大東の曽田監督に育成功労賞 軟式の指導で気付いた選手の体の守り方

曽田陽一さん(右)=2024年5月30日午後4時2分、島根県立大東高校、中川史撮影

 高校野球の発展に功績のあった指導者を日本高校野球連盟と朝日新聞社が表彰する「育成功労賞」に、島根県内から大東高校野球部の曽田陽一監督(54)が選ばれた。高校から硬式野球を始める選手の育成に力を注いできた。大東高で2022年、春季中国地区高校野球大会に出場し、3位入賞した実績も評価された。

 島根大学教育学部で保健体育を専攻。卒業後、野球部の監督やコーチ、部長として出雲高で8年、益田工業高で4年、三刀屋高で5年、選手を指導したが、「自分の指導力の無さ」で芳しい結果が出せなかった。「同じことの繰り返しでは、いけんのじゃないか」

 転機は指導者になって18年目に訪れた。三刀屋高から、その掛合(かけや)分校に異動になり、初めて軟式野球の指導を任されたことだ。

 不惑を迎える人生の節目にも重なった。中学までは硬式チームが少ない県内では、「軟式上がり」の選手が多い。軟式、硬式それぞれの特性、体への負担……。軟式野球に関わることになったことをきっかけに、「もう一度、学び直そう」と思った。

 かつての記憶もよぎった。小学4年で軟式を始め、硬式に変わった出雲高では1年夏からレギュラー入り。だが、その頃から腰痛が始まり、練習後には先輩とともに整骨院に通う日々だった。

 中・高・大で務めた主将の立場では、「痛い」とは言えず我慢。何より、満身創痍(そうい)で闘わなければ夏の大会で上位には進めない。「かけがえのない2年と少しの間、体を壊させないために何をすればいいか」

 自身も軟式の草野球チームに入った。中学野球以来の軟式ボールは、思った以上に軽く、弾み、バットも軽かった。チームには少年野球の指導者もいて、体づくりや練習方法のヒントを得るなどもした。

 体のバランスや柔軟性などは10歳ぐらいまでに形成されるという。だが、今の子は鉄棒やうんてい、ブランコで遊ぶ時間も少ない。体が硬く体幹ができていないから、硬式に変わるときに体が壊れる。

 投げる、打つ、その前に、体の使い方を理解させることが大事だと気付いた。基本は「下から上へ」。下半身を鍛え、股関節を軟らかく。そして体重移動の大切さを説く。

 「硬式を少し離れて、いろいろ挑戦するようになった」といい、フィジカルを鍛えるために様々なものを採り入れた。股関節の柔軟性向上に陸上競技のハードルも用いる。ジムなどにある器具を使った新しいトレーニングも次々に導入。「繰り返して身につけるものもあるが、違うアプローチもある」と考える。

 「甲子園にも出ていないし、プロ野球選手も育ててない。良かったのは、純粋に子どもらと野球を続けて来られたこと」。自宅では養護教諭の妻と2人の生活だ。「家庭は犠牲ですよ」。申し訳なさそうに首をすくめた。(中川史)

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