【サッカー日本代表 板倉 滉の「やるよ、俺は!」】第24回 板倉流チーム内コミュニケーション


W杯アジア最終予選・中国戦後の板倉(右端)

所属先のボルシアMGや日本代表では安定したプレーを見せ、今や周囲から慕われる存在となっている板倉 滉。持ち前の明るい性格とコミュニケーション能力は多くの選手やスタッフに評価されている。自然と人を引きつける秘訣、そのメソッドとは――。

■チーム不振時に同僚と焼き肉店へ

昔から〝コミュ力〟があるとホメられることがある。どちらかといえば人懐っこいほうだと思うし、変に意識することなく自然な形で人と接するのは好きだ。

でも、プロというのは人が好きというだけでレギュラーになれるほど甘い世界ではない。ましてや、僕が今いるフィールドは海外。言葉や文化の壁もある。

そもそも、プレーで結果を出さないとまったく相手にされない雰囲気は海外に来てから強く感じている。ただ、そんな中でも環境に応じたコミュニケーションをしていくことは大切だとも思う。

所属するボルシアMGでは、今季、名門復活に向けて成果を出しつつあるので非常にやりがいを感じている。リーグ第2節のボーフム戦は2-0で勝利。FWのクラインディーンストやMFシュテーガーなど、新加入組の活躍が目覚ましい。

彼らとは出会ってまだ3ヵ月弱だが、シュテーガーとはセットプレーで息が合うし、クラインディーンストとはボーフム戦の勝利後に思わずハグしてしまうほど仲が深まっている。

ドイツ人選手には、比較的シャイな性格の持ち主も多いが、今季新加入したドイツ人選手たちは経験豊富だからか加入時からすんなりチームに解け込めている。これまでの経験上、お互いの実力を認め合うだけの力量があるとコミュニケーションが取れるのは早い。

僕の場合は最初にドイツへやって来た2021年、オランダのフローニンゲンから移籍してきた日本人選手ということで、ドイツのクラブ(当時加入したシャルケ04)の選手たちからすれば「いったい誰?」という印象だったと思う。

だから、練習の段階から全力を出し切って、とにかく実力を認めてもらうしかなかった。チームメイトと距離が縮まるまでにはかなり時間がかかった覚えがある。

次にコミュニケーションを深められる段階、それは食事だったりする。ここ数年、ヨーロッパではWAGYU(和牛)ブームが熱い。

デュッセルドルフの日本人街においしい和牛を提供してくれる焼き肉店があり、昨季僕らボルシアMGが不振だった時期、WAGYUに興味津々だったGKオムリン(スイス代表)とMFバイグル(ドイツ代表)と3人で向かい、肉をつつきながら、チームに対して思うことを語り合った。

翌日、ふたりがロッカールームで「コウ、昨日のWAGYUはマジでウマかったなぁ~」と話してきたところ、それを聞いたほかの選手たちも食いついてきた。いつの間にか、WAGYU会が結成され、後日テーブルをふたつ予約。いい気分転換にもなった。

また、FWのオノラ(フランス人)も和食好きで、僕が専属シェフの池さん(池田晃太氏)を雇っていることを知り、わが家に何度も食べに来ているし、今や娘さんのお誕生日会向けの食事も池さんに注文するほどだ。

練習時には落ち着いて話せないことが、メシを食いながらであれば、不思議と深く話せる。人とのやりとりにおいて、食はリラックスした雰囲気の中でさらなる交流が図れる強力なツールだ。

■日本代表で話好きなメンバーはずばり......

同じ日本人同士であれば、言葉の壁がない分、コミュニケーションで苦労することはあまりない。ただ、込み入った話をするならば、やっぱり食卓というのは大事なのかもしれない。

日本代表の場合、招集期間が短く限られているので、会えばいつも皆で話し込む。

例えば、先日行なわれた北中米W杯アジア最終予選・中国戦の場合(9月5日)。8月31日にドイツをたち、9月1日(日本時間)の昼に代表の合宿地に到着し、ごはんを食べてから午後練習に参加。

まずは、時差ボケの調整程度の運動や体のケアに充てる。夕飯は近況報告などの雑談程度に済ませ初日を終える。招集メンバー全員でしっかり練習できるのはだいたい試合の2日前。

中国戦では9月3日あたりから練習の合間でも戦術確認などを時間を割いてミーティング。それは食事中でも続く。自分は最後までテーブルに残っているほうで、ずっと話し込んだりする。

よく話すメンバーといえば、レギュラーとはいかないまでもだいたいはDF(長友)佑都君、MF(南野)拓実君、そしてMF(堂安)律だったりする。

バーレーン戦(9月11日)のようにアウェーゲームの滞在先では、僕らはさらに密になる。

タフな環境でハプニングも多いからだ。今年6月にアジア2次予選で行ったミャンマーでは、スコールの後、水道の蛇口から茶色い水が出てきたことがある。そうしたハプニングすらも、最近は良い話題だと思うようになった。

とにかく和気あいあい、話は尽きない僕らだが、いざ練習や紅白戦になると、一変する。みんなインテンシティは高く、一切妥協せずに戦い抜く。

このメリハリはA代表ならでは。かつて、僕はアンダー世代の代表で、和気あいあいとした雰囲気を試合にもそのまま持ち込んでしまい、失敗した苦い記憶がある。だから、緊張感は保ちたい。

とはいえ、コミュニケーションはすべての根幹だ。サッカーに限らずチームワークを行なう上でやりとりがまったくないのでは物事は前に進まない。

無理する必要はない。ちっぽけな話題で構わないので、さらっと話をしてみるといい。きっとポジティブな展開が待っているはずだ。


板倉滉

構成・文/高橋史門 写真/JFA/AFLO

ジャンルで探す