中高年パワー全開! 爆風スランプ40周年ツアー最終日をレポート「再会はまたいつの日か、あの場所で」
Text:谷岡正浩 Photo:岸本勉/PICSPORT
渋谷公園通りの坂を上りきったところに、今はLINE CUBE SHIBUYAと名称を変えたそのホールはある。どれだけ名前が変わろうが、建物が新しくなろうが、そこにその場所があるという事実は変わらない。そしてこの日、そこでライブを行うのは爆風スランプ。1999年に活動を休止して以来、何度か単発での復活ライブはあったものの、本格的にツアーをまわったのは26年ぶりのことだ。デビュー40周年を記念したプロジェクトの一環としてリリースされた、こちらも26年ぶりのシングル「IKIGAI」、そしてバンド初となるメンバー自身のセレクトによる、ベスト盤を引っ提げてのツアー最終日の模様をレポートする。
思わず、懐かしさに引き戻されそうになってしまう。けれど、彼らが描いて見せたのは圧倒的に今だった。年齢を重ね、紆余曲折を経て再び集まったバンドの、言うなれば生々しいまでの現状報告として、この日のライブは多くのオーディエンスに勇気を与えるものだった。それは、オープニングに中国のロックバンド布衣(ブイ)が登場したことによって、より鮮明となった。爆風スランプの活動休止後に中国を拠点に活動を開始したファンキー末吉(ds)は、デビューアルバムをプロデュースしたことが縁となり、2018年に布衣の正式メンバーとなった。中国国内を年間100本のペースでツアーをするという実力派ライブバンドである彼らの演奏は、前評判に違うことなく凄まじかった。
そして彼らが最後に披露したのが「リゾ・ラバ」で、そこに途中からサンプラザ中野くん(vo)、パッパラー河合(g)、バーベQ和佐田(b)が加わった。1999年からこれまでの、言ってしまえば空白期間を埋めるような演出に、爆風スランプの時計の針は確実に動き続けて今に至っているのだと感じられた。あるいは、それは演出などではなかったのかもしれない。ごく自然な振る舞いとして、布衣からのバトンを受け継いでこの日のライブを盛り上げる――純粋なバンドマンとしての使命感がそうさせたのだと思う。だからこそ感動した。紛れもなく爆風スランプがそこにいると実感できた。
普通なら客電をつけた状態で、もちろん音も止めて行われる転換だが、暗転の中、ピンスポットに照らされたパッパラー河合がプレイするのと同時進行でなされた。そして、そのギターフレーズがそのまま次に演奏する「えらいこっちゃ」のイントロになってライブがスタートするという、時間を止めるな! と言わんばかりのスタッフも含めた心意気に胸が熱くなった。と、思うまもなく繰り出されるバーベQ和佐田、ファンキー末吉、パッパラー河合による挨拶代わりの猛烈なソロに、爆風スランプが隠し持っている鋭い牙のようなものを改めて見せつけられ、このバンドの音が色褪せない理由が分かった気がした。
「26年ぶりのツアー、最終日でーす! 燃えつきまーす!」というサンプラザ中野くんの宣言に続いてメンバー紹介が行われた。「名古屋、兵庫、渋谷、まだまだできるな」(パッパラー河合)「根性〜! 40年経っても言い続けています。人間変わりません!」(ファンキー末吉)「奢ることなく力一杯やらせていただきます」(バーベQ和佐田)サポートには、中学生からの爆風スランプファンであるジミー岩崎(key)というラインナップ。
そしてここで、今回のツアーの裏テーマがサンプラザ中野くんより発表された。「あのときの中高生が今、中高年に。中高年の方が中学生よりも自由に動けます。使えるお金もあります。中高年パワー!」この後、ライブでは何度も「中高年パワー!」と連呼する場面があった。この言葉はそのまま、このツアーの表のテーマである“あなたのIKIGAIナンデスカ?”にそのままリンクするものだ。
ライブの中盤は、「War」「まっくろけ」とベスト盤にも収録されている楽曲をパフォーマンス。前者は文字通り戦争のことを、そして後者は生きづらさを歌ったものだ。どちらも普遍的なメッセージとして、というよりも今だからこそより切実に響くというのはある意味での皮肉かもしれない。この2曲を受ける形で披露された「それから」は、ささくれだった心をそっと撫でてくれるように優しく響いた。
ここからは、パッパラー河合ワンマンショーともいうべき時間。MCの中で、なぜパッパラーなのか? そのルーツを明かしてくれた。それは、デビューの際、サンプラザ中野くんやファンキー末吉のように何かあったほうがいいというレコードメーカーの人の提案だったということだ。「パッパラーってどうだい? って言われて、ええ! って思ったんですけど(笑)、まあせいぜい2、3年だろうなと。それから40年です。今、はっきり言います、俺がパッパラーだ!」
パッパラー河合がボーカルを担当する「スーパーラップX」をファンキー末吉、バーベQ和佐田の3人でパフォーマンスした。この後、サンプラザ中野くんも加わり、“出身地マイ・ラブシリーズ”(サンプラザ中野くん「流山マイ・ラブ」、パッパラー河合「柏マイ・ラブ」、ファンキー末吉「坂出マイ・ラブ」、バーベQ和佐田「京都マイ・ラブ」)の誰バージョンを歌うかのジャンケンが行われた。一発で勝利したのは、バーベQ和佐田。ちなみに、バーベQ和佐田は加入するときに、タコス和佐田という名前をメンバーより提案されるが、それを拒否して「バーベQならいいよ」ということで現在に至っていると明かされた。
「史上最悪のヘヴィメタル・ナンバー!」とファンキー末吉が吠えて始まったのは「たいやきやいた」。爆風スランプがデビューした当時の1984年に、一際盛り上がっていたシーンである“ジャパメタ”をパロディしたナンバー。当時のシーンに対する辛辣な音楽風刺とも取れるこの曲が、もはやジャパメタの影もない2024年に炙り出すのはジャンルという括りの危うさだ。メタルも含めてニューウェイブやファンクなど、あらゆる音楽を雑食的に取り込んでオリジナルを追求してきた爆風スランプのアイデンティティーとして逆照射される。まさに上から読んでも下から読んでも「たいやきやいた」、とういうことだ。
「ひどく暑かった日のラヴソング」、そして1stアルバムに収録の「よい」と「うわさに、なりたい」をメドレー風に、さらに「涙2」とたたみかけた。本編最後の曲は「Runner」。その前のMCでサンプラザ中野くんが、「この曲にはいろんな思いがこもっている曲です」と言って、こう続けた。「昨日の朝、(江川)ほーじんの夢を見て起きました。爆風スランプのどっかの野外ライブのステージに、和佐田さんがいるにも関わらずベースを持って駆け上がってきて、すごい元気で、前よりもハンサムになって、ベースを弾き散らかして盛り上がっていました。最高のベーシストをふたりも抱えて、本当に幸せなバンドだと思います。いつかダブルベースでおおくりできたらいいなと思います」
バンドにとっての最大のヒット曲がもたらしたものは、いいこともそうじゃないこともたくさんあるだろう。けれどひとつはっきりと言えることがあるとすれば、それは今ここで聴いている「Runner」が最高だという事実だ。何年経っても誰かの背中を押し続ける曲として、「Runner」はもしかしたらバンドを追い抜いて走り続けているのかもしれない。
アンコールに入る前に、気づいてしまった。今回のツアーの大テーマである新曲「IKIGAI」がまだ披露されていないことに。にもかかわらず、アンコール1曲目はパッパラー河合の弾き語りによる「耳たぶ」。さらに(なぜか)歌い終わった後、その場に悶絶して倒れたパッパラー河合のもとに現れた看護師姿のファンキー末吉とバーベQ和佐田によって救助され、ことなきを得たパッパラーが歌うのは「目ん玉」。〈ペロリ〉という語感がシュールに会場を転がっていく。ステージに現れたサンプラザ中野くんの「中高年パワー!」という掛け声ですべてが中和され、「IKIGAI」へ。
誰がこの展開を予想できただろうか。きっとデビュー当時から一切変わっていない姿勢なのだろう。ちなみに「IKIGAI」がリリースされた8月25日は、デビューした日と同日だった。「(今回のツアーの)リハーサルに行くのがウキウキした。リハーサルで歌いながらもウキウキしてた」とサンプラザ中野くんが言ったように、バンドは今、最高の状態にある。まるでデビューするときのような期待感に胸を膨らませて。だからこのツアーは、爆風スランプの新たな始まりなのだと思う。
「いつとは言いませんけど、大きな玉ねぎの下でやりたい。でもそこがゴールじゃないよ。そこからまた新しいスタートだから」ラストは「大きな玉ねぎの下で」。再会はまたいつの日か、あの場所で――。
<公演情報>
『爆風スランプ~IKIGA~デビュー40周年日中友好LIVE“あなたの”IKIGAIナンデスカ?』
2024年11月17日(日) 東京・LINE CUBE SHIBUYA
【セットリスト】
01.リゾ・ラバ
02.えらいこっちゃ
03.月光
04.夕焼け物語
05.War
06.まっくろけ
07.それから
08.スーパーラップX
09.京都マイ・ラブ
10.たいやきやいた
11.ひどく暑かった日のラヴソング
12.よい〜うわさに、なりたい
13.涙2
14.Runner
EN1
15.耳たぶ〜目ん玉
16.IKIGAI
17.旅人よ〜The Longest Journey
EN2
18.THE BLUE BUS BLUES
19.大きな玉ねぎの下で
爆風スランプ 公式サイト:
https://www.sonymusic.co.jp/artist/BakufuSlump/
11/21 12:00
ぴあ