大神いずみ「野球少年たちに、熱中症の季節がやってきた。次男の送り迎えの週末、長男・翔大は父・元木大介の背番号を背負ってデビューなるか?」

バットを構える元木翔大

バットを構える次男の瑛介。今日も頑張ったね(写真提供◎大神さん 以下すべて)
大神いずみさんは、元読売巨人軍の元木大介さんの妻であり、2人の球児の母でもある。2人の球児の母として伴走する大神さんが日々の思いを綴る。

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【写真】翔大の背番号は父・元木大介のジャイアンツ入団当初のと同じ!

前回「大神いずみ「目に入りそうな髪で野球をして父・元木大介に叱られていた中2次男が、さっぱり坊主に!何かを乗り越えた、かも?」はこちら

今週も「嵐」がやってくる

7月某日、木曜日。

次男の野球チームの週末の予定が確定するのは、いつもその週の木曜日の夜だ。

この週末が往復150キロ超えの遠征になるのか、都内の河川沿いのグラウンドを借りた練習になるのか。息子は大好きな野球ができることにかわりないが、親にとってはその野球に向かうための準備、送迎、ほかの家族との調整など、やるべきことが山ほどある。できればこんなわたしでも、もう一人くらいいて欲しい。

「嵐」の週末予定は木曜日の和やかな夕食が終わる頃、
「ピロン」
わたしの携帯に通知が入る。ちょっと祈る。心をざわつかせながら薄目を開けて携帯を見る。

学年ごと、選抜チームなどいくつかのグループの中に、我が家の名前を見つける。場所と集合時間を確認した、まさにその時から…

我が家の怒涛の週末が始まるのだ。我が家は毎週こんな感じ。
ああ今週も「嵐」がやってくる。

ところで野球の送迎など前の週末の疲れが取れるのは、だいたい水曜日の夜あたりだ。

そう、それ筋肉痛に似ている。
筋肉を使った当日より、翌日、翌々日くらいまでの痛みが何よりしんどい。痛みが落ち着いてテテテテ…と言わなくなるには大体3日くらいかかるではないか。
あれです、あれ。疲れが取れるまでにかかる時間は、毎年毎年少ぉしずつ伸びていく気がする。

熱中症対策の季節

というわけで、木曜日の夜。

今週は夫の仕事が土日に重なり、完全母の送迎が確定している。
瑛介小さくガッツポーズ。コラコラ。

土曜日の予定は…
かなり遠い球場への送迎を覚悟していたのだが、土曜日は朝から河川敷のグラウンドで練習。瑛介の遠征は日曜日に入っていた。ふぅ。いつも通りの時間だ。ただ、予報ではかなり高温の酷暑になるらしい。

熱中症対策の季節がやってきた。
水筒スポドリ・2L、オーエスワン(経口補水液)、氷、氷嚢、凍らせたゼリーと麦茶(保冷剤がわり)、捕食おにぎり、濡らしたタオル、そして予備のスポドリ・2Lが1本。

去年の酷暑を乗り越えた経験で、朝ご飯を食べないのは危険だと学んだ。それでも倒れたら、たぶん息子は寝不足だ。昨夜早く2階に上がって寝ると言いながら、何をしとった?という話。 

朝ごはんのおにぎり

いつもの遠征セット。おにぎりの外側には鮭と明太子がちょこっと乗っていてわかりやすくなっています。夫作…。繊細さが怖いんですけど

兄が中学のとき、練習中に熱中症で救急車で運ばれたことがあり、酷暑の季節の野球はとくに気を遣うようになった。
本人もしんどいが、暑いなか周りの人達にも手を煩わせ、親も緊急にどこからでも駆けつけなければならない。

対策できるものならトコトンやるべきなのだ。

やれやれ。土曜日は普段通りね〜、などとゆっくりお茶でも淹れていたら、長男・翔大から電話がかかってきた。

「オカン、見に来れんの!?」

大学の寮生活も早いもので半年。すっかり馴染んで、何よりあの翔大が大学に通っている!!
いまだ信じられない母。
しかもここまでのところ、大学の野球はまだまだ下級生、地道な練習の日々だが、大学の講義にはごくごく真面目に毎日通っているらしい。口が裂けても自分の大学生の時の話なんかできない。
「あしたの一限、解剖学か〜」
などというセリフが翔大の口から出てくるとは、去年までは思わなんだ。
今では立派な大学生である。

そんな翔大がちょっと興奮気味に、
「土曜日の慶應大とのB(Bチーム)戦、背番号もらってベンチに入れることになった!オカン、見に来れんの!?」
と言っている。

いやそれはめでたい。やったじゃん!背番号は奇しくも、父親がプロに入って最初につけた番号「37」。相手は天下の慶應大学だが、それはしっかり頑張らねばだ翔大。1打席でもチャンスをもらったらしっかり振ってー!

この時点で全く行く予定になかった翔大の練習試合。朝瑛介を多摩川に送って駆けつけるには50キロ以上距離があって時間が厳しい。無理だよごめんね。

翔大は電話の向こうで明らかにガッカリしている。

小さい時、授業参観でも上半身だけきっちり後ろを向いて親を探していた子だ。出番はないかもしれないが、高校の時の大阪よりは駆けつけられる場所に親がいるのだから、初めてのベンチ入り、何としてでも観に来て欲しいということか。

わたしにとって初めての大学野球観戦

たまたま対戦する慶應大学のメンバーに、学童時代の2つ上の先輩が入っていたこともあり、ここはどうにか調整して応援に行かねば!

てなわけで、急遽スーツ姿でジャイアンツアカデミー校長の仕事に向かう夫に次男を多摩川まで送ってもらって、わたしは神奈川の平塚にある東海大学のグラウンドへ向かった。

何を隠そう、わたしにとって初めての大学野球観戦だ。

これまで学童、中学野球、高校野球と経験してきて、次男・瑛介で2周目を辿りつつあるが、それぞれにチームのルールや親の仕事があった。馴染んでしまえば何でもないことだが、最初に入っていく時が一番ソワソワして緊張するもの。
正直言って翔大が試合に出られることより、初めて大学のグラウンドに足を踏み入れて観戦する緊張の方が大きかった。

「親は何もしなくて大丈夫なのか」

高校までは、いつも母たちがお茶や氷を用意したりケガや具合の悪い子の世話をしていたので、保護者の仕事が何かしらあるのでは、と思って行ってみたら…。

そりゃそうだ。
大学生なのだ。

しかもそこはホームグラウンドなので、そこで生活する学生達がしっかり野球をやるための動きと役割を心得ている。選手やマネージャーが驚くほどたくさんいる。一番仕事が多くシャッシャと動かねばならないのが、翔大ら1年生なのだ。

野球の縁の繋がりに、感慨もひとしお

何人か保護者など観客がおられたが、ただゆったりと応援席に座って試合を観戦する。親は何もしなくていいことに、初めて、改めて驚いてしまった。そこへ1人の学生が笑顔で座布団を配りに来てくれた。
なぁんとお客様扱いの父母の観戦に、何もかも初めてのわたしはひたすら「ほほぉ〜」と感心してしまった。
きっと保護者の役割はまた違うところにあるのだ。

気温35℃に迫る午前中の試合だったが、Bチーム同士でもレベルの高い野球に圧倒されてしまった。ベンチから毎打席元気よくシャー!と「バット引き」が飛び出してくる。
背番号「37」元木翔大である。

結局この日翔大は終始バットを振って準備していたが、機敏なバット引きを務める姿を見て終わった。でも大満足。頑張っている息子の姿を、グラウンドで久しぶりに見られたのだから。

学童の先輩の3年生らしい胸のすくようなヒットも見られた。かっくいいー!学童以来久しぶりに同じグラウンドの中にいる2人をずっと眺めていた。

2人ともここまでそれぞれいろんなことがありながら、どの時点でも辞めずに大学野球までたどり着いて、ここでまた会えるだなんて。
野球の縁の繋がりに、感慨もひとしおだった。

すっかり大人びた2人が話しているのを、「推し活女子」のようにキャッキャと写真に収める母。
いつかまたどこかで一緒に野球ができる日が来るかなぁ…。
その時はぜひ打席に立って、胸のすくヒットをお願いね息子。
目にも鮮やかな緑の中に球音が止まない、東海大学のグラウンドだった。

帰宅後、今度は次男のチームから連絡が入り…

早く試合が終わり、渋滞もなくスルスルと45キロ戻って帰宅。
誰だかわからないくらい化粧の落ちた顔を洗い、サッパリして遅いランチを食べていた。

とそこへ、携帯に「ピロン」
お知らせが入る。次男のチームからだ。

「午後から雨予報のため、早く終了する可能性あります」

いやぁな予感。確かに予報では雷マークも。
お昼寝する気満々だった母、焦る。

食べ始めのパスタをすすりながら「雨雲レーダー」をグイグイ動かしてみると、ちょうど45分後くらいに激しい雨雲が河川敷を覆い出す。雨ならまだしも中学野球は金属バットを使うので、雷が鳴ったら即撤収だ。

仕事終わりの元木校長に迎えを任せていたのだが、夫は間に合いそうにない。口の端から麺を一本垂らした状態でカギをつかみ、車で家を飛び出した。

河川敷に到着した途端、即ゴロゴロゴロゴロ…子供達は大急ぎで道具を運んでいるところだった。
ふぅ。
間に合ったはいいが明らかに空がズンズン黒くなりだし、近くで稲光が見えた。ポツっと降り出したら間違いなく即ズブ濡れになるやつ。急げー!
荷物をまとめて挨拶もそこそこに選手たちは家路を急いだ。
帰り道は車のワイパーがムキになって速く振れるような、強い雨に打たれて帰った。

急な天候変わりにブンブン振り回される野球民たち。
いつものことだが…大慌てだ。

土だらけで頑張る元木瑛介

瑛介、暑い中ドロドロです。いつも帰りの車に乗せる前にウッ…と詰まってしまいます

この季節を無事乗り越えられますように

思いがけず朝からバタバタしてしまったが、あっという間に土曜日が終了。

そして翌日はまた、 片道45キロほどのグラウンドに遠征。
前日と同じ準備に5時起き6時半出発。東名下りの混雑は見通しが効かない。

予想最高気温、37℃。
河川敷のグラウンドは陽射しを避けるものがほとんどなく、テントや日傘で陰を作るほかない。2つのテントの間を空けてさらにブルーシートで屋根を作り日陰を増やす。何かの陰に入っていないと陽射し直撃、火傷を負うような暑さだ。

そんな中で、子供達は元気に野球をやっている。勝負をかけている。我が子たちではあるが本当に…「すごいな」と感心してしまうような、猛烈な暑さのなか。

そろそろ高校野球の代表が決まる時期だが、いつもこんな中でどの世代のどんな野球も、この酷暑のなか止まることはない。

現実なのか?本当に大丈夫なのか?と心配なのは、わたしだけだろうか。

試合ができることへの感謝は変わらない。場所がなければ、相手がいなければ野球はできないものだ。暑さと試合ができることを天秤にかけたら、間違いなく後者が選ばれるのだろう。

その高みを目指して毎日頑張っている野球少年たちが、どうか無事に元気にこの季節を乗り越えられますように。
そのためのサポートを私たち親はほんの少しだって惜しむことはない。
親たちだって絶対乗り越えてみせる、この季節!

気合いでなんとか乗り切ったこの週末。

日曜日の夕方以降の記憶は、もう溶けてなくなってしまった。ドロドロに疲れたのか、気を失いながらなんとか夕食を食べさせ、わたしも諸々片付けを終えてシャワーを浴びたあとビールを一口飲んだら、そのまま倒れて寝落ちしてしまった。

はい、また水曜日まで「筋肉痛」です。
みなさま、どうかお大事に。

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