“開場100年”夏の甲子園ドラフト候補「プロで見るべき」10人の逸材…元ヤクルト編成部長のノムさん“右腕”が選ぶ

 夏の甲子園は、いよいよ明日23日、関東第一と京都国際の初の決勝進出同士の対戦で優勝チームが決定する。今大会でプロのスカウトの目に留まった逸材は誰だったのか。決勝進出の2チームに候補はいるのか。ヤクルトで編成部長を務めてコーチとしては故・野村克也氏の右腕として活躍した松井優典氏に秋にドラフト指名される可能性のある10人逸材をリストアップしてもらった。

 ナンバーワン評価は東海大相模の左腕エース藤田

 “開場100年”の甲子園で開催された夏の大会も、いよいよ明日クライマックス。テスト導入された昼の猛暑時間帯を避けた試合スケジュールや、低反発バットによる本塁打数の激減、大社旋風と、話題に事欠かなかった大会だったが、今秋のドラフト戦線に絡んできそうな逸材はいたのか。
 ヤクルト編成部長時代にはドラフトの責任者を務め、阪神時代にはスカウトとして選手発掘に尽力し、ヘッドコーチとしても、ヤクルト、阪神で名将“ノムさん”を支えた松井氏に大会を通じてチェックをしてもらった。
 松井氏は「厳しいようだが、競合しそうな1位候補や低反発バットへの技術的な対応の過渡期などの影響もあって超大型のスラッガーもいない不作と言っていい大会になった」と総括した。
「ただ、その中でも素材型、完成型を含めてドラフト指名されそうな選手は何人かいた。特に投手では、剛球タイプよりも、小さく手元でボールを動かす実戦型の投手が増え、一定したレベルのある左腕が揃ったのが特徴だったのではないか」
 ランキングをつけると、上位は投手陣が占める結果となり、大会ナンバーワン投手にあげたのは、東海大相模の1m98、96㎏の大型左腕の藤田琉生だ。最速は149キロで今大会でも147キロをコンスタントにマーク。3試合の防御率は0.84だった。
「大型左腕は成功しないと言われているが、彼は身のこなしがいいのであてはまらない。初戦では意識して三振を取りにいき、次の試合では調子が悪かったのか、一転、打たせて取る投球に徹して無失点に抑えた。こういう切り替えのできる修正能力は評価ができる。二段モーションからリリースポイントが打者に近く、冷静に打者の反応を見た投球もできている。ドラフト1位の可能性もあると思う」
 初戦の富山商戦では13三振を奪ったが、3回戦の広陵戦では、6回を投げてわずか2奪三振ながらも2安打しか許さなかった。松井氏は「投球後にアイシングをしながら捕手のプロテクター装備を手伝っていた。伝令にも走った。そういう姿勢がいい」と賞賛した。
 続いて2位にランクしたのが、決勝進出を決めた関東第一で背番号「1」をつける右腕の坂井遼。準々決勝の東海大相模戦では2点をリードした9回にリリーフ登板し、ギアを全開にして腕を振り、自己最速を更新する151キロを叩きだしている。
「ストレートに128キロから148キロまでのスピード差で緩急をつけることができて苦労せずストライクを取れる。スライダー、チェンジアップと、ストレートの腕の振り、リリースポイントがほぼ同じ。投球術に磨きがかかり春からの成長を感じる。ヤクルトの奥川にその姿が重なる」
 次が報徳学園の1m88、80㎏の大型右腕、今朝丸裕喜。松井氏は、春のセンバツでは彼をナンバーワンと評価していたが、「素材は文句なしだが完成度が低かった。素材型から実戦型への成長がうまくいかず、ボールにバラつきがあった。右打者のアウトローに決めるボールが少ない。抜けていた。肩の可動域に問題があるかも」と夏は3番手にした。

 

 今大会のドラフト候補の中では、この3人が抜け出た存在で次に続くのが準決勝の京都国際戦で6回から登板したものの、3失点で逆転を許し敗戦投手となった青森山田の右腕の関浩一郎だ。最速は152キロ。
「下半身ができたのか、リリースポイントが安定したことで制球力がよくなりフォアボールが減った。変化球でもストライクが取れるようになった。春からワンランクアップした。147キロの球威を低めでも維持できるようになれば、さらに全体のレベルが上がるだろう」
 松井氏は「今大会は2年生も含めて左腕にバランスがよくゲームを作れる投手が多かった」との感想を抱いたが、その一人が決勝進出を果たした京都国際の中崎琉生。
「右打者のインコースに角度のあるクロスファイアーを投げ切ることができる。気持ちが強く、リリーフ向き」
 またその左腕の好投手として大社旋風を巻き起こした馬庭優太の名前も加えた。慶応大か、プロかの二択らしいが、「左投手は1m76の上背も関係ない。制球力と投球術。早実戦の魂のこもった投球にはインパクトがあった。準々決勝までは400球以上を投げても、フォームはぶれず、それほどガクンと球威やキレが落ちたわけではなかった。もちろん下位で、伸びしろに期待しての指名になるが、プロ志望届を出せば、興味を抱く球団が出てくるかもしれない」という見方をしている。
 広陵の最速148キロ右腕の高尾響は、「成長が見られず、評価が難しい」とリストには入れなかった。
 また投手として甲子園のマウンドに立ったが「打者として転向させれば面白い」というセンスを感じた投手が2人いたという。鳴門渦潮の「4番・投手」の右投げ左打ちの1m76、76㎏の岡田力樹と、OBの日ハム新庄剛志監督が応援に訪れて話題となった西日本短大付の「投手・5番」で1m85、85㎏、右投げ右打ちの村上太一だ。
 一方、野手に目を向けると捕手は2人プラス1。
 一番手は健大高崎の1m77、84㎏の捕手、箱山遥人。今大会では2試合でヒット1本しか打てなかったが、松井氏は「智弁学園戦の9回にバントを処理して三塁で封殺したプレーの敏捷性には目をみはるものがあった。フットワークがいい。ただ課題はバッティング。パワーはあるが外角球をバットの先でしか打てていなかった」という見解。
 評価としては、ヤクルトが昨年のドラフトで4位指名した常葉大菊川の鈴木叶よりは落ちるという。もう一人は、広陵の4番打者の只石貫太。通算24発のパワーがあり、二塁送球は2秒台。松井氏は「高尾という制球力と多彩な変化球を持つ投手にリード面を育てられたように見える。捕手として打者の観察力がついた。右方向へ強い打球を打てるし、何しろチーム貢献の有効打を意識して打っている部分を評価したい」という。

 

 そして捕手出身の松井氏は「プラスワン」として中京大中京の1m81、90kgの大型捕手である杉浦正悦を付け加えた。甲子園では2試合で8の5で打率.625と打ちまくった。松井氏は宮崎商戦で三盗を決め、捕手の悪送球を誘って先取点を奪ったシーンに「準備と観察力を持っている証拠。持っている素材を実戦に結びつけることのできるタイプ」と見ている。
 ショートには好選手が揃った。近年アスリート型の大型ショートが増えているのが高校野球のトレンドでもある。その中で松井氏が名前をあげたのは早実の宇野真仁朗、宮崎商の中村奈一輝の2人。宇野は名勝負となった大社戦では、ノーヒットに終わりいいところ無しだったが、松井氏は初戦の鳴門渦潮戦の第1打席でレフト前ヒットを二塁打にした走塁にセンスと可能性を感じた。
「相手が警戒して守備位置が深かったこともあるが、レフト前ヒットで躊躇せず二塁を陥れた。その姿勢は買いたいしスローイングも安定している。進学希望かもしれないが、今後追いかけていきたい存在」
 中村は県大会では投手としてもマウンドに上がり146キロを出す。
「身体能力が高くタイミングにゆったりとした間があり、投手との距離を取れる。守備も一歩目が早い」
 一方でスカウトの間では評判だった花咲徳栄の石塚裕惺、青森山田の吉川勇大の評価は下げた。
「石塚は高いレベルでバランスは取れているがプレーが雑な部分が気になった。吉川は打撃でのインパクトの際の右手の使い方に課題が残る」というのが理由。
 また石橋戦でバックスクリーン横に特大の2ランを放った青森山田の左打ちの大型一塁手の原田純希についても「パワーはあるが、バットのふり幅に課題が残っていて差し込まれる場面が目立ち、低反発バットに対応できていない。一塁という守備位置を考えるとパ・リーグ向きだがドラフトでは手を出しにくい」と厳しい見方をした。
 外野手では大学進学を明かしている大阪桐蔭の境亮陽が一番手。俊足で投手もできるアスリート型の外野手で「同じ大阪桐蔭の徳丸快晴より総合力で上。4年後が楽しみな左打者」との評価。
3拍子揃った神村学園の正林輝大は「能力は高いが右肩が入りすぎて打球がレフト方向にしか飛ばない。修正点が多い」との理由で松井氏のリストには入らなかった。
「8強が出そろうタイミングで、ほぼネット裏からプロのスカウトはいなくなるが、決勝戦という大きな舞台を経験するだけで成長する選手もいるのが甲子園」
 それぞれの思いを胸に明日全国3441校の頂点が決まる。

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