「やられ放題。反スポーツ的行為だ」J1町田の黒田監督がロングスローを巡る広島の行為に激怒の抗議…0-2で敗れて3位後退

 J1リーグの天王山で、ロングスローを巡る場外戦が再び勃発した。28日にエディオンピースウイング広島で行われたサンフレッチェ広島FC町田ゼルビアの第32節で、町田が十八番とするロングスローを投じる前にボールの表面を拭くため、あらかじめ置いていたタオルを広島側が撤去。さらに別のタオルに水をかけられたとして、黒田剛監督(54)が「反スポーツ的行為に価する」と激怒し抗議するひと幕があった。試合は広島が2-0で快勝して首位をキープ。町田はヴィッセル神戸にも抜かれて3位に後退した。

 ボールを拭くタオルが撤去される

 今シーズンの覇権を左右する天王山で場外戦も勃発していた。
 町田を率いる黒田監督が激高し、第4審判員の池内明彦氏(41)に激しく詰め寄ったのは前半20分過ぎ。武器とするロングスロー用に、ビニール袋に入れたうえで、あらかじめピッチサイドの複数箇所に置いていたタオル。そのなかで広島ベンチ前のテクニカルエリア横にあったものを、広島側が撤去した行為に対する抗議だった。
 しかし、場外戦はこれだけで終わらなかった。町田のスタッフが再びタオル入りのビニール袋をタッチライン際に置くと、今度は広島の控えキーパー川浪吾郎(33)が、ビニール袋のなかにペットボトルの水を注ぎはじめた。異例ともいえる行為に気がついた黒田監督は、川浪を指さしながら再び池内審判員を介して抗議した。
 試合後の公式会見。黒田監督は「もちろん抗議はします。やられ放題だと」と前置きしたうえで、努めて冷静な口調で抗議を繰り返した意図を明かした。
「反スポーツ的行為に値すると思っています。対戦相手が用意したものを隠すとか、または袋のチャックを開けてなかに水をぶち込むのは、ちょっとやってはいけない行為だと思いましたし、周囲もそれを黙認していたので。ロングスローに対してであればロングスローへの守備で阻止するとか、正々堂々とやってほしいと思う」
 町田のロングスロー用タオルを巡っては、雨中の東京・国立競技場で8月31日に行われた浦和レッズ戦の前半にもひと悶着が起こっていた。
 このときも浦和ベンチ前のテクニカルエリア横にあった、タオル入りのビニール袋を浦和のフィジカルコーチが撤去。町田が置き直すと同コーチは再び撤去しただけでなく、タオルを取り出して自らの顔や頭を拭いている。行為をエスカレートさせた同コーチに対しては、第4審判員から口頭で注意が与えられていた。
 異例の場外戦に対して、審判団を統括する日本サッカー協会(JFA)審判委員会でJリーグ担当統括を務める、佐藤隆治マネジャー(47)はこう語っていた。
「リーグとしてタオルを置くことは禁止していない。間隔や枚数に何かを言うわけではないが、そのあたりは基本的に、すべてでレフェリーが間に入って何かをする、という形にはならない。対戦チームがあってこそのサッカーなので、そこは両チームに配慮してほしいし、ゲームをよりスムーズに進めていく、という意味ではJリーグ側と詰めていく話なのかな、と。置く場所などを含めてリーグと話をしながら、みんながそうだよね、と言える着地点を見つけながらやっていければ、と思っています」

 

 

 審判員が裁く問題ではなく、試合運営マターなのではないかと審判委員会としての見解を示した。実際、サッカーの競技規則にはボールの表面をタオルで拭く行為に対してだけでなく、ロングスローそのものに対する是非はいっさい記載されていない。こうした状況下で繰り返される場外戦に、黒田監督は広島戦後の会見でこう続けている。
「この試合だけでなく、いままで(ロングスローを)嫌だと思ったチーム、ストレスに感じていたチームはみんなやってくるので、ルールにないとはいえ、やはりJFAの方で対処してほしい。相手チームが用意したものに害を加える行為を許してしまえば、たとえば水のなかに何を入れてもいいとか、相手のボトルを蹴飛ばしてもいいとか、そういったものまですべてOKになる。相手のリザーブのキーパーだったと思いますけど、止める人がいなかった点を含めて、そのへんはしっかりと管理してほしい」
 キックオフ前の時点で両チームが勝ち点59で並び、得失点差で広島が上回って1位に立っていた注目の直接対決。さらにつけ加えれば、リーグ最多得点の広島、最少失点の町田による「矛盾対決」を制したのは広島だった。
 開始わずか3分。右サイドからMF中野就斗(24)があげたクロスを、今夏に加入した元ポルトガル代表のFWゴンサロ・パシエンシア(30)がボレーで叩き込んで先制。前半23分には再び中野のクロスを今度はFW加藤陸次樹(27)が左足で流し込み、守っては町田の枠内シュートをわずか1本に封じて2-0で快勝した。
 黒田監督はロングスローの担い手である林幸多郎(23)を、前節までの右サイドバックではなく左サイドバックで起用。右サイドバックには192cmの長身を誇り、森保ジャパンにも抜擢された望月ヘンリー海輝(23)を配置し、林のロングスローと望月が攻めあがった際のロングボールを併用して広島を攻略する戦略で臨んだ。
 しかし、前半に喫した失点はともに林のサイドを崩された末に喫した。今シーズンから開場したエディオンピースウイング広島には、浦和レッズとの開幕戦に次ぐ2万6655人の大観衆が駆けつけ、広島の選手ですら武者震いする光景を生み出した。
 黒田監督は前半限りで代えた林をねぎらいつつも、こんな言葉を残している。
「左サイドバックのところで簡単にクロスを上げさせすぎた。悪く言うと緊張感ではなくて、この雰囲気にちょっと圧倒されていた。ロングボールも含めて、ウチの左サイドバックを意図して狙ってきた相手の方が一枚上手だったし、J1に初めて挑戦しているわれわれはこういう舞台で優勝を争えるようなレベルにまだ到達していないというか、優勝争い自体を経験していないメンバーも多くいるなかで後手を踏んでしまった」

 

 

 直近の10試合で破竹の7連勝を含めた9勝1分けと、圧倒的な強さを身にまとって首位をキープした広島だけではない。浦和を破ってこちらも5連勝をマークした昨シーズンの王者・ヴィッセル神戸にも抜かれて3位に後退しても、残り6試合となった今後の戦いへ、黒田監督はファイティングポーズを崩さなかった。
「まだまだ勝負が終わったわけではない。残り6戦で上位2チームがそのまま連勝を続ける、という状況も考えにくいので、われわれは目の前の一戦でしっかりと勝っていって上位に食らいつき、チャンスがあればとチームに言い聞かせていきたい」
 しかし、広島との首位攻防天王山で繰り広げられた場外戦に対しては、SNS上で「ルール上で禁止されていなければ何をしてもいいのか」や「お前が言うな」といった、これまでと同様に町田を非難する声が数多く飛び交った。
一方で同じくSNS上へ投稿された、川浪がペットボトルの水をビニール袋に注いでいる行為を、はっきりととらえた映像にはこんな声も寄せられている。
「町田好きじゃないけどこれは格好悪すぎる」
川浪吾郎選手がとても悪い顔をしている」
「その後、タオルを使用していましたがもちろん濡れタオルです。スローインの結果は…滑っていました」
 町田がタオルでボールの表面を拭くのは、ボールを放つ際に滑るのを防止するためで、黒田監督は前身の青森山田高監督時代から徹底してきた。プロの世界に転じて2シーズン目。ロングスローを町田の戦術のひとつと位置づけたうえでこう語る。
「見慣れていないものに対して、叩き続ける風習や傾向はちょっと違うと思いつつ、相手が嫌だと思うプレーはやりませんと言うのであれば、それはもうサッカーじゃない」
 今後も平行線が続き、さらなる場外戦が起こればサッカーそのものがスポイルされかねない。JFAやJリーグがアクションを起こす段階にきているといっていい。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

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