「眠ると忘れてしまう」から睡眠を取らずにそのままテストを受けて…それって正しい?<眠り>を積極的に学習へ活用する方法

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「メタ認知」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「メタ」とは「高次の」という意味で、つまり認知(記憶、学習、思考など)を、高い視点からさらに認知することを指します。三宮真智子大阪大学・鳴門教育大学名誉教授によれば「メタ認知は自分の頭の中にいて、冷静で客観的な判断をしてくれる<もうひとりの自分>。活用次第で頭の使い方がグッとよくなる」だそう。先生の著書『メタ認知』をもとにした本連載で、あなたの脳のパフォーマンスを最大限に発揮させる方法を伝授します!

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【書影】三宮先生が「頭」をよりよくする方法を伝授!『メタ認知』

ロングスリーパーだった私

著者の母は、勉強にはうるさくないものの生活時間についてはけっこう口やかましく、健康のために早寝早起きをするよう、毎日言い続けていました。

私は血圧が低く、早起きが苦手である一方、宵っ張りというタイプで、子どもの頃から常に注意を受けていました。

「この子に早寝早起きをさせることは無理」と悟った母は、今度はせめて睡眠時間を長くとるようにと言い始めました。就寝が遅くなった翌朝は、いつまでも寝かせておいてくれましたので、私にとっては大助かりでした。

実は、私はロングスリーパーであり、睡眠不足にとても弱かったのです。しかも眠ることが大好きときており、就寝中にさまざまな夢を見ることも楽しみの一つでした。

睡眠と頭の働きの関係に気づいて

こうした体質や好みの問題とは別に、私はある時から、睡眠と頭の働きの関係に気づき始めました。

睡眠不足だと、まるで頭の中に霧が立ち込めているような状態で、頭が悪くなったように感じるのです。逆に、しっかり睡眠をとった翌日は、頭の中がすっきりと晴れ渡り、記憶力・思考力がよくなるという具合に、頭が活発に働いてくれるような気がするのです。

この頭の働きの違いは、授業中にいきなり指名されて先生の質問に答える時だけでなく、中間テストや期末テストなどの定期テストの時にも感じました。テスト勉強が少々準備不足であっても、前日にしっかり睡眠をとっておけば、何となく答えられるのです。

覚えるべきことをまったく覚えていない場合、完全に暗記を必要とする問題には無理でしたが、考えることで何とかなる数学のような科目では、睡眠の効果は歴然としているように思えました。

何かを覚えた後には睡眠をとった方がよい

実は、学習と睡眠の関係については、古くから研究のテーマになっていました。すでに1924年には、ジョン・ジェンキンスとカール・ダレンバッハが記憶に及ぼす睡眠の影響を調べており、睡眠の重要性を指摘しています。

彼らが用いた記憶材料は無意味綴りと呼ばれる覚えにくいものでしたが、記憶した後に睡眠をとった条件では50パーセント以上を覚えていたのに対し、睡眠をとらなかった条件では、10パーセント程度しか覚えていませんでした。

このことから、何かを覚えた後には睡眠をとった方がよいことがわかります。

記憶以外にも、睡眠をとる条件ととらない条件を比較した研究が紹介されています。

たとえば、コンピュータ画面上に瞬間的に呈示された複雑な模様の特徴を認識する課題や対連合学習課題(二つの語をペアにして覚える課題)、音程を聴き分ける課題、コンピュータシミュレーションを用いた空間課題など、実にさまざまな認知課題において、睡眠をとったグループがとらなかったグループよりもよい成績をあげたという数々の知見があることが示されました*1

「寝る間を惜しむ」のは得策とは言えない

さらに、中高生を対象とした調査研究では、平日の睡眠時間が7時間以下の生徒の成績が芳しくないという報告があります*2。

こうしたことから、睡眠時間を節約することは、学習にとって賢明ではないと言えます。

睡眠をとらずに起きていると、頭を使う認知的な作業の効率は低下します。「寝る間を惜しむ」のは得策とは言えません。

たまに、「テストの前日に猛勉強をしても、いったん眠ると、せっかく詰め込んだ知識を忘れてしまうのではないか」と心配して徹夜をする人がいるようですが、それでは肝心のテストの際に頭の働きが悪くなり、残念ながら逆効果になってしまいます。

睡眠時間を節約することは、学習にとって賢明ではない(写真提供:写真AC)

睡眠の効果について、きちんとしたメタ認知的知識を持ち、積極的に眠りを活用した方がよいでしょう。

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*1.鈴木博之・内山真 (2006) 睡眠と記憶向上 Brain Medical, 18, 1, 73-79.

*2.Wolfson, A. R., & Carskadon, M. A. (1998) Sleep schedules and daytime functioning in adolescents. Child Development, 69, 4, 875-887.

※本稿は、『メタ認知』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

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