どうなる?12.8最終決戦で決まるJ1王者…広島の快勝で神戸と町田の3チームに優勝の可能性が残る大混戦…神戸が湘南に勝てば自力V

 J1リーグ第37節の残り1試合が1日にエディオンピースウイング広島で行われ、今シーズンの本拠地最終戦に臨んだサンフレッチェ広島が、すでにJ2降格が決まっている北海道コンサドーレ札幌に5-1で大勝。連敗を3で止めて2位をキープするとともに、勝ち点69で首位に立つヴィッセル神戸との差を1ポイントに縮めた。同66で3位につけるFC町田ゼルビアまでの3チームに優勝の可能性がある大混戦で、8日の最終節にどのようなドラマが待っているのか。

 神戸が最終節で引き分け、あるいは負けると逆転劇の可能性が

 今シーズンのJ1リーグ優勝が、最終節を残して3チームに絞られた。
 カヤFCとのAFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)を、28日に敵地フィリピンで戦った日程が考慮され、1日に1試合だけが行われたJ1リーグ第37節で広島が5-1で札幌に快勝。連敗を3で止めて2位をキープした結果、首位の神戸から3位の町田までが勝ち点3ポイント以内にひしめき合う大混戦が生まれた。
 ホーム最終戦に加えて、試合後には今シーズン限りでスパイクを脱ぐレジェンド、元日本代表MF青山敏弘(38)の引退セレモニーを控える広島は、開始わずか8分にFW加藤陸次樹(27)のゴールで先制。42分に追いつかれたものの、すぐにMF東俊希(24)が直接FKを決めて勝ち越し、後半には一気に3ゴールを追加した。
 前節まで今シーズン初の3連敗を、特に直近の2戦は無得点で喫していた広島とは別人のようなゴールラッシュ。3点目となった後半10分のMFトルガイ・アルスラン(34)のPKを獲得し、同34分のFWピエロス・ソティリウ(31)の4点目をアシストした加藤は、4試合ぶりの白星に「素直にうれしい」と声を弾ませた。
「優勝を目指すうえで絶対に勝たなくちゃいけない試合で、最後まで本当にいいサッカーができた。ここのところ得点力が失われていたので、その意味でもあの先制点は僕自身にとって大きかったし、チームの活力にもなったと思う」
 残り2試合となった時点で神戸が勝ち点68で首位に立ち、2位に3ポイント差の65で広島が、3位には5ポイント差の63で町田が追走。この時点で8ポイント差の60で4位につけるガンバ大阪以下の優勝がなくなっていた。
 迎えた30日の今節。敵地に乗り込んだ神戸は、勝って残留を決めたい柏レイソルに開始5分で先制され、黒星寸前まで追い詰められた後半アディショナルタイム10分に、FW武藤嘉紀(32)が起死回生の同点ゴールを決めて1-1で引き分けた。
 2試合連続のドローで、延べ8チーム目の連覇を目指すうえでは足踏みしているように映る。しかし、同点直前にはFW大迫勇也(34)がPKを外すなど、敗戦を覚悟した絶望的な状況からもぎ取った勝ち点1に、武藤も思わず声を弾ませている。
「ラストワンチャンスが来るかどうか、信じ切れていなかった自分もいた。最低限の結果だと思いますけど、それでもこれ以上の勝ち点1も正直、存在しない」
 勝負どころで2分け3敗と5試合連続で白星から遠ざかり、その間に首位から陥落。広島との天王山でも完敗を喫した町田は、東京・国立競技場で行われたFC東京との前節に続いて、京都サンガF.C.との今節でも完封勝ちを収めた。

 

 

 今シーズンの町田は先制した試合で17勝1分け2敗、そのうち完封勝ちが実に12回を占める。6度のスコアレスドローを含めて、リーグ最少の31失点をベースに上位をキープしてきたJ1初挑戦の軌跡を、高校サッカー界の強豪、青森山田から異例の転身を遂げて2年目の黒田剛監督(54)は満足そうに振り返る。
「先制すれば自分たちがさらにギアをあげて、やるべきプレーを徹底できる点を選手全員が共有しているので、最後まで危なげなく対応できている」
 最終節は神戸がホームのノエビアスタジアム神戸に湘南ベルマーレを迎え、広島がガンバ大阪のホーム・パナソニックスタジアム吹田に、町田が鹿島アントラーズのホーム・県立カシマサッカースタジアムにそれぞれ乗り込む。同時に神戸と広島は最終節前に、前者は敵地・韓国で、後者はホームでACLに臨む過密日程とも戦う。
 神戸が湘南に勝てば勝ち点を72に伸ばし、広島と町田の結果に関係なく、リーグ戦を初制覇した昨シーズンに続いてホームで美酒に酔える。湘南のホームで対峙した4月の第9節では、後半終了直前に武藤がゴールを決めて1-0で辛勝している。
 勝ち点1ポイント差で追う広島は、4位のガンバに勝ったうえで、神戸が引き分け以下に終わった場合に逆転優勝が決まる。さらに広島は得失点差も「+31」と、神戸と町田の「+22」に大差をつけている。このため神戸が負けて、広島が引き分け、さらに町田が勝って3チームが勝ち点69で並んだ場合でも優勝はほぼ確実な状況だ。
 町田はまず5位の鹿島に勝ったうえで、神戸と広島がともに敗れれば勝ち点69で神戸と並び、得失点差で神戸を上回って史上初となるJ1初昇格、即、初優勝の快挙を達成する。鹿島にはホームで対戦した3月の第3節で、パリ五輪代表FW平河悠(23、現ブリストル・シティ)が決勝ゴールを決めて1-0で勝利している。
 1ステージ制となった2005シーズン以降のJ1リーグで、勝ち点3ポイント差以内に3チーム以上がひしめく混戦で、最終節を迎えるのは10年ぶり6度目となる。そして、過去5度のうち2008シーズンの鹿島、2011シーズンの柏、2014シーズンのガンバが1位の座を譲らずにそのまま優勝を果たしている。

 

 

 逆転劇が起こったのは2度。2005シーズンは首位のセレッソ大阪からガンバ、浦和レッズ、鹿島、ジェフ千葉の5チームが勝ち点2ポイント差で迎えた最終節で、試合終了直前の失点で引き分けたセレッソに代わってガンバが初優勝を達成。ガンバを含めた4チームがすべて勝ったため、セレッソは5位でシーズンを終えた。
 2013シーズンは勝ち点62の横浜F・マリノスを2ポイント差で広島、3ポイント差で鹿島が追う状況で迎えた最終節でマリノスが前節に続く痛恨の連敗。鹿島との直接対決を制した広島が大逆転での連覇を達成し、マリノスの司令塔・中村俊輔(46、現・横浜FCコーチ)が人目をはばからずに号泣する姿が歴史に刻まれた。
 当時の広島でDF塩谷司(35)とともに先発フル出場し、引退セレモニー前のこの日の札幌戦でも後半37分からピッチに立った青山は、思うように勝ち点を伸ばせない首位のチームへプレッシャーをかける、最終節へ向けた状況が2013シーズンに似てきたのでは、という質問にこう答えている。
「最後の最後までどうなるかわからない。ただ、自分たちはそう(優勝)できる力を持っていると信じている。僕が言うのならば、間違いないんじゃないですか」
 上位3チームが置かれた状況的には、2011シーズンと酷似している。
 前節で首位の柏が引き分け、勝ち点1ポイント差で2位の名古屋グランパス、さらに1差で3位のガンバがともに勝って迎えた最終節。結果は3チームがしっかりと勝利をゲットし、J2から復帰したばかりの柏が初優勝を決めている。あくまでも前例を参考にすれば、神戸が逃げ切る確率が高いといってもいいだろう。
 そのなかで、ひとつだけ共通しているのは、3位からの大逆転劇は現時点でないという点だ。今シーズンでいえば、町田が逆転優勝を達成するパターンはひとつだけ。確率的にも厳しいが、キャプテンのDF昌子源(31)は京都戦後のホーム最終戦セレモニーのスピーチで、奇跡への絶対条件となる鹿島戦の勝利へ向けてこう語っている。
「自分たちがもっている、すべてのものを鹿島にぶつけたい」
 データや前例がある一方で、サッカーを含めたスポーツが、筋書きのないドラマだといわれるゆえんが何度も繰り広げられてきた。予測不能の最終節は、神戸と広島、そして町田を含めた20チームが臨む全10試合が、8日14時に一斉にキックオフを迎える。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

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