ACLを捨てなかったヴァンフォーレ甲府が見る夢。躍進を後押しする“縁起物”「そのままがいいな」【英国人の視点】

【写真:Getty Images】

●ACLを“捨てなかった”ヴァンフォーレ甲府

AFCチャンピオンズリーググループHで首位に立つヴァンフォーレ甲府は、12日にブリーラム・ユナイテッドとのアウェイゲームを控える。J2に身を置きながらアジア最高峰の舞台に挑戦する甲府は、その過酷な戦いに価値を見出し、ファンとともに思い出を作り続けている。(取材・文:ショーン・キャロル)
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 ヴァンフォーレ甲府のAFCチャンピオンズリーグデビュー戦となる9月20日のメルボルン・シティ戦(アウェイ)のメンバーが発表されたとき、漠然とした失望感が漂った。

 篠田善之監督は、前節の東京ヴェルディ戦に先発した11人全員を欠場させ、何人かのレギュラー選手はオーストラリアへの遠征を見送った。このJ2クラブはアジアの頂点を決める大会に真剣に取り組むつもりはなく、国内リーグを優先させるのだと多くの人たちは感じただろう。

 しかし、それは大きな間違いだった。

 最初の45分で、体力と自信に満ち溢れたアウェイチームは、1点か2点のリードを奪ってもおかしくない戦いを見せた。加入後2度目の先発出場を果たしたマイケル・ウッドや、2人合わせて2023年のJ2でわずか141分しかプレーしていない神谷凱士と飯島陸が、アジア最高峰のコンペティションに即座に馴染んでいたのだ。

 甲府が突破口を開くことはできなかったが、それでも甲府が勝ち点1を手にしたことは、誰もが予想していたことだろう。ピッチの上では甲府が圧倒し、スタンドでも甲府ファンのチャントが響き渡った。彼らのチャントは、がっかりするくらい閑散としたメルボルンレクタンギュラースタジアムに響き渡った。

●選手が感じる「J2がACLを戦う価値」

 その2週間後、甲府サポーターはさらなる歓喜の瞬間を迎える。国立競技場で行われたブリーラム戦で、長谷川元希が後半に劇的な決勝点を挙げ、甲府にACL初勝利をもたらした。

「僕らにとってこれは歴史に残る勝利です」と篠田監督は試合後に語った。「まず1歩踏み出せたという形からグループリーグ突破という夢を全員でかなえていけたらと思っています」

 試合を制するゴールを決めた長谷川もまた、自分たちのためだけにプレーしているわけではないことをチームメイトとともに十分に自覚する。地に足をつけてプレーすることに全力を尽くしていた。

「天皇杯を優勝しないと、J2でACLを戦うことはなかなかない。J2の代表として誇りを持っていますし、日本の限られたチームが出場している中で代表として戦っていますけど、甲府が1勝するのとJ1のクラブが1勝するのでは価値が変わってくる」

 ヴァンフォーレの外国籍選手の何人かはACL経験者であり、以前は2部リーグであることを理由に対戦相手から過小評価されていたかもしれない。ただ、好調なスタートを切ったことは、その状況が続く可能性は低くなったことを意味する。

 2015年に柏レイソルでACL準々決勝に進出したクリスティアーノは、「このことをロッカールームで他のブラジル人たちと話していたんだ」と話す。

●「僕らのことを真剣に考えていないのなら…」

「この後、対戦相手はさらに僕らをスカウトしてくるだろうし、試合はさらに難しくなるだろうね。今日はタイのチャンピオンを倒し、メルボルンとのアウェイ戦では素晴らしいパフォーマンスを見せた。でも、我々は準備をし続け、次のラウンドに進むことに集中し続ける必要があるんだ」

 ピーター・ウタカは、北京国安、サンフレッチェ広島に続いて、3つ目のクラブでこの大会に出場している。ブリーラム戦の勝利後に同じ話題に触れた。

「これは言わせてください。彼らは我々の前で眠り続けるかもね」とナイジェリア人ストライカーは言い、「我々はチャンピオンズリーグに出場する唯一のJ2クラブだから、彼らがそう考えることも責められないけど」と付け加えた。

「でも、彼らが僕らのことを真剣に考えていないのなら、それは彼らの問題だ。我々は彼らの真正面に立ち、我々がただ参加するためにここにいるのではなく、頂点に立つためにいるのだと分かってもらえるように努力し続けるよ」

 ウタカは甲府の次のホームゲームでもこのテーマに立ち返った。11月8日の第3節、ヴァンフォーレは浙江を4-1で破り、2-0で敗れた中国でのアウェイゲームのリヴァンジを果たし、ウタカ自身もゴールを決めて勝利に貢献している。

 甲府がこの勝利でグループHの首位に躍り出たことについて、彼は「驚くことはない」と語った。「J2のチームだから、彼らは僕らを過小評価していたのかもしれない。でも、我々は自分たちを過小評価していない。自信は十分にある」

「我々は自分たちの状況にまったく驚いていない。前と変わらず謙虚な姿勢を保ち、どんな成功にも惑わされることなくハードワークし続けなければいけない」

●鳥海芳樹の“縁起物”

 レギュラーシーズンはACLとJ2を両立のためにメンバーをフル起用していた篠田監督は、11月29日に行なわれた甲府のグループリーグ最終戦、メルボルンとの一戦をスリリングな3-3で終えた。

 これにより、12日のブリーラム戦に向けて状況は整った。甲府は勝利すれば、次のラウンドに進めることになる。

「アウェイは環境もすごく過酷ですし、アウェイ感を感じると思うんですけど、次は勝つしかないんで何が何でも勝ち点3を持って帰りたい」

 鳥海芳樹はホームでメルボルンと引き分けた試合の後でそう口にしている。その目標を達成するためにヴァンフォーレが直面する問題のひとつは、ACLのアウェイ戦でまだ得点を奪えていないという事実だ。しかし、ゴール前で絶好調の鳥海という男がいる。25歳のこの男は浙江とメルボルンの試合、そして、リーグ戦ではラスト3試合のうち2試合でゴールネットを揺らしている。

「あれ以来、彼は楽しみながらゴールを決めているよ」とウタカは鳥海が負傷した左手首に巻いているサポーターに触れ、笑いながら冗談を飛ばす。「剥がしてしまおうか! 大丈夫ならそのままがいいな。彼は得点し続けているからね」

 鳥海が“縁起物”をつけてプレーすることを願うが、火曜日にブリーラムで何が起ころうとも、ヴァンフォーレは今年のACLでの活躍を誇りに思うだろう。ヴァンフォーレはACLを見捨てるどころか、この大会を完全に受け入れ、その過程で選手とファンにとって忘れられない思い出を作ったのだ。

 そして、信じられないことに、それはまだまだ続くかもしれない。

(取材・文:ショーン・キャロル

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