「どうしてこの監督?」アビスパ福岡の次期監督人事報道を受けてサポーターが白紙撤回を求める…クラブは今後どう対応?

 J1のアビスパ福岡の新監督人事報道を巡り、前代未聞の騒動が勃発した。FC町田ゼルビア金明輝ヘッドコーチ(43)の就任が決定的と報じられたなかで、最大のサポーター団体、ウルトラオブリが6日までに公式X(旧ツイッター)を更新。声明で「現在報道されている監督人事に対しては疑問を抱かざるをえません」と白紙撤回を求めた。サガン鳥栖監督時代のパワーハラスメント行為が認定され、指導者ライセンス降級などの厳罰を受けた金氏へ懸念を示したもので、他のサポーター団体も追随する事態に発展している。

 クラブは何も発表していないが一部スポーツ紙報道がきっかけ

 新監督の最有力候補に対してサポーター団体が声明を出し、懸念を表明するとともに実質的な白紙撤回を求める。福岡の次期監督人事を巡って前代未聞の騒動が起こっている。
 きっかけは4日付の一部スポーツ紙の報道だった。契約満了に伴う今シーズン限りでの退任がすでに発表されていた長谷部茂利監督(53)の後任として、鳥栖の元監督で、現在は町田のヘッドコーチを務める金氏の就任が決定的だと報じられた。
 この動きに反応したのが、福岡で最大規模を誇るサポーター団体のウルトラオブリだった。公式X上で「後任監督人事の報道について」と題した緊急声明を発表し、そのなかで福岡に対して異例ともいえる抗議を展開した。
「一部マスメディアにて報道されておりますアビスパ福岡の後任監督候補につきまして、我々ウルトラオブリはクラブに対して慎重な判断を求めます。
 前提として、我々はこれからもクラブを支えるという想いが揺らぐ事はありません。それはアビスパ福岡は我々の人生の一部であり、我々の生活において無くてはならない唯一無二の存在だからです。
 ただ、現在報道されている監督人事には疑問を抱かざるをえません」
 言い回しを含めた表現こそ非常に丁寧ながらも、金氏に対する懸念と新監督招聘を再考してほしいと求めた声明は、さらにこう綴られている。
「アビスパ福岡のスローガンは『感動と勝ちにこだわる』であり、基本理念には『子ども達に夢と感動を 地域に誇りと活力を』といった文言があります。
 これからもクラブの根幹である理念を大事にし、アビスパ福岡を応援する全てのステークホルダーが胸を張って後押しができるクラブであって欲しいと切に願います」
 具体的には言及していないものの、金氏の招聘に疑問を抱いている理由が、鳥栖の監督時代に認定されたパワーハラスメント行為なのは間違いない。
 鳥栖を率いていた2021年夏に、金氏は練習中に所属選手を足払いで倒したとして、リーグ戦3試合の指揮資格停止処分を受けた。もっとも、このときは鳥栖が選定した第三者委員会による調査で、追加処分は不要と結論づけられた。
 しかし、復帰後の同年8月下旬に、金氏が暴力や暴言といったパワーハラスメント行為に、恒常的におよんでいるとした匿名の告発文書が日本サッカー協会(JFA)に届いた。Jリーグはこれを受けて、4人の弁護士による調査チームを結成。鳥栖関係者90人に対するヒアリング調査を、延べ100回にわたって実施した。
 金氏は調査中だった同年12月20日に、鳥栖の監督を突然退任した。そして、調査チームは直後の同30日に、選手の胸ぐらをつかんで押し倒す、髪の毛を引っ張る、平手打ちをする、蹴るといった有形力の行使やさまざまな暴言が認定されたと発表した。暴言に対しては、ほぼすべてに対して次のように結論づけられた。
「指導においてまったく必要がなく、かつ悪質なものだった」
 一連の行為は、金氏がサガン鳥栖のU-18監督に就任した2016シーズンから確認されたものであり、トップチームの選手よりも高校生へのパワーハラスメント行為が多かったと結論づけた調査チームは、さらにこう言及している。
「高校生に対する暴力は、教育的見地からも強い非難に値する」

 

 記者会見に臨んだ当時の村井満チェアマン(65、現・日本バドミントン協会会長)は、金氏の手腕の高さを認めながらも、その行為を厳しく非難していた。
「時代とともに社会規範が変わっていくなかで、動機や理由のいかんによらず、ハラスメント行為や暴力、暴言はいっさい許されないとJリーグとして確認したい」
 さらに公認指導者ライセンスを発行するJFAも、金氏の一連の行為を問題視。2022年3月に、金氏が取得していた最上位のS級ライセンス(現・Proライセンス)を、ひとつ下のA級コーチジェネラル(現・Aジェネラルライセンス)へ降級させた。
 S級からの降級は前例のない厳罰で、JFAはA級コーチジェネラルの資格自体も1年間にわたって停止。JFAが定める社会奉仕活動や研修も課された金氏は、2023シーズンに町田のヘッドコーチに就任。高校サッカーから転じた黒田剛監督(54)をサポートしながら、今年2月には約1年をかけてS級を再取得していた。
 ライセンス面では、福岡の指揮を執るうえで支障はない。しかし、金氏の鳥栖時代における立ち居振る舞いが、福岡のスローガンや基本理念と対極に位置すると示唆したウルトラオブリの投稿には、これを支持するコメントが寄せられている。
「これは何も間違った事は言ってないな」
「遠回しの拒否反応ですね」
「どうかクラブはみんなの声に耳を傾けてください」
「どうしてこの監督?とはなるよね」
「アビスパを支えるスポンサー様も同じ気持ちだと思うよ」
 なかには「一度失敗した人が過ちを反省し、再起を図ろうとチャレンジしようとする人はどうすれば良いのか、とも考えさせられます」といったコメントもあるなかで、別のサポーターグループ、エスコティーバ福岡も次のようなコメントとともに、金氏の監督招聘に対して、ウルトラオブリに追随している。
「基本理念に照らし合わせても、今回の監督人事にはどうしてこの人物を選ばれたのかと思わずにはいられません」
 監督人事に関する先行報道を巡って、クラブを応援してきたサポーター団体が相次いで異を唱える。Jリーグ史上で前例のない騒動が拡大していくなかで、福岡は次期監督に言及した報道の正否を含めて、いっさいの沈黙を貫いている。
 守秘義務もあるだろうし、当然ながら交渉の過程では具体的には言及できない。一方でもし金氏との交渉を進めている場合には、投稿へのコメントでも見られたように、クラブを支えるスポンサーの意向も反映されかねない。
 次期監督の選定で出遅れた場合には、オフの補強にも響き、すでにJ1残留を決めている来シーズンの戦いにも大きな影を落としてくる。金氏を拒絶する反応が多数を占めるなかで、福岡が水面下で大きな決断を迫られる可能性も出てきた。

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