NBA挑戦で注目! バスケット日本代表・富永啓生が語る「人生を変えたロゴスリー」

日本人史上4人目となるNBAプレイヤーを目指しているのが、バスケットボール男子日本代表の富永啓生。高校卒業後はアメリカの有名大学へ進み、最大の武器であるスリーポイントシュートに磨きをかけ続け、パリオリンピックでの活躍も期待されている。トム・ホーバスヘッドコーチにも「特別なシューター」と讃えられる富永が、彼自身の原点とスリーポイントシュートへのこだわりを語る。

※本記事は、富永啓生×大柴壮平:著『楽しまないと もったいない』(ダブドリ:刊)より一部を抜粋編集したものです。

相手が強ければ強いほど燃えるのは学生時代から

バスケファンの皆さんはご存知の方も多いだろうが、我が家はバスケ一家だ。そのなかでも一番有名なのは父の啓之だろう。211㎝の大男で、日本代表でもプレーしていた。この夏は父に打ちっぱなしやショートコースに連れて行ってもらったが、ゴルフクラブが小さすぎて苦労していた。父が持つとドライバーも杖に見える。

母のひとみも、父と同じ三菱電機でプレーしていた。妹の千尋も、福岡の精華女子にバスケ留学している。

こんな家庭環境だから、僕は幼い頃からずっとバスケばかりしていた。我が家には、赤ん坊の頃の僕がボールで遊んでいるビデオがある。記憶に残っているのは3歳頃からで、父の試合の日に愛知県体育館(2018年よりドルフィンズアリーナ)へ連れて行ってもらい、コートサイドで遊ばせてもらったのを覚えている。

父はキャリア晩年でベンチにいることが多かったが、それでも現役時代を僕に見せることができたのはうれしかったことだろう。

富永家の教育は、どちらかと言えば父が叱り役で、母が見守り役だった。叱られる内容はメンタルのことだ。僕は毎試合、同じモチベーションで臨んでいるつもりだが、父から見るとやる気が感じられない日があったようで、そんな日は帰りの車でぶつぶつ小言を頂戴した。

大人になってから気づいたのだが、僕は強い相手のほうが燃えるタイプのようだ。先日、5人制のフル代表に招集された際も、楽勝ムードだったアジアカップのフィリピン戦(2022年)は、いまいち調子が上がらなかった。その代わり、ワールドカップ予選で完敗したあとに迎えたアジアカップでのオーストラリア戦では、腹の底から闘志が湧いてきた。

いま思えば、当時の父は僕のそういうところが気になったのかもしれない。しかし、こればかりは直しようがないので諦めている。当の本人は毎試合、頑張ろうと思っているのだ。楽な相手だからといって手を抜いているわけではない、ということは弁明しておきたい。

河村勇輝と一緒にプレーするのが楽しい

父と違い、母はバスケについてあまり口を出してこなかった。小さい頃は風呂に入ったあとに、また庭でバスケをして洗濯物を増やすこともしょっちゅうだったのに、文句ひとつ言われたことが無い。

バスケに関しては見守り役だった母だが、学校の成績については厳しかった。「勉強しないとあとで苦労する」と口酸っぱく言われた。その代わり、学業については父は何も言ってこなかった。両親が意図的にそうしたのかは定かではないが、バスケにしても勉強にしても、二人から一緒に責められることがなかったのはありがたかった。

▲米ネブラスカ大で心身ともに鍛えられた

両親の教えで共通しているのは、礼儀を重んじることだ。特にミニバス時代は、二人が僕のコーチだったこともあり、常に礼儀の大切さについて話していたのを覚えている。今でこそコートに入る前に一礼することはないが、心の中ではそういう気持ちを持って足を踏み入れているつもりだ。

妹とは5つ離れているが、昔は喧嘩が多かった。喧嘩といっても、内容は僕が妹を無理矢理バスケに付き合わせようとして怒らせる、といった他愛のないものだった。

高校に入ると僕が寮生活になったこともあり、両親に叱られることも、妹と喧嘩することもなくなった。母に成績表を見せないですむのは気楽だった。おかげでプレーに専念できたが、成績は悪かった。母の力は偉大である。

代表活動が始まると、家族とのんびり過ごした1か月が夢だったかのように忙しくなった。

5人制のフル代表には初招集となったが、河村(勇輝)がいたこともあって、あまり緊張せずにすんだ。河村とはアンダーの代表で共に戦った仲間だし、アメリカに行ってからもちょくちょく連絡を取り合っている。河村とプレーしたのは2年ぶりだったが、相変わらずとんでもないタイミングでパスが来るので、一緒にプレーするのが楽しい。

高校卒業時、留学についてアドバイスをもらった(渡邊)雄太さんと会うのも久しぶりだった。雄太さんから直接、NBAの話を聞くのはモチベーションになる。ディフェンスが売りの雄太さんでもKD(ケビン・デュラント)にボールを持たれたら、シュートが外れるのを祈るしかないと言っていたのが印象的だった。

僕のシュートは入りだしたら止まらない

オフコートだけでなく、コート上でも素早くチームにフィットすることができたと自分では思っているのだが、その理由はホーバスHCの戦術にある。

オフェンスでは、まずスリーポイントを狙えと言われている。フリーなのにスリーポイントを打たずに、パスをしようものなら怒られてしまう。割合で言えばアテンプト(シュートの試投数)の7割以上は、スリーポイントを打つのが目標だ。

相手がスリーポイントを防ぎにくれば、簡単にドライブできる。ヘルプが来ればキックアウト(ドライブ後にアウトサイドのプレーヤーにパスを出すこと)して、またスリーポイントを狙えばいい。狙いが僕の大好きなゴールデンステート・ウォリアーズに似ているので、理解しやすい。

ディフェンスのほうは、ウォリアーズよりも僕が所属するネブラスカ大学に似ている。スイッチのルールは若干違うが、ベースライン(コートを区画するラインのうち、短いほうのライン)のケアやヘルプの出方がほぼ同じなので、スムーズに対応することができた。

印象に残っているのは、オーストラリアとの2試合だ。最初の試合は、僕の5人制フル代表デビュー戦だった。緊張こそしなかったものの、ついにこの舞台まで来たかという感動はあった。特にクリーブランド・キャバリアーズ時代に、よく見ていたマシュー・デラベドバと同じコートに立ったのは感慨深かった。

デビュー戦で僕はスリーポイントを5本決めて18得点を挙げたが、日本は52対98と46点の大差でやられてしまった。アンダーでやってきた相手とは全くフィジカルが違うことに加え、オーストラリアのフォワードは、シュートやドライブの技術も持ち合わせていた。

貴重な経験が得られたものの、悔しい気持ちも強かったので、アジアカップでリベンジのチャンスが来たときは興奮した。この試合は、最初のシュートが入ったこともあり、序盤からリズムに乗ることができた。

僕はシューターとして安定したタイプではない。その代わり、入りだしたら止まらないタイプだ。この試合は、最終的にスリーポイントを8本沈め、33得点を記録した。残念ながら85対99の敗戦となってしまったが、怪我で雄太さんがいなかったことを考えれば、収穫は大きかったと思う。

▲勢いに乗ってきたら誰にも止められない!

代名詞にもなったロゴスリーで人生が変わった

この試合の終盤、僕はロゴスリーを決めた。スリーポイントラインより2~3歩下がって打つシュートをディープスリー、チームや大会のロゴが描かれているセンターサークルに足がかかるぐらい遠くから打つシュートをロゴスリーと言う。

ネブラスカでも頭文字を取ってロゴKと呼ばれることがあるぐらい、僕の代名詞になっているロゴスリーだが、じつは実戦で打ち始めたのは最近のことだ。公式戦で打ったのは、確か高校最後のウインターカップが初めてだったと記憶している。

そもそも中学校までの僕は、ほとんどキャッチ・アンド・シュートしか打っていなかった。もちろん、相手が飛べばワンドリからプルアップ(ドリブルからのジャンプシュート)、レーン(バスケットへ向かう道。ドライビングレーン)が空けばレイアップを試みたが、自分でクリエイトするというタイプではなかったのだ。

そんな僕が、今のスタイルに辿り着いた転機は2つある。1つは桜丘高校で林永甫コーチから、エイトクロスという戦術を習ったことだ。エイトクロスはシューター向けのオフェンスで、左右両サイドで味方のスクリーンを利用することができた。

ディフェンスの動きを読んで、アンダーに対してはポップ、チェイスしてきたらカール〔ディフェンスがスクリーンの下を潜ったらスリーポイントラインの外に出る、スクリーンの上から追いかけてきたらスクリーンを回り込んでバスケットゴールへカットする〕という細かい練習をみっちりとやったおかげで、状況判断がうまくなった。

もう1つの転機は、U16とU18というアンダーの大会に出場したことだ。それまでの僕は一度も代表に呼ばれることはなかったのだが、国際大会に出たことで一気に自信がついた。

身長が急激に伸びて、ポストアップ(ポストでバスケットに背を向けてボールを受けとること)のような、それまでは選択肢になかったプレーができるようになった時期も重なった。高3のウインターカップで、初めて僕を知った方も多いと思うが、それまでは無名で実績もなかったのだ。

話をロゴスリーに戻すと、打ち始めたきっかけは国際大会では簡単にスリーポイントを打たせてもらえないことに気づいたからだ。帰国後に遊び半分で遠くから打っていたら意外と入るので、ウインターカップで実戦投入した。その結果がウインターカップ得点王で、今では僕の代名詞になっている。

人生、何がきっかけで、どう転がるかわからないものだ。

〈大柴 壮平〉

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