過去にDHの受賞例のない大谷翔平の“MVP論争”に米敏腕記者が「守備を欠くことはそれほど問題か?」と緊急提言

 ドジャースの大谷翔平(30)が28日(日本時間29日)、本拠地でのオリオールズ戦で42号&41、42盗塁を記録して、史上2人目となる「42―42」を達成し、3度目のMVP受賞へ向けてまた一歩前進した。過去に純然たるDHがMVPを獲得した例がないことから異論も噴出しているが、その中で敏腕記者で知られるケン・ローゼンタール記者が米サイト「ジ・アスレチック」に「大谷は他の候補より遥かに優れている。守備を欠くことはそれほど問題か」という意見を述べた。MVP論争もヒートアップしてきた。

 史上初の「45ー45」を成し遂げることがポイント

 42号&41、42号盗塁で自身の「ボブルヘッド人形デー」を盛り立てた大谷翔平が7回の打席に向かうと、5万3290人で埋まったスタンドから「MVP!」コールが起きた。
 Aロッドことアレックス・ロドリゲスが1998年に46本塁打、42盗塁を成し遂げて以来となる史上2人目の「42―42」。本塁打争いでトップを独走、打点部門でもブレーブスのマーセル・オズナを3点差で追う位置にいる大谷が3度目のMVP最有力候補であることをファンも認めている。だが、過去に純然たるDHでMVPを獲得した例は一度もない。
 メッツのポッドキャスト「ロックオンメッツ」でホストを務めるライアン・フィンケルスタイン氏が番組内で「大谷翔平が(メッツの)フランシスコ・リンドアよりも(MVPの)価値があると評価するつもりはありません。大谷は指名打者として毎試合、約7分から10分間プレーするだけです。大谷はリンドアよりも、はるかに簡単な仕事をしている」と発言。メッツのショートストップのリンドアを推すなどして、物議を醸した。実際、SNSでも「守備でチーム貢献のできていないDHをMVPとしていいのか?」との論争がヒートアップしている。
 その中で敏腕記者でしられるロンゼンタール記者が大谷推しに一石を投じた。米サイト「ジ・アスレチック」に大谷推しの意見記事を掲載したのだ。
 同記者は「肘の大手術からの回復を図る大谷は今シーズン、エリートクラスの先発投手として守備面でプレーしていない。しかし彼はどの選手よりもはるかに優れた攻撃面でMVPの最有力候補だ。DHの選手がMVPを勝ち取ったことはかつてない。しかし、BBWAA(全米野球記者協会)の規定では投手や指名打者も受賞候補となると明らかにされている」と書き出し大谷をMVPに推す理由を展開させた。
「また大谷はユニークなケースを作っている。史上6人目の40-40プレーヤーとなっている。偉業達成の裏には6月16日に左手を骨折して約2カ月欠場したチームメートのムーキー・ベッツに代わって先頭打者に入ったことでより走力をもたらすようになったことがある。MLBは、昨シーズンに盗塁を促進させるルール変更(ベースの拡大と牽制球の規制)を行ったが、これまで50-50はおろか45-45に達した選手はいない。大谷が歴史を作りそうな状況なのだ。2022年には大谷が打者として34本塁打でOPS.875、投手として166イニングで防御率2.33の成績を残したにも関わらず、アーロン・ジャッジがシーズン最多記録となる62本塁打を放ったため彼を(MVP争いで)否定するのが難しかったのと同じように大谷を否定することは難しいだろう」

 

 過去のDHのMVP候補としてはデビッド・オルティスがいて2003年から2007年の間で5年連続投票で上位5位に入り、2度上位3位に入ったが「DHのMVP受賞に反対の流れは彼でも止まらなかった」と指摘。フランク・トーマス(1991年、2000年)、ポール・モリタ―(1993年)、エドガー・マルティネス(1995年)、ビクター・マルティネス(2014年)、ヨルダン・アルバレスらも投票で上位3位に入ったが受賞には至らなかった。
 その上で「現実的に大谷に代わるMVPに誰がいるのか」と問いかけた。
 候補としてチームメイトの遊撃手ベッツがいたが、死球で45試合を欠場して脱落。次にダイヤモンドバックスの二塁手のケテル・マルテが候補となったが、彼も8月19日から負傷者リストに入ることでMVPレースから外れた。同記者は「大谷への最も新たな脅威はエリートクラスの遊撃手と評価される一方で30-30にも近づいているメッツの遊撃手のリンドアだ」と断言。「リンドアとマルテは明らかに大谷よりも守備面で貢献している。リンドアは彼自身初のナ・リーグのゴールドグラブの候補となっている。大谷は3試合欠場しているが彼は欠場がない」としながらも、「168ポイントも上回る大谷のOPSで十分に補えないだろうか。大谷の盗塁を試す数は今シーズンを通して著しく増加している。彼は最初の3カ月で合わせて18回、7月に14回、8月にここまで12回。彼のモチベーションは数字よりもチームを助けたいとの思いから生まれているように見られる。8月の盗塁のすべてが試合状況で理にかなったものだった」と、その守備での貢献も、大谷の攻撃面の貢献を上回ることができないとの見解を示した。同記者は記事を最後にこうまとめた。
「シーズンは残り1カ月。MVPレースは変化するかもしれない。もしかしたらマルテが復帰してナ・リーグ西地区の優勝争いでダイヤモンドバックスをけん引してドジャースを逆転するかもしれない。もしかしたらリンドアが、ブレーブスを逆転してナ・リーグで3つ目のプレーオフの座へメッツを押し上げるかもしれない。たとえ投票者の規定でその可能性が認められているとしてもDHの選手がMVPを勝ち取ることは、ある人にとっては受け入れる難いことかもしれない。しかしDHが勝ち取る唯一の方法は、守備を超越するくらいに攻撃面で他を引き離すことだ。40-40の段階で大谷はそれに近いところにいる。45-45、もしくは50-50で、彼はその話題をほぼ終わらせることができるだろう」
 大谷が史上初の記録を成し遂げたとき、MVP論争に終止符が打たれるのかもしれない。

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