【湘南ベルマーレ2023総括コラム1】かけ離れた目標と現実。「勝てるチームを作る」ための第一歩

【写真:Getty Images】

●綱渡りのような残留争いと乖離する目標

 湘南ベルマーレは25日に行われた明治安田生命J1リーグ第33節で横浜FCを1-0で下し、J1残留を決めた。一時は4か月も勝利から遠ざかり、最下位に沈んだ時期も長かったが、シーズン終盤に息を吹き返すというシーズンだった。そんな波乱万丈な2023シーズンを、複数回にわたって振り返る。(取材・文:加藤健一)
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 湘南ベルマーレはJ1に復帰した2018シーズン以来、J1に留まり続けている。ただ、残留を決めるまでは毎年、薄氷を踏むが如くギリギリの戦いの連続である。

 クラブ創設50周年の2018シーズンは名古屋グランパスに引き分けて最終節で、監督交代に揺れた翌シーズンは徳島ヴォルティスに引き分けてJ1参入プレーオフ決定戦で残留を決めた。降格枠がなかった2020シーズンは降格を免れ、4チームが自動降格となる2021シーズンも最終節でガンバ大阪に引き分けて1ポイント差で残留を決めている。昨季は12位フィニッシュだったものの、最終節まで残留を決められていない。

 残留が決まった状態で最終節を迎えることができたのは、実に8年ぶり。遠藤航永木亮太菊池大介らが中心となって8位という成績で終えた2015シーズン以来のことである。

「2年連続目標とかけ離れた順位、エンブレム問題や国立開催までのプロセス、繰り返されるミスや失態。組織の体制、クラブの在り方を見つめ直す時。強く大きい湘南ベルマーレを共に築くために。」

 今季のリーグ戦最終節でゴール裏に掲げられたメッセージだ。今回は論点を絞り、2年連続で「5位以内」という目標と現実との乖離に焦点を絞りたい。昨季はリーグ戦で初勝利を挙げるのに9試合を要し、その目標を早々に諦めることになった。今季は開幕節で大勝したものの、4か月勝利なしという長いトンネルに入り、結果的には「いつも通り」の景色となってしまった。

 結果だけを見れば、「5位以内」という目標は2年連続でかすりもしなかった。目標と現実があまりにも乖離していると、結果だけを見て言うことはできる。ただ、果たしてそのチャレンジに意味はなかったのだろうか。そして、その過程で湘南は何かを得ることができたのだろうか。

●得点力不足を解消する新たなピース

 昨季2得点だった大橋祐紀がハットトリックを達成し、昨季無得点の平岡大陽と新加入の小野瀬康介もゴールネットを揺らした。敵地で行われたサガン鳥栖との開幕節における5-1というスコアは、「5位以内」という目標に現実味を持たせた。少なくともこれは偶然ではなく、これまでの積み重ねが結果に結びついたと言っていいはずだ。

 湘南ベルマーレは2018年からJ1に残り続けているが、昨季までの5シーズンでリーグ戦174試合を戦い、174得点。どのシーズンも1試合1得点前後で、「得点力不足」という言葉は見慣れたものとなってしまった。

 2021年9月から指揮を執る山口智監督は、2022シーズンの新体制発表会見でこのように話している。

「(2021シーズンは)0-0の試合が8試合、1-1の試合が8試合あって、そこの数字をどうしていくかという話をしている。攻撃のところは勝利を前提に、45点から50点を目指そうという話をした」

 迎えた2022シーズンは序盤戦から得点力不足に悩まされ、34試合で31得点という数字に終わった。順位こそ12位だったが、最後の最後まで残留を争っている。ラスト4試合で7得点を挙げているが、そこまでの30試合ではわずか24得点で、1試合平均0.8得点という計算になる。5位を目指すには到底足りない数字だった。

 5人の新加入選手を迎えた今季はその反省を活かすべく、最高のスタートを切った。得点能力という部分で一皮むけた大橋と、昨季のチーム得点王でFIFAワールドカップを肌で感じた町野修斗の2トップを、新たな司令塔が操る。小野瀬康介がチームに溶け込むのに時間はかからなかった。山口監督の下で積み上げてきたチームに、ガンバ大阪時代にコーチと選手という間柄だった小野瀬が加わることで、新たな化学反応が生まれている。

「『こうしてほしい』と喋っているので、うまく(チームに)入れた。元々できているチームなので、そこに僕が合わせる形から入って、『こういうこともできる』というプレーを見せていって今の形になっている」

 その攻撃力のベースには、鳥栖が苦しめられたプレッシングがあった。対戦相手の指揮官は口を揃えるように湘南の脅威に触れている。

●相手から見た湘南ベルマーレの脅威

 横浜FCの四方田修平監督は「ある程度準備してきたが、湘南の前への圧力は想像以上に強い」、川崎フロンターレの鬼木達監督も「向こう(湘南)のプレッシャーに逃げるところがあった」と対戦後に話していた。湘南のミドルゾーンからの強烈なプレスと奪ってからのショートカウンターの精度は高かった。1-1で引き分けた川崎戦後、ゴールを決めた平岡は「本当にキャンプからやっていることが出せている」と手応えを感じていた。

 味方を活かす能力にも優れる町野と深さと時間を作れる大橋が小野瀬の前方にいる。そして、平岡や畑大雅、石原広教といった機動力のある選手たちが飛び出していくショートカウンターが猛威を振るった。第2節は勝利こそ逃したが2得点。かつて「湘南の暴れん坊」と呼ばれた過去を彷彿とさせる魅力を手に入れた。

 横浜FCとの第2節、川崎フロンターレとの第3節はともに引き分けたが、ともに主導権を握っていた時間が長いゲームだった。川崎戦後に山口監督は「立ち上がりから選手たちがやることを理解し、自分たちのストロングを理解して相手の良さを消しに行くところ、自分たちから奪いに行くところを前面に出してくれた」と成熟度の高さを実感している。

 華々しいスタートとは対照的に、湘南は町野修斗の4得点により4-1で勝利したガンバ大阪戦を最後に、長く深く暗いトンネルに入ることになる。勝利を掴むことができるまで、4か月という長い月日を湘南は過ごす。果たしてこのとき、チームに何が起きていたのだろうか。

【第2回に続く】

(取材・文:加藤健一)

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