なぜ阪神は“誤審疑惑”もあった巨人との“大一番”に1ー0勝利できたのか…才木の直球勝負と坂本3度の“ブレーキ”…その裏には岡田監督の助言が隠されていた

 2位阪神が22日、甲子園での首位巨人との大一番に1-0で勝利しゲーム差が「1」に縮まった。先発の才木浩人(25)は、4度も得点圏に走者を背負ったが、強気のストレート勝負でねじふせて13勝目。坂本勇人(35)が3度の好機にブレーキとなった。SNSを騒がせる誤審疑惑もあったが、岡田彰布監督(66)がバッテリーに与えた助言が勝利の裏にあった。今日23日の今季最後の巨人戦に阪神は復活した左腕の高橋遥人(28)が先発させる。

岡田監督「才木は力でねじ伏せた」

 珍しい光景が甲子園球場にあった。
 冷静沈着。“鉄仮面”で知られるストッパーの岩崎が最後のバッターのモンテスを三塁ゴロに打ち取ると、左手でガッツポーズを作ったのだ。そして一塁ベンチでは、岡田監督が白い歯を見せて「よっしゃー!」と叫んでポンと手を叩いた。
 1-0。岡田監督が究極の勝ち方に掲げるスコアで首位の巨人に勝った。
「ピンチは、こっちの方が多かったんだけど、才木がね。最後は力でねじ伏せたというか、本当に辛抱して辛抱してね。先に点を取られてピンチの方が多かったが、本当によく投げた」
 岡田監督は7安打を打たれ、4度も得点圏に走者を背負いながらも、粘って7回を無失点に抑えたエースを称えた。
 才木は1回にいきなりトップバッターの丸に二塁打を許したが、2番の浅野のピッチャー前へ強く転がったバントを冷静に処理。飛び出した二塁走者の丸だけでなく、挟殺プレーでの木浪の素早いジャッジで、二塁を狙った浅野までアウトにする併殺打で、ピンチを切り抜けた。岡田監督が「大きかった」というプレー。
 才木vs坂本の3度あった対決がすべてだった。
 1度目は2回無死一、二塁。6番の坂本に回ってきた。阿部監督にサインはない。カウント0-1からの2球目のフォークはスッポぬけた。だが、バットの先っぽ。力のないセンターフライが近本のグラブに収まった。
 セ・リーグでタイトル経験のある評論家の1人は、「阿部監督がベテランの経験にかけた気持ちはわかる。だが、坂本の調子を考えればバントだろう。そして極論だが、たとえサインがなくても坂本自身が自分の判断でバントをすべきだったと思う。菅野の出来を考えれば1点勝負。ゲームを読み、チーム全体を考える立場にあるのが坂本なのだ」と指摘した。
 2度目は4回一死一、三塁。外野フライで同点となる場面で、才木は初球に坂本が得意とするインローへストレートを投げ込んだ。坂本は打ちにきた。だが、バットが、振れていない。球威に押されてポーンと打球を打ち上げた。ライトとセカンドの間に飛んだが、中野がしっかりとキャッチした。
 3度目の対決は6回だ。
 5回の攻撃で阪神は、先頭の木浪がライト前ヒットで出塁したが、才木のバントが小林のすぐ目の前に転がり「2-6-3」とわたる併殺に終わり、流れが巨人に傾きかけていた。
 才木は先頭の浅野に左中間を破る二塁打を許して、吉川、岡本に連続四球。無死満塁となったが、岡田監督は「“打たせ”と思った。点を取られるまで任そうと思った」とベンチを動かなった。
 無失点に抑えるなら才木の球威と考えていたのだろう。

 

 

 才木は「やべえなと思った」という。
 才木―梅野のバッテリーの気持ちを後押ししたのが、岡田監督の「もっとインコースに投げ込め」という言葉だった。
 1回に丸に二塁打を打たれたのは高めにスッポ抜けたスライダー。坂本にもフォークが落ちていなかった。この日の才木は、スライダー、フォークが、制御できずキレもなかった。だが、不思議とストレートの球威だけはあった。
 配球には2つの基本がある。データから打者の弱点を突く相手本意の配球と、自分の得意なボールで組み立てる自分本位の配球。それをうまく組み合わせるのが理想だが、どっちつかずの中途半端になるのが最悪パターン。その日「悪いボール」を相手の弱点に使えば墓穴を掘る。岡田監督は「良いボール」を使うことと同時に最も重要な「逃げない心」を伝えた。
 才木―梅野のバッテリーの迷いは吹っ切れていた。
 ここまで2安打を許していた長野にインハイへストレートで勝負した。
 おそらく長野はそれを狙っていた。だが、才木の球威が上回り、ファウルにもならずに投手フライ。プロ野球の「無死満塁あるある」ーは「先頭打者を抑えれば無失点に終わる」ーーである。
 そして続く坂本にも2球連続のストレート勝負。148キロ。ほぼど真ん中だった。坂本は、またその気迫にあふれたストレートに押された。打った瞬間に悔しさを表した。またセカンドフライ。続く阿部監督は、門脇に代えて代打の切り札の大城を送ってきた。才木は梅野のサインに首を振った。選んだのはまたストレート。大城は捉えたが、センターへの打球はフェンスの手前で失速した。
 岡田監督は「よく力で抑えた」と才木を繰り返し絶賛した。
 SNSでは3回一死一塁から才木の打席での“誤審疑惑”が話題となった。
 ベンチのサインは当然バント。1、2球と続けてバントを仕掛けたが、変化球にバットが当たらない。追い込まれて3球目もスライダー。才木はバットを直前に引いた。菅野が右手をクルクル回してスイングをアピールしたが、審判の判定はボール。これはバットを引いていたが、ボールそのものをストライクと判定してもおかしくなかった。そして疑惑判定騒動になったのが4球目だった。外角へのカットボールに才木のバントはボールに当たらなかった。かすかにバットを引いたがタイミングは遅く、なにより才木自身が三振だとセルフジャッジして、一度、ベンチに戻りかけた。だが、一塁塁審の判定はセーフ。朝日放送の中継アナウンサーが「ええ?」と思わず声をあげたほどだった。菅野は、不満を表情と態度で示したが、ストライク、ボールの判定はリクエストの対象ではない。才木は気を落ち着けて5球目にバントを成功させた。
 評論家の1人は「シロかクロかと聞かれれば誤審だと思う。こういう大事なゲームであってはならないことだが、審判も人間。ハーフスイングに関してはリクエストの対象にしてもいいのかもしれない」と提言した。

 

 

 トラが誇る1、2番コンビは菅野に起きた小さな心理的な動揺を見逃さなかった。
 続く近本への初球がボールになると小林がマウンドに駆け寄った。おそらくはサインの徹底と、8月の月間MVPで9月も調子をキープしている近本との勝負か、第一打席も三振で、まだ打率.230と調子が上がってこない中野との勝負か、の選択を確認したのだろう。
 ネクストの中野は「近本さんが歩かされるかなと思っていた。自分で勝負にくるという気持ちで準備していた」という。
 菅野は近本との勝負を選び、近本はフルカウントから三遊間にピンポイントで狙い打った。しかし、レフトの長野、岡田監督が「序盤なのに1点勝負みたいにだいぶ前進していた」と驚くほど前を守っていた。木浪は三塁でストップした。
 中野は、カウント1-2からフルカウントまで粘った。2球連続でストレート勝負してきた菅野が、2度、首をふって選択したのはスライダーだった。ストレート、フォークの2つの球種を嫌ったのかどうかはわからない。ただ菅野は四球になる可能性のあるボールよりも、ストライクが取れるボールで勝負したかったのだろう。だが、そのボールは甘くなり、中野はコンパクトに対応した。満員の甲子園をヒートアップさせたライト前タイムリーが結果的に勝負を決める“虎の子”の1点となった。
「追い込まれてからも何とか食らいついて良い形で粘っていた。後ろにつなごうという意識を持った結果が良い結果になった」とは、中野の試合後コメント。
 阿部監督は7回一死から菅野に代打を送らず完投させた。
 ベンチに帰ると自ら駆け寄って感謝の意を示した。前日の広島戦で逆転負けを食らった中継ぎ陣にプレッシャーをかけたくないという菅野の志願の続投だったという。しかし、その菅野の激投も、ゲラ、岩崎が8、9回を2日続けてパーフェクトに封じ込めて、空回りさせた。9月に入り巨人とのゲーム差は最大「5」あったが、ついに「1」に縮まった。間違いなく勢いは阪神にある。
 それでも岡田監督は「試合数も残り少ない。一戦一戦、なんとか勝ちを拾っていくだけ」と、平常心を強調した。
 今日の先発は、復帰後、4勝0敗と負けなしの高橋で対する巨人はグリフィン。
「もう自分の球を信じて思う存分、ストライクゾーンに投げ込んで欲しい」
 指揮官は、頼れるサウスポーにそうメッセージを送った。
 勝てば勝率ではまだ届かないがゲーム差はゼロとなり、その後の条件次第で、25日にも阪神のい自力Vが復活し、逆マジックが点灯する可能性がある。
(文責・RONSPO編集部)

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