【アーセナル・分析コラム】なぜ不安定なのか? GKラヤとラムズデールの決定的な差。固執しすぎたプレーとは?

【写真:Getty Images】

●久しぶりの出番で犯してしまった「致命的なミス」

 プレミアリーグ第28節アーセナル対ブレントフォードが現地時間9日に行われ、2-1でアーセナルが勝利した。試合序盤からホームチームが主導権を握る展開が続く中で、前半終盤に失点。カイ・ハフェルツのゴールで勝ち点3を掴んだものの、久しぶりの出番となったラムズデールは致命的なミスを犯してしまった。(文:竹内快)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
<a href="https://www.footballchannel.jp/2024/03/10/post534784/4/" target="_blank" rel="noopener">【動画】アーセナル対ブレントフォード ハイライト</a>

 アーセナルにとって、いやアーロン・ラムズデールにとって最悪の出来事が起こったのは前半終盤のことだ。イングランド代表GKが蹴ったボールは鈍い音を立ててヨアヌ・ウィサに当たり、ゴールへ吸い込まれた。

 今季ブレントフォードからの期限付き移籍でダビド・ラヤを手に入れたミケル・アルテタ監督は、ラムズデールではなくラヤを正GKに採用。UEFAチャンピオンズ・リーグ(CL)でもラヤが起用されており、ラムズデールにはカラバオカップやスペイン代表GKが契約上出場できないブレントフォードとの試合でチャンスが与えられてきた。

 そのブレントフォードをエミレーツスタジアムに迎えるこの試合でも、予想通りラムズデールがスターティングメンバーに名を連ねた。GKスローから味方選手の好機を作り出すなど、好プレーを見せていた同選手だったが、前述のとおり前半終盤に自らのミスで失点。マンチェスター・シティとリバプールの天王山が行われる前に行われたこの試合の目標は勝ち点3を手に入れること。カイ・ハフェルツの決勝点が無ければ、ラムズデールが戦犯扱いされていてもおかしくない。

 なぜラムズデールは致命的なミスを犯してしまったのだろうか。

●ラムズデールは「ロングボールに固執している」
 
 ゴール前でバックパスを受けた時、GKに与えられる選択肢は2つある。1つ目はロングキックで前線や中盤の選手たちにボールを届けること。そして2つ目は周囲にいるセンターバックやサイドバック、そしてパスを受けに来た中盤の選手たちに短いパスでボールを供給することだ。

 それぞれメリットとデメリットを確認しておくと、1つ目の選択肢には素早くボールをゴール近くまで運ぶことができる利点がある一方、そのロングボールを必ず味方選手がマイボールにできるとは限らないという不確実性がある。反対に、2つ目の選択肢には距離の近い味方選手にパスをつなぐことができる確実性があるが、そのパスワークでミスを起こせばゴールに直結してしまうリスクがある。

 ラムズデールの場合は、試合の中で1つ目の選択肢を選ぶ傾向が高いように思われる。実際、英メディア『The Athletic』には、ラムズデールのエラーシーンに対して元プロGKマット・ピズドロフスキー氏の見解が書かれている。

「彼には右サイドにいたセンターバックにボールを渡す選択肢があるが、(中略)彼はロングボールに固執しているように見える」

 自陣ゴール前でボールを受けた時、ラムズデールの中ではロングキックで前線にボールを届けること、つまり1つ目の選択肢の優先順位が非常に高い。ここにラムズデールとラヤの決定的な差がある。

●ラヤとラムズデールの「決定的な差」

 身長183cmとGKとしてはサイズに不安があるラヤだが、彼が高い足元の技術を持っているのは周知の事実。このスペイン代表GKはゴール前でパスを受けた時、足裏でボールをコントロールしながらパスの出し所を探す動きを見せる。これはラムズデールには無い挙動だ。ラヤはラムズデールと比べて2つ目の選択肢を選ぶことが多いことに加えて、状況によっては1つ目の選択肢=ロングキックを選ぶこともできる。

 11月に行われた第13節ブレントフォード戦でも、ラヤに代わって出場したラムズデールは自陣ゴール前で大きなミスを犯した。ガブリエウ・マガリャインスからボールを受けた同選手は、パスの出しどころに迷っている間によろめき転倒。相手FWにボールを奪われ、あわや失点というシーンを作ってしまった。この時はデクラン・ライスのファインプレーで窮地を脱している。この苦い経験があってか、この試合のラムズデールは、相手FWにプレッシャーをかけられた時に「いなす」プレーやラヤのようなパスコースを「探す」プレーは見られず、真っ先にロングキックを選ぶことが多かった。

 失点シーンでもピズドロフスキー氏の指摘通り、彼の中でロングキック一択のように見えた。ウィリアム・サリバにボールを預ける選択をしなかったのは、第2の選択肢を選ぶことへの自信の無さの表れかもしれない。安易にロングキックに逃げたことで相手FWに狙われ、失点のきっかけを作ってしまった。

 それでも後半見事に立て直し、2度のビックセーブでゴールを死守したラムズデールは大きな称賛に値する。試合後にビーズ(ブレントフォードの愛称)のサポーターたちに見せた“煽るような仕草”は、神がかったセーブを見せた後に不敵な笑みを浮かべながらアウェイスタンドを煽る、かつてのラムズデールの姿を思い出させた。

 だが冷静になって考えれば、この試合でアルテタ監督はよりラヤへの信頼を深めたはずだ。ラムズデールが得意にしているプレーをラヤは苦手としていないが、ラヤが得意としているプレーをラムズデールは苦手としている。
アルテタ監督にとって、ゴール前から“繋ぐ”プレーに安定感があり、シュートストップにも定評があるスペイン代表GKをファーストチョイスにすることにもはや揺らぎは無い。そのため今季最後のブレントフォード戦を終えた今、この試合がラムズデールにとってアーセナルでのラストマッチになってしまう可能性は高いだろう。シーズン終盤にGKの序列が変わるとは考えにくく、ラムズデールが今夏にアーセナルを退団する決断をしても不思議ではない。

 ラムズデールとの良き思い出は、このまま書き換えられることなくセピア色に染まってしまうのだろうか。

<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/10/25/post518309/" target="_blank" rel="noopener">冨安健洋が解決した今季のアーセナルの課題。完全スタメン奪取は近いのか【CL分析コラム】</a>
<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/05/10/post502215/" target="_blank" rel="noopener">給料高すぎ!? アーセナル、年俸ランキング1〜10位</a>

ジャンルで探す