【セルフジャッジ競技の立会人】知られざる「ゴルフ競技委員」のお仕事「ツアー63試合を15人でカバー」「朝5時集合でコース確認」

米国女子ツアー「ショップライト・クラシック」でプレーする畑岡奈紗。初日4位と好スタートを切ったものの、第2ラウンド開始前に失格となった(AFP=時事)

 スコアもペナルティも選手自身による自己申告に基づくゴルフ競技だが、そのルールは複雑なうえに頻繁な改訂が行われている。加えて、自然環境のもとでプレーするゴルフでは想定外の事態が起きることもしばしば。米国女子ツアーでは畑岡奈紗が誤所からのプレーによるスコア誤記で失格となった。畑岡のケースは、初日にブッシュに打ち込んだボールの捜索が制限時間3分を超過していたことが、中継していたテレビスタッフからの指摘で明らかになり、翌日(2日目)の競技開始直前に失格を告げられるという、何とも複雑な経緯だった。

【写真2枚】JLPGAの競技委員・門川恭子氏はステップアップツアーでの優勝経験もある元ツアープロ

 裁定は大会の「競技委員」に委ねられるが、プレー中の選手をサポートし、競技規則をもとに大会の円滑な進行・運営を司る「競技委員」とはどのような存在なのか。その知られざる役割について、JLPGA競技委員の門川恭子氏に、『審判はつらいよ』の著者・鵜飼克郎氏が聞いた。(全4回シリーズの第1回。文中敬称略)

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 ゴルフ規則では委員会を「競技またはコースを管理する人、またはグループ」と定義している。そのため競技委員の仕事内容は多岐にわたる。シーズンが始まるとほぼ毎週のように全国各地で試合が開催される。選手と違って予選落ちがない競技委員のスケジュールは多忙を極める。

 2024年のJLPGAツアーは沖縄で開催される「ダイキンオーキッドレディス」(3月)を皮切りに、「ツアーチャンピオンシップリコーカップ」(11月)まで37試合あり、加えてステップアップツアー20試合とレジェンズツアー6試合がある。この63試合すべてを約15人の競技委員でカバーし、基本は競技委員長1人を含む6人1組で1つの大会を担当する。

 1996年のプロテストに合格し、ステップアップツアーでの優勝経験もある元ツアープロで、2012年からJLPGAの競技委員を務める門川恭子が言う。

「さらにプロテストやQT、小学生の大会もあるので、全員がフル稼働しても足りず、4人や5人でカバーすることもあります。おおよそ月に1回程度の空き週(休み週)ができるようなシフトになっています」(以下同)

 1週間のスケジュールもタイトだ。4日間競技では火曜日が公式練習日、水曜日にプロアマが開催される。試合は木曜日と金曜日の2日間が予選ラウンドで、土曜日と日曜日が決勝ラウンドだ。

「6人のうち2人が月曜日から現地入りし、あとの4人は水曜日に合流します。マンデー(月曜日開催の予選会)があれば、先乗りする2人は前日の日曜日にコース入りしますから、最終日の日曜日まで8日間もコースにいることになりますね」

競技委員は朝5時に集合してコースを確認

 試合の日は第1組がスタートする2時間前の朝5時までにコースに到着。6人のうち2人が朝食を済ませている間に、4人はアウトとインに分かれてグリーンコンディションを確認する。勝敗の鍵を握るパッティンググリーンに不整箇所がないかどうかの確認は、何より優先されるのだ。

「夜のうちに野生動物が走ったり、掘り返したり、あるいは鳥がついばんだりしてグリーンが荒れていないかを調べます。トラブルがあれば予定していたロケーションにカップを切れないため、朝イチで確認しなくてはなりません。

 問題なければ“今日のピン位置でOK”と報告し、選手やキャディに配る“本日のピンポジション”を印刷する。それが終わると4人が朝食をとり、スタート1時間半前に全員がカートに乗ってコースをチェックします。プレー中の選手がトラブルに遭遇しないように、競技委員の手ですべて確認しておかないといけません」

 1番と10番のティーイングエリアでスタート前の選手に提出用スコアカードを配布するのも競技委員の仕事だ。アウトは協会理事が、インは競技委員長が担当するケースが多い。また、試合中は競技委員長がクラブハウス周辺に待機し、コース内で待機する競技委員に無線機で指示する。

グリーンではピン位置の最終確認も

「残り5人の競技委員のうち2人は、スタート前にアウトとインに分かれてもう一度グリーンの確認に回ります。今日のピンが正しい位置に切られているか、グリーン周りに不整箇所がないかなどを確認するとともに、翌日のピン位置の状況を把握しておきます。暗くなってしまうと確認できなくなるので、前日のうちにチェックする必要があるのです」

 基本的に4日間のピン位置はセッティング担当者が決める。だが、天候や気温の変化でグリーンが硬くなる(速くなる)と、想定した場所に切れないケースもある。だからこそ、競技委員が最終確認するのだという。

「例えばヤマハレディスを開催する葛城GC(静岡県)のように傾斜がきつく、グリーンを速く仕上げてくるコースでは、ピンポジションを決めにくい。カップ位置によっては球が止まらない状況になってしまうので念入りな確認が必要です」

 残りの3人は手分けしてその日のティーセットやバンカーに動物の足跡があったり水が溜まったりしていないか、フェアウェイに水が浮いていないかなどをスタート時間までにチェックする。第1組の選手がプレーする前に、競技委員にはやることが山のようにあるのだ。

(第2回に続く)

※『審判はつらいよ』(小学館新書)より一部抜粋・再構成

【プロフィール】
鵜飼克郎(うかい・よしろう)/1957年、兵庫県生まれ。『週刊ポスト』記者として、スポーツ、社会問題を中心に幅広く取材活動を重ね、特に野球界、角界の深奥に斬り込んだ数々のスクープで話題を集めた。主な著書に金田正一長嶋茂雄王貞治ら名選手 人のインタビュー集『巨人V9 50年目の真実』(小学館)、『貴の乱』、『貴乃花「角界追放劇」の全真相』(いずれも宝島社、共著)などがある。ゴルフの競技委員のほか、野球、サッカー、大相撲など8競技のベテラン審判員の証言を集めた新刊『審判はつらいよ』(小学館新書)が好評発売中。

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