蛯名正義・調教師「女性騎手の活躍は競馬の進化に絶対必要です」 2023年は6人全員が二桁勝利の活躍

騎手時代にリーディングジョッキーの座を争った岩田康誠騎手の手綱でエランが初勝利。父・ラブリーデイにはふたりとも騎乗したことがある(左から4人目が蛯名氏)

 1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、女性騎手についてお届けする。

【写真】ブルーグレーのジャケット姿、馬と顔を付け合せる蛯名正義氏

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 僕が競馬学校に入学したのが1984年。この頃はまだ女性がこの世界に入るという考え方自体がありませんでした。デビューしてからも男だけの世界で暮らしていたものです。

 そんな時代から40年ほどが過ぎ、2023年は永島まなみ騎手が50勝したのを筆頭に、6人全員が二桁の勝ち星をあげました。現場の女性が頑張って少しずつ状況を変えていったのです。女性の厩務員さんは騎手誕生以前からいましたが、今年はJRA史上初めて女性の調教師も誕生しました。

 競馬の世界も世の中の流れに沿っていかなくてはなりません。JRAの常勤理事は12人全員男性ですが、ここにも女性が入ってくることでしょう。最近では場内の実況も女性がやることがありますよね。

 女性ファンも増えているので、職業の一つとして見られるようになっていくことがとても重要なことです。ジョッキーや厩舎スタッフだけでなく、運営する側、あるいは伝える側など、ただ楽しむだけでなく、さまざまな職種に就きたいと思ってもらえなければ、競馬自体の進化もありえません。

 女性ジョッキーで思い浮かべるのは、アメリカで1980年代から活躍していたジュリー・クローン騎手です。この時代は、アメリカでも女性騎手は少なく、着替えなんかも男性と同じ部屋だったそうです。アメリカの三冠の一つベルモントステークスを女性として初めて勝ち、落馬で一度引退しながら3年後に復帰して、ブリーダーズカップのジュベナイルFを勝った。通算で3704勝もあげています。

 彼女はJRAのレースで初めて勝った女性ジョッキーでもあります。1990年にインターナショナルジョッキーズのために来日して2勝。ジャパンカップにも騎乗しましたし、僕も一度だけ同じレースに乗りました。追っている姿も、体つきも、腕っぷしの強さも半端じゃない。女性を感じさせないというか、「女性」を言い訳にさせない雰囲気がありました。

 短期免許で来日してくる外国人の女性騎手も、みなガッチリしています。僕の厩舎の馬を勝たせてくれたレイチェル・キング騎手もそうでしたし、ホリー・ドイル騎手も同じです。

 みなメンタルが強いし、気も強い。ドイル騎手はトム・マーカンド騎手と夫婦での来日でしたが、最初マーカンド騎手が勝つと、「あんたなんかに負けないわよ」って言って、口もきいてくれなかったそうです(笑)。

 ただ日本に比べて海外では女性騎手が当たり前のように活躍しているかというと、まだそこまではいっていない。日本より100年以上も前から競馬が行なわれているわりには、女性騎手はまだ少数派です。

 筋肉の質が違うから、男性の何倍も鍛えないとダメなのかなと思います。それでなおかつ、いい馬に乗せてもらえるようにならなければいけないわけですから、GIを勝っている女性騎手は少ないですね。日本にやってくるのは、そんな中でも各地域でリーディング上位になるなど実績を積んだ精鋭ということです。

【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。

※週刊ポスト2024年4月26日号

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