ミスを誘う「絶好の狙い目」。Jリーグを例に学ぶ「プレスをかけるタイミング」【BoS理論】

【写真:Getty Images】

●能動的にボールを奪うには…

 日本サッカーが欧州から学ぶことは多い。その1つとして、ドイツ・ブンデスリーガの名門シュトゥットガルトで指導者、スカウトを歴任した河岸貴氏は「Ballgewinnspiel:ボールを奪うプレー」を挙げる。ここでは、その具体的な理論を記した同氏の著書『サッカー「BoS理論」 ボールを中心に考え、ゴールを奪う方法』から一部抜粋して紹介する。(文:河岸貴)
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 プレスのスイッチを入れるタイミング=口火(「プレッシングトリガー」)をこれまでいくつか述べてきました。以下に簡潔にまとめます。

①長い距離のパス(アプローチの距離:パスの距離に対して2分の1)
②浮き球のパス・マイナス方向のパス・バックパス
③プレスラインを越えようとするドリブル、パス
④相手の技術的ミス
⑤相手ゴール方向への背走、ドリブル
⑥自身のボールロスト
⑦プレスのハメどころ(大体は相手チームの一つのポジション)
⑧相手のスローイン

 これ以外にも、指導者の指向によって違ったタイミングがあるかも知れませんが、相手のミスを祈って待つしかない「なんとなく」ボールを追いかけることだけは避けなければいけません。そうではなく、コンパクトな陣形から正しいタイミングでプレスの口火を切り、最大限の速さを持って相手にアタックする。そこでは、プレスラインの高低は関係なく、ボール際で数的優位を作り出す。その目的は相手のミスを誘発し、ボールを奪うことです。決して相手のミス待ちではありません。アクティブ(能動的)にボールに対してオリエンテーション(方向づけ)するプレス(「Ballgewinnspiel:バルゲヴィンシュピール、ボールを奪うプレー」)です。

 さて、試合中に頻繁に起こる⑧相手のスローインがプレスのスイッチ? と意外に思われるかもしれませんが、プレーが途切れるため「Ordnung(オールドヌング:陣形を整えろ‼ 陣形の秩序を保て‼)」はしやすいはずです。また、スローインのルール上、スローワーの投げ方を見ればボールの出る方向が予測しやすく、さらに投げられたボールは浮き球となるため、受け手の処理は簡単ではありません。スローインからボールを奪い、一気にゴールに結びつけることは少なくないのです。特に敵陣の相手スローインの場面では何気なくプレーしがちですが、しっかりと意識し利用したいところです。

 2023年J1第18節、アビスパ福岡ヴィッセル神戸における神戸の得点シーン(60分)がわかりやすい例です。神戸は福岡のスローインに対してコンパクトに網を張り、前方に投げられたボールにDF酒井高徳選手がしっかりとプレッシャーをかけて、バックパスのミスを誘発します(図1)。

<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/11/24/post521698/" target="_blank" rel="noopener">【図解はこちらから】</a>

 そのボールをMF佐々木大樹選手が運び、マイナス気味のグラウンダーのパスを中央に入れ、FW武藤嘉紀選手がフィニッシュ。ボールを奪ってから約7秒のゴールでした(図2)。

 さらに、最も狙うべき相手スローインの例としては、2023年J2第25節、FC町田ゼルビア東京ヴェルディにおける町田のMF安井拓也選手がゴールしたシーン(38分)が挙げられます。

 町田のMF下田北斗選手は中央に入れられた距離のあるスローインを見逃さず、迷わずアタックをかけます(図3)。東京Vの選手はワンバウンドしたボールをトラップで落ち着かせられず、再び弾んだところでボールを奪取。前方にこぼれたボールをFWエリキ選手が拾い、安井選手にパス。安井選手はダイレクトで難なくゴールを決めました(図4)。

 こちらはボールを奪ってからわずか約5秒のゴールでした。このスローインは「プレッシングトリガー」として挙げられた条件を数多く含んでいます。まさに絶好の狙い目でした。

<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/11/24/post521710/" target="_blank" rel="noopener">【続きはこちら】図解で学ぶ「プレスの打開方法」。セカンドボールに対処する適切な位置取りとは【BoS理論】</a>

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