大神いずみ「夫・元木大介が考案したユニフォーム術をお母さんたちが大絶賛!次男初の背番号付けの結果は…」【2023編集部セレクション】
*****大神いずみさんは、読売巨人軍のコーチ、元木大介さんの妻であり、2人の球児の母でもある。苦しいダイエットをしている最中に、長男が大阪の高校で野球をやるため受験、送り出すという決断をしている。夢と希望にあふれてスタートした高校生活はコロナや怪我で波乱万丈。そしてこの夏で引退を迎えた。球児の母として伴走する大神さんが、この2年を振り返る。
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黄色い声の正体は
「ぅぎゃーーーっ!!
でた!誰かたぢけてーー、きゃーん!!!」
いつも野太いおっさん声とわんわんキャンキャン宅急便さんに吠える犬の声しか聞こえない我が家に、突如響き渡る黄色い悲鳴。
私ではない。
大阪にいる「太ももオバケ」、シーズン終盤で這うように起き出して名古屋遠征に向かった「作戦兼内野守備コーチ」とこの私を除いて、いつのまにか背丈と足のサイズが兄を越してしまったでっかい図体、中一坊主の瑛介しかこの家にはいないではないか。
あんた女子か!?というくらいキャンキャン大騒ぎしている目線の先には、我が家ではもう20年以上のお付き合いになる「ムカデ」「ゲジゲジ」の類いがピッとも動かず壁に現れている。特に雨上がりに裏の遊歩道あたりの木々から降りてきて、何食わん顔で我が家のいたるところに出没するのだ。
ワシャワシャと長い足が数え切れないくらいあるものから、黒くて頭の赤い、見るからに「キケン」と思しきそれまで…こうして人に説明しているだけでも嫌われそうな、明らかな害虫である。もう…名前もよくわからない。
25年近くの付き合いの虫たち
今の家に建て替える前から、私がこの家に嫁に来るよりも前から出ていたようで、立地的に防虫しようのないものらしい。
特に刺されたり噛まれたり被害を受けたことは一度もないが、出くわした時のそのたとえようもない見た目の気持ち悪さといったら…。
申し訳ないけれど何があろうと、全く仲良くできない。こんなに一緒にいても、全然可愛いとも思えない。
先方もファミリーや親戚で生息しているのか、ほんの小指くらいのおチビちゃんからウルトラ特撮ものもビックリな巨大ゲジゲジまで、あらゆる種類と大きさにたびたび遭遇する。
これがもう、25年近くの付き合いともなると。
たぶんよその人が見たら遥か彼方にドン引いてしまうくらい、私と夫はこれを全く顔色ひとつ変えないで、シャー!と駆除できてしまうようになるのである。
うちのパターンはいつもこうだ。
まずは最初に瑛介がぎゃー、と声を上げる。
すると近くにいる夫か私は、無言で「先方」に近づいていって位置と種類を確認する。
この時、ワシャワシャしたゲジゲジなら大きさによってはトイレットペーパーだけで迎え撃つのだ。
カリッと凍った敵がポトリと
しずか〜に寄って行って狙いを定めたら、渾身の一撃で、ぎゅうぅぅうーーー!!
なぜか夫はこの時自ら「きゅぅぅぅーーーーっ!」と裏声で声を上げながら迎え撃つ。きっと敵の「やられた感」を代弁してボイスオーバーしているんだと思う。なんのこっちゃ。
敵が明らかに頭の赤い、黒光りした細長い節の害虫の場合は、さらに息を潜め、動きを悟られないように殺虫剤を確保する。そろりそろりと近づいていって、敵にノズルの照準を合わせ、しばらく「無」の空白時間をおいてから、一気にシュヒーーーーーー!!!!!
カリッと凍った敵がポトリと壁から床に墜落する。ミッキー(トイプードル)がそれを嬉しそうに駆け寄ってきて食うてしまわないうちに、完全に息絶えているのを確認してペーパーで掴み、トイレへ。敵はクルクルと水流に回りながら旅立っていくのである。
ここまでが、元木夫婦の一連の害虫駆除だ。
この任務を遂行した父や母の姿に「アルマゲドン」のテーマ、エアロスミスの「I don’t want to miss a thing」を重ねて、拍手で迎える息子たち。
野球で尊敬される父は別として、私なんて今これくらいしか息子たちからリスペクトされてないんではないかと思う。
リゾートホテルで出会った「アレ」
てか。
なんでこんなに息子たち虫怖い?
こんなに華奢でかよわい母でも戦うのに。
都会育ちのお坊っちゃま、ああ情けない。
そんなことで将来、大切な人を害虫からも守ってやれるのか一体!?
ああ母は心配だ。プンプン。
でも、人には得手不得手はあるものだな。
ちなみに私は少々の虫は大丈夫、ムカデゲジゲジに加えゴキブリだってなんともないのだが、ヤモリ、トカゲの類いが全くダメなのである。
たぶんその親戚のイグアナ、カメレオンもだめ。
むかし局アナの時、誰も一緒に休めなくて1人でバリ島に旅行に行ったことがある。
夜遅く空港に着いて延々と山道を車で連れていかれ、着いたホテルは真っ暗な山奥のコテージ。フロントから部屋に案内される道の両側から「ゲコゲコ」とカエルの鳴き声のような大合唱が聞こえていた。
部屋は薄暗かったが、相当な数のゲコゲコの声が一晩じゅう止むことはなかった。
一人旅で緊張していて、ベッドに入るとスッと眠りについた。しばらくして目が覚めた時、旅先の見慣れない天井の模様にすぐ気がついた。
そして真っすぐ天井に向けた目線の先には…
明らかに「生きもの」。正しく天井に張り付いる、でっかいトカゲだ…!!!
毛布を被って動けずに一晩を過ごしたあと、恐る恐るまた天井をみると、もうトカゲの姿はなかった。のそのそといつの間にどこかへ歩いていった様子を思い浮かべただけでも…怖っ。
目が合わなくてよかった。
朝ホテルの人と話していたら、夜中聞こえていた無数の「ゲコゲコ」も、バリでは「ゲッコー」と呼ばれるトカゲの鳴き声だったんだそうな。
私はすっかり自信をなくし、翌朝街中にホテルを取り直し、カップルやファミリーだらけのバリのバカンスを、たった一人で黙々と過ごしたのだった。
てか、なんで一人で行ったバリ!!?
もう二度とリゾート地には一人で行かないことに決めている。
そして私がの世の中で一番苦手なのは…ニョロニョロした、あれです。字も見たくないので書きません。本当に、嫌いです。
ムカデを駆除する秋の夜長
というわけで、人にはどうしても受け入れることのできないものは、何かしらあるものだ。
息子たちの虫嫌いも、仕方ないことなのかな。
将来私のように、平気でムカデをきゅぅぅーーー!っと駆除してくれるような頼もしい女性と出会えるだろうか。
人と自分に足りないもの、得意なものを理解して、お互いに補い合って協力していければ、一人でいるより人生は豊かだ。
野球ばかりさせていて、広くいろんな経験をさせているかというと、ちょっと心配な息子たち。いろいろな人との出会いの中で、野球以外にもたくさん学ぶ人生であってほしいなぁ…と、ムカデを駆除しながら秋の夜長にぼんやり思う母なのである。
…いったい今日はどうしたというのだ、大神。
先日瑛介が中学のチームで初めて、公式戦のユニフォームに背番号をもらって、大会に出場した。
初めてのユニフォームに、背番号。
野球を始めてみると、この二つがいかに大切なもので、誇りを感じて野球をするものなのかを知ることになる。
背番号は「ゼッケン」だと思ってた
スポーツ音痴でスポーツの知識や常識を全く心得ていなかった私は、正直にいうとつい最近まで背番号のことを「ゼッケン」と言い間違えておりました。ああ恥ずかしい。
ユニフォームは、最初から正式なものを着られるのではなく、そのチームを代表してベンチ入りするメンバーに選ばれることで、やっとチームの正規のものに袖を通すことができる。
学童から始めた息子たち二人とも、上級生になった時、チームの正規の公式戦ユニフォームをもらった時、背番号をもらった時の嬉しそうな満面の笑顔を、母は忘れられない。
子どもが誇らしい顔をする時って、本当にいい顔だと思う。
そして、いただいた番号に必ず憧れのプロ野球選手の番号を重ね合う。
「25番は岡本選手だ!」
「6番は坂本選手だ、」
「2番は吉川選手!」
「いやそこはお父さんの『元木』やないんかい!?」あはははははは。
そして彼らは幾つになっても、あの時あの試合で何番を付けて出た、というのを忘れることはない。
母は息子の歯がいつ生えてきたのかも忘れてしまっているのに、息子たちは最初にもらった背番号、活躍した試合の時の番号をしっかり覚えている。ごめん。母はまったく記憶にないんだが。
ユニフォームや背番号は大事な試合で身につけるものなので、洗濯や保管にもとても気を使うものだ。
チームで管理される背番号となれば、なくしたり破損させたり、ヨレヨレなまま返したりするのは御法度である。
今はユニフォームの素材に伸縮性がありシワになりにくいものが多いのだが、昔は綿素材で乾きにくいしアイロンがけも必要だっただろうし…ありがとう新素材。野球母、助かります。
夫が学童のコーチをしていた時、チームのユニフォームを変えて、背番号を従来の縫い付けからマジックテープにしたことで、一躍元木はお母様方から「きゃーん♡」と大人気を集めることとなった。
中学野球になると、背番号の付け替えが頻繁になるにもかかわらず縫い付け式なことが多く、長男のとき背番号を一周縫いつけるのに、一晩かかって指は血だらけになっていた。
前開きが全開しないユニフォームだと、伸びる素材なうえに縫いにくくて前身頃まで糸が貫通、なんなら自分の太ももの服地まで縫ってしまってありゃりゃりゃりゃ…みたいなことになってしまう。
笑い事ではない。本当にそうなのだから。
意外にもスルスルと
縫い直し縫い直し、やっとこさ縫い付けたと思ったら、服地に縫い縮みしてしまって、れれれれれ…。そして縫い直し無限ループにはまるのだ。
ふひゅー。
そんなことをまた覚悟しながら瑛介が中学野球にチームにはいったのだが、このチーム、
まさかの「背番号は選手本人が自分で縫う」決まりなのである!!!!!
高校に上がった時、野球寮生活では背番号を自分で縫うことになる場合がある。だから今のうちにできるようになっていれば、どんな高校に行っても苦労しなくて済むとだろう、という教育なのだと思う。
まさに!料理や裁縫は男女関係なく、できて困ることなんて一つもない。またここで親が手を掛けてしまえば、いつまで経っても「誰か」にやってもらわないとできない人になってしまうのだ。
チャーンス!!いまがまさにチャンスではないか。
私の拳は天高く突き上がった。
きびしいようだが、これも最初はどんな出来でも構わないから、とにかく一人でやってごらん。
瑛介は案外素直に聞き入れ、針と糸を手に縫い始めた。親心でユニフォームの中に下敷きを入れて貫通を防ぐ工夫を施した。そばで見ていたら口も手も出したくなるので、私はその時台所に立って遠くから様子を見ていた。
何度かヘルプを求めてきたが、意外にもスルスルとなみ縫いがはかどる瑛介。
そして出来上がったのが、これ。
…やるなあ。上出来。
なんかお母さんが縫うのとあまり変わらないのは気のせいか。お母さんの写真、出すんじゃなかった。
これから何度かこれを繰り返すたびに、いつのまにかちょちょいのちょい、で上手になっていくのかな。
ちなみに大阪の兄はどうしていたんだろう。
本人に聞いてみたらあっさりと、
「できる友達に縫ってもらった」と白状した。
お友達に感謝。
あのなぁ…。
11/29 12:30
婦人公論.jp