“2025年問題”よりもはるかに深刻…!? 会員制ゴルフ場に忍び寄る「変革の波」とは?

「団塊の世代」が後期高齢者となり、多くの問題が噴出すると考えられているゴルフ業界の“2025年問題”。しかし業界関係者にとっては、それ以上に切実な問題と考えられているのが「キャディーの確保」です。事情通の専門家に話を聞いてみました。

全組キャディー付き会員制ゴルフ場が悩む深刻な「キャディー不足」

 日本に約800万人いると推定される「団塊の世代」(1947~49年生まれ)が75歳以上の後期高齢者となることで、さまざまな社会問題が噴出すると考えられている “2025年問題”。

 ゴルフ産業を長らく支えてきたのは、まさにこの「団塊の世代」。それだけに、ゴルフ業界もその例外ではなく、2025年を境にさまざまな問題が表出してくるのでは……といわれています。

 例えば、後期高齢者となる75歳前後の年齢は、一般的に多くの人が体力や気力の衰えを感じ始めるタイミングだといいます。

晴れの日も雨の日も笑顔を絶やさず屋外で働くキャディーさん(写真は宮崎CC) 写真提供:加賀屋ゴルフ

晴れの日も雨の日も笑顔を絶やさず屋外で働くキャディーさん(写真は宮崎CC) 写真提供:加賀屋ゴルフ

 自ら運転してゴルフ場へ向かっていた人が運転免許証の返納を機にゴルフを卒業したり、また年金生活に入ったことでゴルフの回数を減らす人が出てきたり……と、日本のゴルフ人口が激減しかねない、さまざまな厳しい現実が想定されているのです。

「高齢者ゴルファーを取り巻く環境によって、一人ひとりが抱える問題は確かにさまざまあるのだと思います。でもゴルフ業界からみると、それ以上に深刻な問題がほかにもあるようです」と語るのは、四半世紀に渡り、ゴルフ会員権を専門に扱ってきた加賀屋ゴルフ代表の前田信吾さん。

「全組キャディー付きプレーを維持している名門コースやトーナメントコースなどの一部の会員制ゴルフ場にとっては、『キャディーの確保』が本当に頭の痛い問題だそうです」

「ゴルフ場を訪れるゴルファーはもちろん、キャディーさんたちの高齢化も進み、いずれは仕事を頼めなくなる。キャディーを一定数確保するために新規募集をかけたとしても若い人は集まらない……。キャディー付きプレーをギリギリ維持しているゴルフ場にとって、人材不足は本当に切実な問題なのです」

現場経験必須で体力勝負のキャディー職のモチベーションを支えるものとは?

 キャディーさんの仕事はご存じの通り、客の放ったボールを探したり、クラブを持ち歩いたり、また距離の測定やグリーン読み、ボールのお手入れ等々、多岐に渡ります。

 晴れの日も雨の日も暑くても寒くても、一日の大半を屋外で過ごせるだけの体力を求められ、さらにゴルフの知識と併せてコース全体を熟知していることも必要とされます。

 これらに加え、客をもてなしサポートする接客力も求められるので、キャディー職は本当にハードな仕事だといえるのではないでしょうか。

“名門”の誉れ高き鷹之台CC 写真:加賀屋ゴルフ提供

“名門”の誉れ高き鷹之台CC 写真:加賀屋ゴルフ提供

「鷹之台カンツリー倶楽部(千葉県)や小金井カントリー倶楽部(東京都)のような超名門であれば、キャディーさんの経済的報酬も、それ相応であろうとは思われますが……」と、前田さん。

「でもね、経済的報酬はもちろん大事だとは思うけど、僕はそれ以上に『名門ゴルフ場を支えるキャディー職に従事している』という、仕事に対する“誇り”が大事だと思うんですね」

「仕事に対する自信や熱い思いこそが、仕事を続けていくうえでの大きなモチベーションになっているのではないかと思います。いわゆる“名門”と呼ばれるゴルフ場で勤続年数の長いキャディーさんが多く見受けられるのは、 “名門”というブランド力が従業員を引きつけている側面もあるのではないでしょうか」

生き残りのカギとなるのは“ブランディング戦略”

 デジタル技術の進歩により仕事の選択肢が拡大、PCやスマホがあればリモートワークできる時代が到来した今、職業を選ぶ基準も大きな変化を遂げました。

 体力を要し、また比較的拘束時間が長いと思われがちなキャディー職は、若い人にとってはキャリアデザインしにくい職業でもあり、敬遠されることもしばしばあるようです。

 若い人はもちろん、キャリアがある人も、より快適な環境で仕事をしたいと考えるのは当然でしょう。だとしたら雇用主である企業側、ゴルフ場が考え方を変えていかねばならないのではないでしょうか。

ゴルファーなら誰もが憧れる名門、小金井CC 写真:加賀屋ゴルフ提供

ゴルファーなら誰もが憧れる名門、小金井CC 写真:加賀屋ゴルフ提供

「僕は、キャディー職がハードだというイメージが先行しすぎだと思います。実際に大変かもしれませんが、本当にやりがいのある素晴らしい仕事だと思います」

「ですが、なかなかなり手がいないのも現実。現在も全組キャディー付きプレーを維持している会員制ゴルフ場がこれから先も生き残るためには、考え方を少し変える必要があると考えています。これには大きく分けて2つの考え方があると思っています」と、前田さん。

「全組キャディー付きプレーを維持していくなら、まずはキャディーさんの離職率を下げるような取り組みが必要なのではないでしょうか」

「例えば、より柔軟な働き方ができる環境を整備したり、評価制度を導入して給与にきちんと反映させることで仕事に対するモチベーションアップを図ったり、また福利厚生に力を入れたり……、働き手にとって魅力的な試みは多ければ多いほどいいですよね」

「『さすが○○ゴルフ場! 名門は客だけでなく社員も大切にしているね』という声が聞こえるようになれば、ゴルフ場のイメージアップに繋がり、それがさらに“名門”のブランドを高めます。待遇がよく、勤務先としてのイメージがアップすれば、キャディーさんの定着率も上がるでしょうし、若い人も就職先として考えてくれるようになるかもしれません」

 一方、キャディー確保を諦めてセルフプレー主体の営業スタイルに切り替えざるを得ないコースもあるようです。

「セルフにはセルフのよさがあります。気軽ですし、キャディーフィがないぶん安く回れます。でもね、僕は安く回れるだけでは集客はできないと思うんですよ。せっかくキャディー付きプレーから大転換するわけですから、単なるセルフじゃなく、プラスアルファの魅力がほしいんです」

「例えば“18ホール完全スループレー”を全面に押し出してタイムパフォーマンスのよさをアピールしてもいいし、『最新のサウナ設備を完備』のようなものでもいいんです」

「キャディー付きプレーでなくなることで行かなくなる人が出てくるかもしれませんが、逆にほかの魅力に引きつけられて来る客もいるはず。僕は大のサウナ好きなので、通い詰めたくなるくらい素敵なサウナがあれば、それ目当てにセルフでも行っちゃうと思うけどなぁ(笑)」

「キャディー付きであろうがセルフであろうが、この先もずっとゴルフ場が生き残っていくためには、一般企業のような“ブランディング力”が必要だと思います」と、話を続ける前田さん。

「将来的には、日本もオーストラリアやアメリカのように年会費にプレー代金や食事代がインクルードされるスタイルのゴルフ場が増えていくかもしれません。まぁ、日本には独特の会員権市場というものがあるので、そう簡単には進まないかもしれませんがね」

「でもいずれにせよ、確実に変革の波は押し寄せているのではないかと感じます。どんなスタイルであっても、来場するお客さんが喜び、そこで働く人々にとっても魅力的なコースであり続けるための“ブランディング戦略”が大事。ゴルフ場が生き残っていくには、これが何より重要だと感じています」

【監修】加賀屋ゴルフ代表 前田信吾さん

ゴルフ会員権取引を行う加賀屋ゴルフ代表取締役。ここ10年は、2日に1回の割合でラウンドを楽しむゴルフの達人(2023年は年間219回!)。独自の視点を生かしたゴルフ場の比較&検討に定評アリ。

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