味に入るとより顕著になります。アップライトなクラブの場合、噛んだ際にソールのヒール側が接地するので、そこが支点となり勝手にフェースターンをしてしまいます。もちろん逆のフラットはトゥ側が接地するので自然とフェースが開いてしまいます。

 今の説明で理解してくれた方も多いと思いますが、そもそもライ角は地面に対してソール全体を接地させるために調整します。これは結果的にクラブの「抜け」に影響するわけですが、その付加要素としてボールの飛び出し方向にも影響を与えると思って下さい。つまり、捕まらないからアップライト、引っかかるからフラットにするというのはライ角調整の本筋から逸脱しているのです。冒頭で安易な変更という言葉を使いましたが、ライ角調整の本来の目的はクラブの抜けを良くするものだということを覚えておいてください。

アップライトのクラブを使っている人が多い傾向

 近年は各メーカーが、アイアンのソール形状にさまざまな工夫を凝らしています。あるメーカーの開発担当者の話では、アイアンで「最も重要」というくらい地面と唯一接するソールを大事にしています。しかし、そんな工夫を重ねたソール形状もライ角が合っていなければ、場合によっては効力が半減以下にもなります。ソール形状、ライ角の両方が相乗効果をもたらすことで、メーカーサイドが意図した本来の抜けを実現することが出来るのです。

 以上のことからもライ角を合わせることは、アイアンショットの精度を高めるために不可欠といえます。ただし冒頭でも話した通り、全てのアイアンのライ角を変更できるわけではありません。アイアンの素材によっては曲げられないモノもあります。ある程度スコアがまとまってきたら曲げられる素材のアイアンを購入し、自分に合ったライ角に調整することでパーオン率をさらに上げることも可能となることでしょう。

 ちなみに私のフィッティングデータでは日本のアマチュアゴルファーは適正よりもアップライトのクラブを使っている人が多い傾向にあります。何となくクラブが抜けない、左への引っかかりが多いという人はライ角が合っていない可能性がありますので、一度ライ角の測定をしてみることをお勧めします。

【解説】石井 建嗣(いしい・たけし)

香川県丸亀市で「ゴルフショップイシイ」を営むクラブフィッター。フィッター界の第一人者である浅谷理氏に師事し、クラブ&パターフィッター、TPIインストラクター、ゴルフラボ公認エンジニアの資格を持つ。ゴルフはHDCP「9.9」の腕前だが、自身のプレーより他人のクラブを“診る”ことに喜びを感じる職人肌。出演するYouTubeチャンネル「ズバババGOLF」では軽快なトークで人気を集める。

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