他の人のアイデアは自分で考える前に聞くべき?それとも考えた後に聞くべき?実はその<順番>が重要だった

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「メタ認知」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「メタ」とは「高次の」という意味で、つまり認知(記憶、学習、思考など)を、高い視点からさらに認知することを指します。三宮真智子大阪大学・鳴門教育大学名誉教授によれば「メタ認知は自分の頭の中にいて、冷静で客観的な判断をしてくれる<もうひとりの自分>。活用次第で頭の使い方がグッとよくなる」だそう。先生の著書『メタ認知』をもとにした本連載で、あなたの脳のパフォーマンスを最大限に発揮させる方法を伝授します!

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【書影】三宮先生が「頭」をよりよくする方法を伝授!『メタ認知』

他の人がどんなアイデアを思いついたのか知るのは大切だけれど

ブレインストーミングによって、発想が活性化することは先に述べましたが、グループで行うブレインストーミングでは、グループ全体の発想が豊かになったとしても、個人の発想量の伸びをきちんと把握することはできません。

また、他の人がどんなアイデアを思いついたのかを知ることは大切ですが、先に人の考えを聞いてしまうと、どうしてもそれに影響されてしまい、自分で徹底的に考えることをしにくくなる可能性もあります。

したがって、自分の発想力そのものを高めるためのトレーニングは、やはり個別に行う必要があります。

そこで私たちは、他者の考えに触れる機会を確保しつつ、個人の発想力を高めるトレーニング法を開発しました*1。

「柔軟な原因推理」は日常の問題解決に役立つ

まず自分で、これ以上は無理というくらいまで考えた後、「他の人は、こんなことを考えましたよ」と、他者の考えをいろいろと呈示する方法です。ここでは、出来事の原因を柔軟に推理するという課題を用いました。

原因推理を問題としたのは、日常の問題解決に役立つからです。

私たちが何か問題に直面し、それを解決しようとする時、まずは、なぜそうした問題が起こったのかという原因をさまざまな面から柔軟に考えてみる必要があります。

たとえば、「いつもと同じようにカレーを作ったのに、今日はおいしくない。なぜだろう?」といった場合に、その原因を「きっと、カレー粉が足りないせいだ」と決めつけたなら、カレー粉をどんどん追加して、いっそうまずくなってしまうかもしれません。

もっと他の原因も考えてみるべきでしょう。たとえば、具材が古かったのかもしれない、鍋を替えたからかもしれない、しばらくカレー料理が続いて飽きてしまったからかもしれない、など。

「ああ、そんな考えもあったのだな」と

原因を一つしか考えつかなければ、それ以上どうしようもないのですが、他にもいくつか考えつくことができれば、いろいろな対策を講じてみることができます。

他にも、たとえば「サボっているわけではないのに、なぜか成果が上がらない」「規則正しい生活をしているのに、なぜか体調が優れない」といった場合にも、柔軟な原因推理が必要になります。

さて、私たちが行ったのは、問題を次々と変えながら、「まず自分で限界まで考えてみる→他者の考えに触れる→自分の考えを見直す」ということを繰り返すトレーニングです。

まず、実験参加者に対して先ほどのカレー問題のような原因推理問題を出して、できるだけたくさんの原因を各自で考えて書いてもらいます。その後、「他の人はこんな原因を考えました」として、用意した推理例を10例見せました。

参加者はすでに自分の考えを書き終えており、他の人の考えをまねることはできませんが、自分の解答と見比べ、「ああ、そんな考えもあったのだな」と気づくわけです。

アイデア数が増えただけでなく質の高いアイデアが出せるように

毎回問題を変え、いろいろな問題に対して「自分で考えた後、他者のさまざまな考えを知る」ということを繰り返す発想トレーニングを12回にわたって行いました。これは多面的な原因推理力を伸ばす上で、大変効果がありました。発想量すなわちアイデア数が増えただけでなく、質の高いアイデアが出せるようになっていたのです。

この結果から、思考を柔軟にするためには、やはり自分以外の考えに触れることが役立つということがわかります。

必ずしも実際に、他者が目の前にいなくてもいいのです。「他者との疑似的な交流」によって多様な考えに触れることで、多面的で柔軟な思考力を身につけることができます。

ただし、多様な考えに触れるのは、自分で徹底的に考え尽くした後にした方がよいでしょう。

「まず自分で考えてから、他者の考えに触れる」というこのトレーニングの基本手続きを、後に「IPE(Idea Post-Exposure)パラダイム」と名づけました。IPEとは、(他者の)考えに事後的に触れるという意味です。

多様な考えに触れるのは、自分で徹底的に考え尽くした後にした方がよい(写真提供:写真AC)

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*1. Sannomiya, M., Shimamune, S., & Morita, Y. (2000) Creativity training in causal inference: The effects of instruction type and presenting examples.Poster presented at the 4th International Conference on Thinking, University of Durham.

※本稿は、『メタ認知』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

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