木村拓哉ドラマ“職業コスプレ”の歴史…『ロンバケ』のピアニスト、『HERO』の検事、ついには総理大臣からアンドロイドまで…キムタク30年史を振り返る

木村拓哉主演のドラマ『Believe-君にかける橋-』(テレビ朝日系)が4月25日にスタートする。今回の役は「土木設計家」だが、これまで彼が演じてきた役は「ピアニスト」「検事」「パイロット」「レーサー」「外科医」と実に多種多様だ。華麗なる“キムタク職業コスプレ”ヒストリーを振り返ってみよう。〈サムネイル/左:2018年11月21日発売『ロング バケーションBlu-ray BOX』(ポニーキャニオン、フジテレビジョン)、右:『[Blu-ray]HERO Blu-ray スタンダード・エディション 2015』(フジテレビジョン、東宝)〉

【画像】キムタク出演連ドラ26作品の「職業コスプレ」リスト

ドラマで演じる職業が学校や職場で話題になる木村拓哉

およそ30年、日本のドラマ界を牽引し続ける、キムタクこと木村拓哉。

彼が連続ドラマ初主演を果たしたのは、山口智子とダブル主演だった1996年の『ロングバケーション』(フジテレビ系)だが、それ以前から2番手キャストとして出演し、実質ダブル主演のような形を取っている連ドラもあった。

1994年の萩原聖人主演『若者のすべて』(フジテレビ系)や、1995年の浜田雅功主演『人生は上々だ』(TBS系)などでキムタクが演じたキャラが、主人公に匹敵する主役級ポジションだったことを考えると、30年前から連ドラの主人公格に抜擢されていたことになる。

そんなキムタクドラマにおいて、ストーリーや共演キャストとともに注目を集めてきたのは、「彼がどんな職業を演じるか」という点。新作ドラマの概要が発表されるたびに、「今度のキムタクは○○(職業)らしい!」と学校や職場で話題になったものだ。

そこで、まずはキムタクが主人公及び主役級で出演した連続ドラマ全26作品の、演じた職業(肩書き)の一覧を振り返ってみよう。

キムタクは、コンスタントにだいたい年1ペースで連ドラで主演を務めており、それを約30年もライフワークのように続けているわけだから、とてつもない“職歴”である。

会社員やフリーターといった一般的な肩書きのドラマもあるものの、パイロット、アイスホッケー選手、レーシングドライバーなど稀有な職業を一通りこなし、ついには内閣総理大臣まで演じていることには恐れ入る。

それではここからは1990年代〜2020年代まで10年ごとの印象的な作品をフィーチャーしつつ、変遷する“キムタク職業コスプレ”を分析していこう。

『ロンバケ』が元祖、『HERO』が流れを確たるものに

1990年代は、やはり正式な初主演作であり、演じた“職業”も大注目された恋愛ドラマの金字塔『ロングバケーション』(1996年)。キムタクが演じたのは、才能はあるものの大学院入試に失敗したため、音楽教室の講師をして食いつないでいるという冴えないピアニストだった。

お仕事ドラマと違って恋愛ドラマの場合、主人公の職業はそこまで重要なファクターでないケースも多い。だが『ロンバケ』に関しては、ピアニストとしての葛藤や挫折、そしてそこからの再生もストーリーに大きく関わり、ナイーブな性格がパフォーマンスに大きくリンクしていたのだ。

ちなみに“冴えないピアニスト”だったのは劇中だけ。メタ的にはピアノを演奏するキムタクの色気に世の女性はメロメロになり、影響を受けてピアノを習い始める男性が急増したともいわれていたほど。

そして、いうなれば『ロンバケ』が“キムタク職業コスプレ”の元祖だったのである。

続く2000年代。『ロンバケ』がキムタク職業ものの“はしり”だったとすれば、その後に“キムタク職業コスプレ”というストリームを定着させたのが、検事役を演じた『HERO』(2001年)だろう。

『ロンバケ』のピアニストも『ビューティフルライフ』(2000年)の美容師も、キムタクがこんな職業を演じたら……というファンの願望を叶えるものだったのだろうが、この2作品はあくまで恋愛ドラマ。対して『HERO』はキムタク主演の連ドラで初の本格的なお仕事ドラマだった。

それまでリーガル系作品の主人公といえば弁護士がセオリーだったなか、あまり世間的に注目を浴びていなかった検事を主役にするという設定が新鮮だった。しかもキムタク演じる主人公は黒髪にお堅いスーツ姿ではなく、毛先を遊ばせた茶髪にダウンジャケットを着こなした、一見チャラい風貌。

発言も行動も破天荒で、固定観念をブッ壊した“型破りな検事”像を打ち立てたのだ。

『HERO』は全話平均視聴率で34.3%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)という驚異的な数字を叩き出し、フジテレビドラマの看板枠「月9」(月曜21時枠)の歴代トップの記録を誇るモンスター級のドラマに。

その後は『GOOD LUCK!!』(2003年)でパイロット、『プライド』(2004年)でアイスホッケー選手、『エンジン』(2005年)でレーシングドライバーと、3年連続で特殊な職種を華麗に転身していたが、“職業コスプレ”の流れを確固たるものにしたのは間違いなく『HERO』だった。

また、『HERO』後のドラマでは公式に明言はされていなくとも、“型破りな○○”と形容できる主人公像が多かったのだが、これも『HERO』の影響に違いない。

斜め上まで発展し、ついにはアンドロイドに辿り着く

2000年代に生み出された“キムタク×お仕事ドラマ”というヒットの方程式は、『CHANGE』(2008年)の内閣総理大臣や『MR.BRAIN』(2009年)の脳科学者で、行きつくところまで行きついた感があった。

そして2010年代。“キムタク職業コスプレ”は斜め上まで発展していき、『安堂ロイド〜A.I. knows LOVE?〜』(2013年)で、とんでもないステージに到達する。ジャンルはSFラブストーリーで、キムタクが演じたのはなんと100年後の未来から来たアンドロイド。とうとう人外になったのだ。

暗殺者に狙われるある女性の命を護るという使命をおびるキムタク演じるアンドロイド。命の危機に無防備な彼女の前に、アンドロイドが机の引き出しの中から現れる。ドラえもんを彷彿させる登場である。

愛を理解できないアンドロイドが敵から彼女を守り抜き、愛の奇跡は起こるのか――という突飛なストーリー。さらに『新世紀エヴァンゲリオン』監督の庵野秀明氏がコンセプト/設定協力に名を連ねるなど、鳴り物入りで始まるも……結果、“否”多めの賛否両論が巻き起こる問題作となった。

余談だが本作スタート当時のキムタクは渋みが出てきていた40歳。個人的な感想としては、彼に非・生命体を演じさせるのであれば、せめて20代のころにしておいてあげてほしかった。

このドラマ以降は、『A LIFE〜愛しき人〜』(2017年)の外科医や『BG〜身辺警護人〜』(2018年)のボディガードなど、“職業コスプレ”としては比較的落ち着いたラインナップが続く。

そして2020年代。『風間公親-教場0-』(2023年)で演じたのは、意外にも初の刑事役。ただし、普通の刑事ではなく新人刑事の指導官というキャラクターだった。

この連ドラは、警察学校の教官役でキムタクが初めて白髪キャラに挑戦し、冷酷無比な主人公を演じて人気を博したスペシャルドラマ『教場』シリーズの前日譚。

演技が一本調子で「なにをやってもキムタク」と揶揄されることもあったが、『教場』シリーズでは従来のキムタク節を封印した渋い演技で魅せ、冷徹な大人の男を体現していたため、「なにをやってもキムタク」から脱却。

キムタクをかっこよく撮るということは二の次にして、重厚な人間ドラマをシリアスに描こうという気概が感じられ、高く評価される作品となった。

――いよいよ4月25日の放送開始が迫る新ドラマ『Believe-君にかける橋-』でキムタクが演じるのは、大手ゼネコン所属で橋づくりに情熱を燃やす土木設計家。ヘルメットと作業服に身を包んだ、また新たな彼の演技と魅力が見られるだろう。

しかし、本作は単純なお仕事ドラマではなく、先の読めないサスペンスと心に染みる人間ドラマが織りなす壮大なストーリーになるとのこと。

彼の主演ドラマはよくも悪くも毎回大きな注目を集めるが、そんなプレッシャーを跳ねのけて、何度も何度も大ヒット作を生み出してきたのがキムタクだ。今作にも期待したい。

文/堺屋大地

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