「発表まで黙ってろは虫が良すぎる」アビスパ福岡の次期監督問題でスポンサーにまで抗議殺到で困惑のクラブが声明発表も否定も肯定もせず

 次期監督人事を巡り、サポーター団体から前代未聞の白紙撤回を求められているアビスパ福岡が8日、公式HPなどで声明を発表し、クラブのスポンサー企業への問い合わせや個人の主張などが殺到し、一部業務に支障をきたしている状況を謝罪した。サガン鳥栖監督時代のパワーハラスメント行為が複数認定されている、FC町田ゼルビア金明輝ヘッドコーチ(43)の新監督就任報道に関しては、否定も肯定もせず具体的な言及を避けた。

 スポンサーの一部業務に支障

 次期監督を巡る一部スポーツ紙の報道をきっかけとして、前代未聞の状況に直面していた福岡が騒動が表面化してから初めて声明を発表した。
 クラブの公式HPおよびX(旧ツイッター)上で、福岡の川森敬史会長、結城耕造社長両名で発表された声明は「来季の監督人事に関する一部報道について」と題され、まずはクラブのスポンサー企業への謝罪の言葉が綴られていた。
「このたび、一部報道にて来季の監督人事に関する記事が取り上げられ、弊クラブへ多くのご意見やお問い合わせをいただいておりますこと、心より感謝申し上げます。また今回の報道により弊クラブのスポンサー企業の皆様に個別の問い合わせや、個人の主張等の連絡が入っており、一部業務に支障が出ておりますことお詫び申し上げます」
 福岡ではJ2を戦っていた2020シーズンから指揮を執り、同シーズンに決めた5年ぶりのJ1昇格やその後のJ1残留に加えて、昨シーズンにはクラブ史上の初タイトルとなるYBCルヴァンカップ制覇を達成した長谷部茂利監督(53)が契約延長オファーを固辞。今シーズン限りで勇退すると10月31日に正式発表された。
 後任監督の人選が進められていたなかで、今シーズンのJ1残留を決めた翌4日に、町田の金ヘッドコーチの就任が決定的になっていると一部スポーツ紙が報じた。この動きに福岡最大のサポーター団体、ウルトラオブリが反応した。
 公式Xを6日までに更新したウルトラオブリは、投稿した緊急声明のなかで「クラブに対して慎重な判断を求めます」や、さらに「現在報道されている監督人事には疑問を抱かざるをえません」と実質的な白紙撤回を要求。別のサポーターグループ、エスコティーバ福岡も同調する異例の事態に発展した。
 金氏が福岡のサポーター団体から懸念を示された背景には、鳥栖の監督時代におよんでいたと認定された、複数のパワーハラスメント行為がある。
鳥栖の監督そのものを2021年の年末に突然退団した金氏に関して、その後にJリーグの調査で生々しい実態が報告された。そのなかには鳥栖のU-18監督時代に、当時の高校生に対しておよんだ行為も数多く含まれていた。
 一連の行為を問題視した日本サッカー協会(JFA)は翌2022年3月に、金氏が保持していた最上位の公認指導者S級ライセンスを、ひとつ下のA級コーチジェネラルへ降級させる前例のない厳罰を課した。さらには指導者資格そのものを1年間にわたって停止させ、JFAが定める社会奉仕活動や研修への出席も義務づけた。
 金氏を巡る一連の事実が、福岡が定めるスローガンや基本理念に背くとウルトラオブリは指摘し、前代未聞の行動に打って出た。福岡のスポンサー企業に入った「個人の主張等の連絡」とは、要は過去にパワーハラスメント行為をはたらいた人物を新監督にすえる人事を認めるのか、といった反対意見だと推察できる。
しかし、福岡が発表した声明の後半部分では、一部スポーツ紙の報道に対する正否を含めて、後任監督人事に対して具体的には言及されていなかった。そして、ここでもスポンサー企業への問い合わせなどは自粛してほしいと強調されている。

 

 

「現在、来季に向けた様々な準備を進めておりますが、現時点ではクラブから公式に発表している情報はございません。また、シーズン中につき、来季の具体的な人事決定や報道内容についてのコメントは控えさせていただきますこと、ご理解いただけますと幸いです。なお、来季の監督人事に関しましてはシーズン終了後、準備が整い次第、公式サイト等を通じて発表させていただく予定ですので、スポンサー企業の皆様への個別の連絡等はお控えいただけますようお願い申し上げます。改めまして、皆様より弊クラブへ貴重なご意見をお寄せいただきましたことに、深く御礼申し上げます」
 交渉ごとは守秘義務を伴うゆえに当然の対処ともいえるが、それでも特にX上ではさまざまなコメントが寄せられている。
「否定しないってことは候補に上がってるの認めてるようなもんだよね、これ」
「発表するまで黙ってろは虫が良すぎるよ」
「サポーターがスポンサーの業務を妨害してどうすんのさ」
「パワハラした人間を監督にさせない為に己らはカスハラしてんの草」
「この件でもう本人は来ないような気がする…」
 資格停止処分が解除され、社会奉仕活動や研修も行った金氏は、昨シーズンに町田のヘッドコーチに就任。高校サッカー界から転じた黒田剛監督(54)をサポートしながら、J2初優勝と悲願のJ1初昇格に大きく貢献し、同時進行でJFAが定める約1年間のカリキュラムをへて、今年2月にはS級ライセンスを再取得している。
 町田は8日に黒田監督との契約更新が合意に達し、就任から3年目となる2025シーズンも指揮を執ると発表した。10月に入ってから失速しているものの、開幕から首位争いを演じてきた軌跡が評価されたものだが、主に戦術面を担当し、黒田監督の参謀役を務めてきた金ヘッドコーチの去就に関するアナウンスは何もない。
 まずは黒田監督の契約延長が優先的に発表されたと考えられるし、一方でJクラブの監督を務めるためのライセンス上の資格を回復させた金氏の、今シーズン限りでの退団が既定路線になっているとも受け止められる。
 最新の順位表で9位につける福岡のリーグ戦は、敵地に乗り込む今日9日のセレッソ大阪戦を含めて残り3試合。クラブ史上で最高位だった昨シーズンの7位を上回り、長谷部体制の有終の美を飾る目標を立てているなかで、時間の経過に比例していく形でピッチの外が慌ただしさを増していく状況は避けられそうにない。

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