女性騎手の活躍はこれからの競馬には不可欠 蛯名正義調教師が語る女性騎手の強さと課題

蛯名正義氏が女性騎手の強さと課題を語る

 1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、女性騎手についてお届けする。

【写真】ブルーグレーのジャケット姿、馬と顔を付け合せる蛯名正義氏

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 JRA所属の女性騎手は現在7人。かつては女性騎手が勝てば見出し付きで報じられたものですが、最近では女性だからといって特に話題にならなくなりましたね。

 以前、男性の見習騎手の斤量軽減について書きましたが、女性騎手にはさらなる特典があります。デビュー時点では出馬表に★がつけられて4キロ減で、51勝して3キロ減。同じ▲でも勝利数は男性騎手とは違います。101勝目をあげるか、あるいは免許取得後5年以上たったあとも◇がついて2キロ減。常に男性騎手よりも軽い斤量で騎乗できるのです(いずれも平場競走のみ)。

 負担重量を2キロ減にするというのは、女性騎手の騎乗機会を増やすためにフランスで行なわれた施策ですが、実施してみたら女性ジョッキーの勝ち星が増えすぎてしまったので、その後改められました。

 なお、昨年から今年にかけて短期免許を取得して来日した外国人女性騎手には、「2キロ減」の特典はありません。

 日本の女性騎手は髪の毛を伸ばしている(まさにポニーテール!)騎手が多いこともありますが、遠目で見ると、ああ女性だなあというのが分かりますね。

 その分、馬は負担を感じることがない、つまり「あたり」が柔らかいというのは長所としてあるかもしれません。だから、走ることに前向きな馬などの場合は、斤量が軽いのもあいまって気分よく走れることがあるのだと思います。

 でも勝ち星が増えて、斤量差が小さくなってくると今までと同じではだめ。そこから進化していかなくちゃいけない。2キロという差があるからといって減量を生かした競馬だけをしていると、上のクラスになって、特別レースに乗ることになれば通用しなくなることが多い。駆け引きを覚えて、自分の馬のよい部分や悪い部分をどうやって相殺して結果に結びつけるかが大事になってきます。

 そのためには続けていくことが大事ですが、いくら本人がその気でも、クラスが上がって賞金が高くなっていくと、馬主さんも調教師もどうしてもリーディング上位ジョッキーに依頼するようになる。未勝利戦や1勝クラスを勝たせてくれた騎手を、ずっと乗せきれないというのはあります。これは女性騎手に限ったことではなく若手騎手全体に言えることです。

 地方競馬では、JRAより早くから女性騎手が活躍できて長く続けられています。これは、騎手の絶対数も関係しているのかもしれませんね。攻め馬をするにしても、レースにしても騎乗機会があって、経験を積むことができるからです。やはり騎手は数多く乗ることで様々なことを覚え、上手くなっていくのです。

 僕自身、騎手に関しては、男性女性関係なくフラットに見ているつもりです。特典のない特別競走に騎乗することもめずらしくなくなりましたし、彼女たちは「2キロ減だから勝つことができた」と言われるのは不本意だと思っているかもしれません。なので騎乗依頼する時、特に若手の場合は、そのタイミングや本人のメンタルを考えたいと思っています。

【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。

※週刊ポスト2024年5月3・10日号

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