「落ち込んで眠れない夜もあった」阪神を戦力外となった超変則左腕の岩田将貴が“新天地”横浜DeNAで入団会見…同期“サトテルキラー”として覚醒誓う

今季限りで戦力外なった元阪神の岩田将貴(26)と元ソフトバンクの笠谷俊介(27)の横浜DeNA入団会見が22日、横浜市内の球団事務所で行われた。変則サイドスローの岩田は、史上最大の下剋上で日本一に輝いたチームになぞらえ「僕もある意味、戦力外からのスタートなので、下剋上できるように頑張りたい」と宣言。その特性を生かし、阪神の同期である佐藤輝明(25)ら“左打者キラー”として再出発することを誓った。

 同期の佐藤輝明からもらったメッセージ

 日焼けした精かんな表情に、何度も笑みが浮かんだ。

 一度も1軍登板を果たせないまま、4年間プレーした阪神から戦力外を通告されたのが10月1日。そのときに「欲をいえば、チャンスが欲しかった」と涙した岩田は、横浜への入団会見で胸中に秘めてきた思いを明かした。

「両親をすごく不安にさせてきましたし、僕自身もけっこう落ち込んで、眠れない夜もありましたけど、いまは契約させていただいてすごく光栄に思います。母は泣いて喜んでいましたし、父からも『一から頑張れ』と言われました。僕も新しい気持ちで、ベイスターズのために一生懸命、腕を振って頑張っていきたい」

 九州産業大から2020年の育成ドラフト1位で阪神に入団した岩田は、2年目の2022年7月に支配下選手契約を締結。ウエスタン・リーグで4年間通算139試合に登板し、119.2イニングを投げて9勝6敗、108奪三振、防御率3.10の成績を残し、今季も46試合に登板して1勝2敗、防御率2.11の成績を収めながら、1軍のマウンドには一度も立てなかった。

 入団会見に同席したチーム統括本部の萩原龍大本部長(47)は、岩田に続いて入団会見に臨んだ育成契約の笠谷を含めて、左腕2人を補強した意図をこう語る。

「チームの編成上、左投手の数が全般的に少ないと理解しています。貴重な戦力として何人かをリストアップしたなかから岩田投手に(決めました)。いろいろなところから声がかかったと思いますけど、我々を選んでいただけたことに感謝しています。現場の起用は私が決めることではありませんが、スカウトとデータ班の両方が推していた人材なので、編成としては期待しているし、いけると信じています」

 今季の横浜DeNAはセ・リーグ3位から“史上最大の下剋上”を成就させ、26年ぶり3度目の日本一を獲得した。しかし、ブルペンに目を向ければ、救援左腕はポストシーズンで防御率0.00をマークした5年目の坂本裕哉(27)だけで、クライマックスシリーズからは先発要員の濵口遥大(29)を中継ぎへ配置転換したほどだった。

 もっとも、坂本の成績を見ると、被打率.313の左打者よりも同.171の右打者を得意としている。リーグ優勝と連続日本一を目指す来シーズンの戦いへ向けて、左打者を封じる救援左腕をどうしても加えたい。投手陣の再編成を進めるうえで白羽の矢を立てられたのが、変則サイドスローを武器とする岩田だった。

 

 岩田は打者に背中を見せるほど体を捻った後に、右足を内側へ大きく踏み出すインステップから、最速139kmのストレートと7種類のスライダーを投げ分ける。トルネード投法を思い起こさせる独特のフォームは、ボーイズリーグ日本選抜の一員として米ロサンゼルスへ遠征した2013年に、チームの代表だった“元祖トルネード”の野茂英雄さん(56)直伝のアドバイスも生かして編み出されたものだ。

 昨春のキャンプでは、阪神史上で最強の救援トリオ“JFK”の一角を変則サイド左腕として担い、現在は駐米スカウトを務めるジェフ・ウィリアムスさん(52)に弟子入り。さらに工夫を加えたフォームに、岩田は絶対的な自信を寄せる。

「誰にも真似できないような角度から投げられるところが、一番の武器だと思います」

 巨人の同じく変則左腕の高梨雄平(32)が“左キラー”として存在感を示しているが、岩田が横浜DeNAで出番をもらうとすれば、そのイメージだ。

 今季の横浜DeNAでは、オリックスでの3年間で1軍登板がわずか1試合で、自由契約となった昨オフに加入したアンダースロー右腕の中川颯(26)が中継ぎの切り札として大ブレーク。29試合に登板し、3勝0敗5ホールド1セーブを記録し、日本シリーズでも3試合3イニングを無失点に抑えている。

 変則タイプの中川颯に加えて、昨年の現役ドラフトでロッテから移籍し、前年の2登板から28登板へと飛躍し、中継ぎとしてブルペンを支えた佐々木千隼(30)らの再生に成功した投手をあげながら、萩原本部長は岩田へこんな期待を寄せる。

「これまでも、獲得した多くの選手が1軍でもう一度活躍するケースを達成している。その前例にならってくれることを期待しています」

 岩田も同じ学年でもある中川颯の日本シリーズなどでの活躍をテレビ越しに見ながら、結果を出せなかった選手が新天地で覚醒する姿に目を奪われていたと明かす。

「クライマックスシリーズでも日本シリーズでも、試合の大事な場面で投げていたのを見て、僕も続きたいと思いました。(日本一になった)ベイスターズが史上最大の下剋上と言われていましたが、僕もある意味、戦力外になってからのスタートなので、下克上できるように頑張りたい。プロになってまだ1軍で登板していないので、まずは1軍で登板できるように。最初の目標は低いですけれども、任されたところをしっかりと抑えていきながら、チームの戦力のひとつとして戦っていけるようにしたい」

 

 2020年のドラフト会議で指名された阪神の同期入団組では、1位の佐藤を筆頭に2位の伊藤将司(28)、5位の村上頌樹(26)、6位の中野拓夢(28)、8位の石井大智(27)らが1軍で活躍している。横浜DeNA入団に際して、同じ学年の佐藤からメッセージを受け取ったと岩田は明かした。

「頑張れというか、(決まって)よかったと言ってくれました。阪神に同期入団した選手はみんなすごく活躍しているし、みんなからは『1軍で戦えたら』という言葉ももらえました。(阪神は)左打者がすごく多いし、そのなかでも佐藤輝明は同期だし、練習などでも一度も投げた経験がないんですけど、対戦するときにはしっかり抑えたい」

 “サトテルキラー”としてのワンポイント起用があるのかもしれない。

 阪神で支配下登録されてからは「93」だった背番号が、新天地では「68」に決まった。年俸560万円(推定)で再出発を期す岩田は、同学年の牧秀悟(26)を中心に、新たな仲間たちが作り出している横浜DeNAのイメージをこう語った。

「僕自身が1軍を経験していないので、テレビを通しての印象しかないですけど、ファンの方々と一体となって戦っているイメージが強いし、ベンチの雰囲気を含めて、すごく明るい印象がある。僕も早くその輪に入れるように頑張っていきたい」

 究極の目標は阪神時代と変わらない。「岩田が投げれば絶対に勝てる、と思われるピッチャーになりたい」。対左打者で“キラー”を拝命し、ハマの勝利の方程式の一角を担う存在へ駆けあがっていく姿だけを思い描きながら、岩田が新たな一歩を踏み出した。

(文責・藤江直人/スポーツライター)

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