戦力外の男たちを救うトライアウトは存続すべきか…参加した元楽天の清宮虎多朗が日ハムと育成契約で21年連続で合格者が出るも

 日ハムが楽天を戦力外となった清宮虎多朗投手(24)と育成契約を締結したと発表した。清宮は14日にZOZOマリンスタジアムで行われた12球団合同トライアウトに参加し、最速154キロを計測してアピールに成功していた。NPB復帰率が5%で形骸化が危惧されるトライアウトは今季限りでNPBが主催からの撤退を検討しているが、選手会側は存続させたい意向。今後あるべき姿を考察してみた。

 合格率5%もプロ2軍チームや独立リーグから需要

「きよみや」ではなく「せいみや」と読む楽天の清宮虎多朗が日ハムと育成契約を結んだことは、存続危機にあったトライアウトに一筋の光を当てた。45人が参加した今回のトライアウトは、投手はカウント0-0から打者2人だけと対戦する方式だったが、清宮は、実績のあるロッテの菅野剛士を152キロ、153キロのストレートで追い込んで高めに154キロのストレートを投じて空振りを奪う圧巻の三球三振。154キロは、この日参加した32人の投手の中では最速だった。続く西武の鈴木将平にも150キロ台のストレートを連発。最後はフォークを一、二塁間に運ばれたが、強いインパクトを与えた。
 清宮自身も「シーズン中より良い状態じゃないかというぐらいに仕上げられた。いいアピールができたと思う」と手応えを感じていた。
 清宮は八千代松陰高から2018年の育成ドラフト1位で楽天に入団し、2023年にはイースタンで22セーブをあげてセーブ王に輝き、最速161キロをマークして注目を集めていた。今季は4月に支配下登録を勝ち取ったが、制球に難があり、わずか3試合登板で結果を出せず入団6年で楽天を戦力外となっていた。その楽天は、ブルペンの強化のため阪神を戦力外となった加治屋蓮を獲得。清宮の7年目の覚醒に期待するよりも、加治屋の確実な実績を取った。その加治屋は、トライアウトには参加していなかった。
 今のところトライアウトの出場組でNPB復帰が決まったのは、清宮一人だけだが、2004年から21年連続で続いているトライアウトからの合格者は途切れなかった。合格率は5%。ここ5年を見ても年によって合格人数にムラはある。2020年は宮國椋丞投手(巨人→横浜DeNA)、風張蓮投手(ヤクルト→横浜DeNA)、宮台康平投手(日ハム→横浜DeNA)ら6人が復帰したが、2021年は古川侑利投手(巨人→日ハム)1人。2022年は再び三ツ俣大樹内野手(中日→ヤクルト)、西巻賢二内野手(ロッテ→横浜DeNA)ら4人に増えたが、昨年は井口和朋投手(日ハム→オリックス)と吉田凌投手(オリックス→ロッテ)の2人だけだった。井口は今季オリックスで32試合に登板、1勝2敗3ホールドで防御率4.18の成績を残し、西巻は来季は育成ながら横浜DeNAと再契約を結んでいる。
 それでも合格率が5%に留まっているため、形骸化が叫ばれ、各球団の本拠地の貸し出しが、ひと回りした今季限りでNPBは主催から降りる方向であることを明らかにしている。一方で選手会側は、独自開催で存続させていきたい意向を示しているが、まだ具体化はされておらずトライアウトの存続問題は宙に浮いたままだ。

 

 

 トライアウトは選手会の要望によって2001年からスタートした。それまでは各球団によって戦力外通告の時期がバラバラで現役続行を希望する選手がその機会を逃すケースが目立ったため、選手会がNPBと協議して、合同トライアウトの実施と、それ以前に戦力外通告を行わねばならないというルールを定めた。
 それでもトライアウトと別の独自入団テストや、秋季キャンプ参加などが各球団ごとに行われるなどしたため、2004年からはトライアウト以前の入団テストを行わないことが申し合わされている。
 つまりトライアウトの趣旨は、戦力外通告を受けた選手に他球団との再契約機会を均等に与えるもの。だが、実際には、今オフも加治屋だけでなく、横浜DeNAと契約した元阪神の岩田将貴、元ソフトバンクの笠原俊介(育成)、オリックスと育成契約を結んだ元阪神の遠藤成ら、早くから他球団に目をつけられた“戦力外”の選手はトライアウトに参加していない。トライアウトは形骸化し、一部では選手が家族や関係者を呼ぶなど、“引退セレモニー”の舞台にもなりつつある。
 だが、一方で今季から2軍にだけ新規参入したオイシックス、くふうハヤテ、メジャーリーグ、独立リーグ、台湾などのプロ野球関係者、社会人野球、クラブチームなどアマチュア野球の関係者もトライアウトのネット裏に集まり、“戦力外の男たち”が、NPB以外でのプレー続行の機会を得るきっかけにもなっている。
 昨季はくふうハヤテが元ロッテの福田秀平、元横浜DeNAの田中健二郎ら元プロを10人、オイシックスも元阪神の高山俊、元広島の薮田和樹ら元プロを7人獲得したが、そのほとんどがトライアウト参加組。トライアウトは新たな就活の場として機能しているという側面がある。
 またくふうハヤテの元オリックス育成の西濱勇星投手は、トライアウトからくふうハヤテ経由で今オフにヤクルトと育成契約をするなど新たなNPB復帰の形も生まれている。
 元ヤクルトの編成部長で名将として知られた故・野村克也氏の右腕としてヤクルト、阪神で長年コーチも務めた松井優典氏は、こんな意見を持つ。

 

「私はヤクルトの編成時代には必ずトライアウトに参加していた。ほとんどの選手はシーズン中にチームの編成担当が見ていてデータも集めているのでトライアウトで評価が変わることはほぼなかった。あえて言えば、怪我をするなどシーズン中にあまり見ることができなかった選手のチェックくらい。NPBの復帰という点では、トライアウトの役割は終わったと言える。ただ独立リーグや、社会人、今季からはオイシックス、くふうハヤテなどもできて、そういったチームはトライアウトを実行的なスカウトの場として活用している。戦力外の選手がなんらかの形で野球を続けるための場所としては必要なのかもしれない。では、その責任をプロ野球界が負うのか、選手会が負うのか。ただチーム側から見れば、そこまでNPBがドラフトで獲得した選手の先をケアするのであれば、アマチュアへのスカウト活動に好影響は与えると思う。いずれにしろ形は変わっていかねばならないでしょう」
 その一方で「トライアウト廃止論」を唱える意見もある。
 社会人クラブチームの西多摩倶楽部を経て、育成ドラフト7位で巨人に入団したものの故障などもあり1年で“戦力外”となり、その後、選手のセカンドキャリアをサポートする仕事に就いていた川口寛人氏も「トライアウト廃止」派だ。39歳になる川口氏は、介護業界の大手「SOMPOケア」に転職し、現在、ラヴィーレ若葉台のホーム長としてマネージメントする業務についている。
「1年でも野球を続けたいという選手の気持ちは理解できますが、トライアウトは、もう本来の目的とは違う形に進んでいますよね。現役ドラフトのように各球団が必ず一人を獲得するなどの約束事がない限り、トライアウトの存在意義はなくなっていると思います。野球ができなくなった後の方が大事で、私はできるだけ早くセカンドキャリアの道へシフトすべきだという考えなんです。企業などとの再就職のマッチングの窓口をNPB、選手会が作っていますが機能していません。そこへのアプローチの仕方をもっと真剣に考えるべきではないですか。今は起業する元選手が増えているようですが、企業に再就職して、仕事にやりがいを持ちながら、保証、安定、安心を手にすることが大事だと思います。私は、社会人野球の富士重工で活躍された福田崇彦社長に声をかけていただき、今は、介護施設の管理の職務に就き、50、60人の社員やスタッフをまとめていますが、とてもやりがいのある仕事ができています。ひとつのセカンドキャリアのモデルケースになればと頑張っていますが、企業から見れば、厳しい世界を勝ち抜いてきてプロになった人たちへのニーズはあります」
 これもトライアウトの存続と同時に推し進めねばならない重要な問題提起だろう。今後、NPBと選手会がトライアウトの存続問題にどう決着をつけるか注目だ。(文責・RONSPO編集部)

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