【サッカー日本代表 板倉滉の「やるよ、俺は!」】第19回特別編 KCP in 石川 子供向け被災地復興支援イベントを開催!! 板倉滉 密着インタビュー


輪島中学校の生徒たちと板倉

アジア杯では悪戦苦闘、所属先のボルシアMGは下位争いと、試練の連続だった昨季。オフを迎えて休暇を取るかと思いきや、板倉滉の姿は石川県にあった。

「子供たちに希望を」

一昨年から、板倉はスポーツを通じて"社会貢献、子供たちに夢を与える、日本食文化を広める"という3つの目標を掲げたKo creation project(KCP)という活動を立ち上げ、展開している。社会貢献活動に心血を注ぐ彼を追い、秘めたる思いを聞く。

【写真】サッカー日本代表・板倉 滉が子供向け被災地復興支援イベントを開催

■イベント開催に込めた思い

今年の元日に発生した能登半島地震から半年がたった。被災地である石川県はほかの自治体からの協力も得て、復興を進めているが、めどが立たない地域もまだある。

そんな中、5月26日、社会貢献活動「Ko creation project(以下、KCP)」を主宰するサッカー日本代表・板倉滉が震災に遭った子供たちに元気と勇気を届けたいという思いから、金沢ゴーゴーカレースタジアム(以下、金沢スタジアム)でイベントを開催した。

「拠点にしているドイツで地震発生の第一報を聞いたときは、大変なことがまた起きてしまったのかと。やっぱり東日本大震災の記憶も消えていないですしね。次々と入ってくるニュースを見るたびに被害の大きさがわかってきて、居ても立ってもいられなかったです」

「ただ、自分はドイツでプレーしているし、パッと帰国して行動を起こすこともできなかった。じゃあ、自分なりにできることは何か? それを考えて、シーズンが終わったら、すぐにKCPのイベントをやろうと決めました」

KCPでは、板倉が3つの軸(社会貢献、子供に夢を与える、日本食文化を広める)を定め、47都道府県をすべて回ることを目標に活動を続けている。

昨年は板倉が育った神奈川県で第1回イベントを、かつてベガルタ仙台に在籍した縁から宮城県で第2回イベントを開催した。それぞれ100人以上の地元の小学生を招待し、共にサッカーを楽しんだ。


小学生チームとのミニゲームでは華麗な足技を披露

そして今回、甚大な地震被害に見舞われた石川県を選んだ。実は能登半島にも、板倉は縁があるという。

「川崎フロンターレのユースにいた高校時代、毎年夏になると七尾市和倉町で全国のクラブユースや強豪高校などが頂点を競い合う『MCCスポーツ和倉ユースサッカー大会』が開催されるので、出場するために訪れていて。僕にとって青春の思い出が詰まった土地でもあるんですよ」

「だから、当初は和倉でイベントを開催したいと考えていましたが、地震の影響によりサッカー場はとてもプレーできるような状況にないと聞いて。そこで候補に挙がってきたのが金沢スタジアムでした」

「関係各所のご厚意で使わせてもらえることになって、いざ足を踏み入れたら、とても設備が充実していてびっくりしました。サッカー専用スタジアムとして今年2月に開業したそうで、ピッチもきれいだし、ドイツでもなかなか見かけないぐらい、素晴らしい競技場だと思いました」


KCPの理念に共感した冨安健洋(右)と福田師王(左)がサプライズ参加

■盟友から受けたサプライズ参加表明

今回のイベントは3部構成で、第1部に招待されたのは県内の小学生約170人。14チームに分けられ、チーム板倉を含めてミニゲーム大会が行なわれた。チーム板倉には、川崎フロンターレ・ジュニア(U-12)時代からの親友・深谷星太氏や板倉の専属シェフを務める池田晃太氏、KCPスタッフが参加。

それでも、小学生を相手に4分14試合をこなすのはハードであるため、強力な助っ人が加わった。日本代表で板倉と共にCBとして活躍する冨安健洋アーセナル)と、23-24シーズンは板倉と同じボルシアMGで5試合に出場した若手FW・福田師王だ。板倉はふたりに、ただただ感謝しかないという。

「5月2日にイベントのリリースをSNSで公式発表したんですけど、それを見たトミ(冨安)からすぐに連絡があって『ちょっとだけ顔を出してもいいかな』と。(イングランド)プレミアリーグで優勝争いをしていて、超多忙なのにもかかわらず賛同してくれたんですよね」

「(福田)師王の場合は、同じクラブに所属していることもあって、普段から自然な感じでKCPのことは話していたんです。こういうことをやりたいと思ってるんだよねって。そしたら彼のほうから『ぜひ参加させてください』と」

「純粋にうれしかったですよ。こちらからお願いしたわけではないのに来てくれて。同じ気持ちを持ってくれているんだなって。彼らが参加してくれたことによって、結果、イベントの価値は上がったと思うし、石川県やKCPの理念に関心が集まるきっかけになったわけですから」

事実、冨安や福田という欧州の第一線で活躍しているプレーヤーがシークレットゲストで参加、登場するや否や会場は一気に沸いた。3人がスーパープレーを連発すると「すげぇ」という感嘆の声とともに子供たちの目が輝いたのは言うまでもない。休憩時間も板倉が中心となって子供たちとひたすら談笑していた。


板倉と冨安、福田は子供たちとのコミュニケーションを楽しんでいる様子だった

「みんな、今、使っているボールは4号球なの? メーカーは?(冨安に)あれ、プレミアリーグ公式球ってナイキの5号球だったよね?」

そんな雑談やプロリーグの貴重な話、子供たちからの質問が飛び交う。それに対して、第一線で活躍する選手たちがしゃがみ、子供たちと同じ目線で丁寧に話す。

「いや、むしろパワーをもらっているのは、僕らのほうなんです。それは毎回イベントをやるたびに感じますね。子供たちの無邪気で真っすぐな姿勢と接していると、原点に帰った気持ちになります」


輪島中学校とのガチ試合では強烈なミドルシュートを決めた板倉

■被災地の中学校の厳しい現状を知って

KCPの3軸のひとつ「日本食文化の普及」というコンセプト。板倉の日本食への関心は海外生活で高まったという。日本食のクオリティの高さを広めたい、そして何より子供たちの健康な体づくりのために。

そうした思いは第2部の昼食タイムで具現化された。昨年行なわれた神奈川県での第1回イベントでは、地元飲食店のキッチンカーや屋台などの出店はなかった。しかし、宮城県での第2回は出店数が9店舗、そして今回の金沢では13店舗と2桁に上った。

「スケジュールが立て込んでいて、各店を回ることができなかったのは残念でしたが、どこも大盛況だったと聞いて、素直にうれしいです」

板倉が控えめに表した喜び以上に、実際の反響ははるかに大きかった。例えば、金沢市内に構える手作り弁当のお店とKCPのコラボ。豚の生姜焼きやサバの塩焼き、切り干し大根など、板倉が試合前に食べる献立を再現したランチを専属シェフ・池田氏監修のもと提供したところ、瞬く間に完売した。

「今回、コラボしてくださったお店の皆さんともお会いできましたが、本当に温かい方たちで、すてきだなぁって思いました。お米は能登の契約農家さんが作ったコシヒカリ、能登塩といった地元の調味料を使った主菜や副菜など、各地方の良さを伝える意味でも、まさに僕たちが求めたコラボでした。県外から来られた観覧者の皆さんにも味わってもらう機会がつくれたのは非常によかったです」

着実に支援の輪は広がりを見せている。協賛企業は寝具メーカーの西川株式会社をはじめナイキ、水産業のKIEインターナショナル、日本遺伝子医学株式会社、そしてスポーツニュートリションブランドDNSの5社。観客も2000人近くまで膨らんだ。だが、仰々しさはまったくない。どこか手作り感のある、ぬくもりがこもった雰囲気。板倉の性格を投影しているかのようだ。

午後、第3部ではKCP運営がバスをチャーターして輪島市内にある輪島中学校の生徒23人を招待、チーム板倉とガチンコで15分ハーフの試合を行なった。

輪島市もまたこのたびの震災では死者106人、行方不明者3人を数え、844人がいまだ避難生活を余儀なくされている(5月21日現在、輪島市発表)。輪島中学校サッカー部コーチ・白崎太一氏はこう語ってくれた。

「最初は正直驚きました。現役の日本代表、板倉選手が本当に県内に来てくれるのかと。でも、こうして石川県のことを思ってくださって、本当にありがたいです。あの地震は忘れられません。正月休みで家にいたのですが、横にいた息子は『死にたくない!』と叫んでいました。それほど、すさまじい恐怖でしたよ」

「うちの部員たちは今もまともなグラウンドでサッカーができず、ゲートボール場を借りるなどしてプレーしています。道路も至る所がまだ傷んでいるので、ランニングもできません。震災を機に転校した生徒もかなりいます。板倉選手が開いてくださったこのイベントをきっかけに、生徒たちが少しでも前を向いてくれたらいいですね」


足をくじいた子供に寄り添う場面も

板倉もまた同じ思いである。

「輪島中の子たちがグラウンドで、ごく普通にサッカーができる環境にいないと聞いて言葉を失いました。これは日本国内の話ですからね。そういう子供たちに夢や希望を与えるという理念を実行しなければ、KCPをしている意味がないです。だから、必ず形にしたかった」

「まだまだそういう不自由な環境を強いられている子供たちはたくさんいると思います。この金沢のイベントだけで終わらせてしまったらダメ。心は石川県とともに。これからも続けていきます」

板倉の意思は子供たちにもしかと伝わっている。試合に参加した輪島中サッカー部の3年生はこう答えてくれた。

「僕は幼少期を金沢で過ごし、小6のときから輪島に住んでいます。板倉選手と同じCBをやっていて、まさか一緒にプレーできるとは思ってもいなかったです」

「しかもずっと笑顔だし、優しくて。『頑張ってね』って声をかけてくれました。プレーも速いし、うまいしさすがでした。僕も将来はサッカーに携わる仕事に就きたいです。もし、プロになれたら、板倉選手のように誰かに勇気を与えて励ます存在になりたいと思いました」

今後の板倉の動きに目を向ければ、2026年W杯北中米大会アジア2次予選のミャンマー戦(6月6日)とシリア戦(6月11日)が控えている。既に最終予選進出を決めている日本代表だが、板倉自身は消化試合だとはとらえていない。

「まだまだ僕自身は足りない部分が多い。この6月の代表期間は短いけれど、さらなるレベルアップにつなげていかないと。それはチーム全体としてもそうです。手を抜くことはできない。石川県の人たちにも頑張りを見せたいです」

常にがむしゃらに全力を出し切り、有言実行を貫く板倉の誠実さが老若男女の心をとらえて離さない。

「いやいや、元気を与えるつもりが、結局はいつも皆さんから元気をもらってるんですよね」

快活に笑う板倉だが、日本を代表するサッカー選手として、KCPの主宰として、人々とのパスワークはこれからも続いていく。

構成・文/高橋史門 撮影/山上徳幸

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