母校近くに投打の最新機器そろえた施設 手がけた菊池雄星投手の思い

オープンした「King of the Hill」=2024年11月17日、岩手県花巻市、伊藤恵里奈撮影

 盛岡市出身で大リーグのアストロズで活躍する菊池雄星投手(33)が手がける屋内野球施設が17日、岩手県花巻市にオープンした。最先端のトレーニング機器を導入し、交流スペースなども備える。花巻は高校時代を過ごした「第二の故郷」。施設は母校の花巻東や花巻球場のすぐ近くだ。菊池投手は「プロ野球選手やメジャーリーガーだけでなく、社会を担うリーダーをこの場所から育てたい」と語った。

 施設名は「King of the Hill(キング・オブ・ザ・ヒル=KOH)」。「マウンドの王」という意味で、大リーグでは投手をたたえる言葉だという。

 菊池投手はオープニングセレモニーの始球式で、高校時代にバッテリーを組んだ千葉祐輔さんに向かって投げた後、「僕もこのマウンドでたくさん練習して、そして子供たちにもたくさん練習してもらって、マウンドの王様を目指してほしい。僕自身も頑張ります」と抱負を語った。

 施設の広さは約1400平方メートル。完全な屋内型で、雪が降る冬の間でも練習が続けられる。大リーガーやプロ野球選手が使う最新機器を備え、2人が投げられる「ブルペン」では投球フォームや足の重心のかけ方、投げた後の球の動きを追うことができる。「バッティングエリア」ではバットの振り方やボールを目で追えているかを調べられる。

 基礎体力を強化するためのトレーニングスペースも設けられ、専門のトレーナーがサポートする。

 鍛えるだけでなく、心身の疲労を回復させることにも重点を置く。練習後の疲労をとるためにサウナやジェットバスを設け、心地よいソファを備えたラウンジもある。

 大リーグを身近で感じてもらおうと、大リーガーのサイン入りボールや歴史を記したパネル、菊池投手が着用したユニホームなどが展示される一角もある。

 中庭は芝生の上でくつろいだりできるほか、講演会やワークショップ、パーティーなど交流イベントの場としても活用できる。

 菊池投手はセレモニーの後、「岩手にいると、誰かに会うことやハード面も含めて『本物』に触れる機会が非常に限られる。野球をする人以外にも、地域の方々や野球ファンに来ていただき、『ここに来ると野球が好きになる。ワクワクする』となる場所にしたかった」と語った。

 12月には幼児から中学生までの子どもたちを対象にした野球スクールをスタートする。コースにより月額1万3千~1万8千円(税別・予定)で、すでに100人以上の申し込みがあるという。

 父親の故郷が花巻市という縁から、クラウドファンディングを通じて家族で建設を支援したという、神奈川県川崎市の照井陽翔さん(12)は「大リーグで活躍するだけでも大変なのに、故郷や周りのことを思ってこんな施設を建てた菊池投手はすごい。菊池投手に『野球頑張ってね』と声をかけてもらい、帽子にサインをもらえた。将来、自分もこんな大人になりたい」と話していた。(伊藤恵里奈)

■「妥協はしたくない」 施設に思い込め

 菊池投手がオープニングセレモニーや記者会見で語った主な内容は次の通り

 プロに入ってからすぐに、「花巻や岩手に野球で貢献できたらいいな」と思っていました。ですが毎日、必死ですから、思いを持っているものの、いつかという感じでなかなか進めずにいました。

 施設をつくる構想が本格的に動き出したのは2022年の8月。先発を降ろされ、人生で初めて中継ぎピッチャーの経験をしました。

 「このままでは野球がどこまでできるか分からない」と危機感に襲われました。「米国だけでなく、日本でも24時間野球ができる場所がほしい」と思ったのです。シーズン中も含め、毎週のようにミーティングをして、施設の細部について決めていきました。

 最初は「ブルペンとトレーニングルームがあれば十分かな」という思いでスタートしたんですが、「やはり妥協はしたくない」という気持ちになりました。足し算ばかりして、これもほしいと気づいたらこのような施設になりました。

 「地域の方々が集まるコミュニティーの場所になれば」という思いもあり、カフェエリアや様々な展示物を置いたりなどの工夫をしてきました。

 大事なことは「僕もできる」と思うことです。ここ数年、岩手が野球で盛りあがっているのは、身近な人がプロ野球やメジャーに行ったり、甲子園で勝ち上がったりすることが起きているから。「あの人もできたんだから僕もできる」と思ってもらうことが、まず夢をかなえるファーストステップだと思います。

 ここを卒業した選手が、甲子園やメジャーリーグ、あるいは野球以外でも様々な形で活躍することで、子供たちの可能性が広がっていくと確信しています。(構成・伊藤恵里奈)

ジャンルで探す