森保ジャパンが敵地で無敗キープ…GK鈴木彩艶のスーパーセーブがインドネシア監督を「敗因は先制点を奪えなかったこと」と悔しがらせる
2026年北中米W杯のアジア最終予選第5節が15日に行われ、日本代表は4-0でインドネシア代表に快勝し、通算成績を4勝1分けの勝ち点13に伸ばした。敵地・ジャカルタに乗り込んだ日本は前半9分、カウンターから相手に放たれた決定的なシュートをGK鈴木彩艶(22、パルマ)がスーパーセーブ。攻めては前後半に2ゴールずつを奪って無敗をキープした。2位の豪州代表らに勝ち点7差をつける独走体勢に入った日本は、19日に敵地・厦門で中国代表と対戦する。
開始9分の大ピンチを救う
スーパーセーブが森保ジャパンを救った。
前半開始早々の9分。日本の攻撃を食い止め、自陣の中央でセカンドボールを拾ったインドネシアのMFトム・ハイェ(29、ヘーレンフェーン)が、日本の最終ラインの背後へボールを大きく蹴り出した直後だった。
雨が降り続けるあいにくの天候にもかかわらず、約7万人ものサポーターで埋まったジャカルタのグロラ・ブン・カルノ・スタジアムが大歓声で揺れた。ボールの落下点に入ったDF板倉滉(27、ボルシアMG)が軽率な守備で対応を誤り、MFラグナー・オラットマングーン(26、デンデル)に入れ替わられたからだ。
ペナルティーエリアの右から、日本ゴール前へ迫っていくオラットマングーンの視界にはキーパーの彩艶しか映っていない。しかも、その眼前に迫った時点で、右足でシュートを打つと見せかけて、左へもちだすフェイントを仕掛けた。
しかし、突如として訪れた大ピンチにも、彩艶はまったく動じなかった。
オラットマングーンのフェイントを見極めながら、冷静沈着にステップを踏む。そして至近距離からシュートを放たれた刹那には体を沈めて、股間のスペースを封じる。ボールは彩艶の右足で防がれ、左サイドへのこぼれ球に変わった。
試合後のフラッシュインタビュー。日本の森保一監督(56)は、完全アウェイと化した敵地で先制される最悪の展開を未然に防ぎ、前後半に2ゴールずつを奪う快勝の呼び水となった彩艶のスーパーセーブを称賛した。
「最初のビッグチャンスはインドネシアにひとつ、ふたつあったと思いますけど、そこをチーム全体でカバーして、彩艶が最後に止めてくれたところ。耐えないといけないところで、耐えられたことが勝因だったと思います」
さらにインドネシアメディアの『KOMPAS.com』は、ヨーロッパでプレーするハイェやオラットマングーンをはじめ、9人もの帰化選手を先発させながら0-4で敗れた、韓国出身のシン・テヨン監督(54)のコメントを伝えている。
そこには彩艶が演じた“神プレー”の価値が凝縮されていた。
「序盤に絶好のチャンスが訪れたが、ラグナー(・オラットマングーン)がうまく生かせなかった。それが負けた理由だ。もし先に得点できていたら、結果は変わっていたかもしれない。しかし、負けたからといって、私は言い訳をしたくない」
浦和レッズでなかなか出場機会をえられなかった彩艶は昨夏、完全移籍のオファーを受けたプレミアリーグの名門、マンチェスター・ユナイテッドに断りを入れ、ベルギーのシントトロイデンへの期限付き移籍を選んだ。
その決断は注目を集めた。
将来の夢としてプレミアリーグでのプレーを公言しながら、巡ってきたチャンスを自ら遠ざけた彩艶は、急がば回れ、の思いを込めた決断だったと明かしている。
「マンチェスター・ユナイテッドで試合に出られるレベルにあるのかどうかを考えたときに、日本で試合に出られていない自分ではなかなか難しいと思いました。ただ、現時点でプレミアリーグに行けなくても、数年後には必ず行きたいと考えているので、着実にステップアップするために今回の移籍を決断しました」
新天地でレギュラーをつかんだ彩艶は昨シーズン途中に完全移籍へ移行し、さらに同オフにはセリエAへ復帰するパルマからのオファーを勝ち取った。
パルマで昨年8月に引退したキーパー大国イタリアのレジェンド、GKジャンルイジ・ブッフォン(46)の存在を引き合いに出しながら、スペインのスポーツ紙『AS』はインドネシア戦の直前に、彩艶の現状を「サッカー界の偉大なるレジェンドの一人からパルマを引き継ぎ、加入するやいなや先発の座を射止めた」と伝えている。
「彼はわずか数カ月で素晴らしいポテンシャルを示した。23歳以下のゴールキーパーでは、今シーズンのトップ5に入るといっていい。昇格組とあってリーグ戦ではすでに13失点を喫しているものの、約73パーセントを数えるセーブ率は悪くない数字だ。また、少しずつではあるものの、足下のパス精度も向上している」
森保ジャパンでは、昨年10月のチュニジア代表との国際親善試合からレギュラーを獲得。しかし、今年1月のアジアカップでは準々決勝で敗退するまでの全5試合で失点を喫するなど、安定感を欠くパフォーマンスは批判の対象になった。
なかには誹謗中傷に加えて差別的な言葉も含まれていた状況を受けて、彩艶は毅然とした態度とともにこんな言葉を残している。
「差別的な言葉といったものは、控えていただきたいと思います。ただ、自分としてはそこに負けるつもりはないし、結果で見返してやろう、という気持ちです」
言葉通りにシントトロイデンからへのステップアップを果たし、いまやパフォーマンスがヨーロッパ全体から注目を集める。パルマでの日々を彩艶はこう語る。
「サポーターを含めた熱の高さをさらに感じている。ミスをすれば当然叩かれるし、逆にいいプレーをすれば称賛される。日本ともベルギーとも違って本当に特殊というか、サッカーに対する熱量が本当にすごいし、そのなかで自分自身も強くなれている」
アジア最終予選が幕を開けた9月シリーズから背番号「1」を継承した彩艶が、前半の5試合で喫した失点は豪州戦でのオウンゴールだけ。4勝1分けと無敗をキープして勝ち点を13に伸ばして首位を独走し、同6で2位グループに並ぶ豪州、サウジアラビア、中国に大差をつける日本の最後尾でフル出場を続けている。
もっとも、開始早々にスーパーセーブを演じたインドネシア戦の後半にはクロスをキャッチし損ね、さらには飛び出しながらもボールに触れない場面もあった。身長190cm体重98kgの巨躯にまだまだ荒削りな部分とそれらを補ってあまりある潜在能力とを同居させながら、彩艶は一歩ずつ日本の守護神に近づいていく。
11/16 06:44
RONSPO