『ヒットマン』実在した「ニセの殺し屋」の人生逆転劇! 注目俳優グレン・パウエル主演、セクシーなクライム・コメディ【おとなの映画ガイド】
タイトルがありふれていて、うっかりスルーしてしまうかもしれないけれど、9月13日(金) 公開の『ヒットマン』は、見逃すには惜しい作品。ヒットマンと聞くとつい、ドンパチのアクションを想像するが、この映画はちょっと違う。“プロの殺し屋”になりすまし、警察のおとり捜査で活躍した実在の人物を、人気俳優グレン・パウエルがパワフルに演じるクライム・コメディだ。
『ヒットマン』
プロの殺し屋になりすまして、依頼人を舌先三寸でその気にさせ、嘱託殺人を引き受ける。実は警察のおとり捜査で、お金を受け取った時点でアウト。交渉の一部始終が録音・録画されていて、気がつくとパトカーが待っている──。
この映画のモデルになったゲイリー・ジョンソンは、この方法でざっと70人以上を逮捕に導いた、アメリカに実在したスゴ腕潜入捜査官。こんな人がいたら、そりゃ映画にしたいと思うだろう。あのブラッド・ピットも、目をつけたひとりだという。
映画化権を獲得したのは、『トップガン:マーヴェリック』でインパクトを残し、今年夏に公開された『ツイスターズ』でも大活躍の実力派俳優グレン・パウエルと、『6歳のボクが、大人になるまで。』の名匠リチャード・リンクレイター監督のチーム。ふたりは、残されている監視カメラの映像や捜査資料をつぶさにリサーチし、“奇想天外な男のロマン”を共同脚本で完成させた。
舞台はニューオリンズ界隈。ゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)は、二匹の猫と静かに暮らすバツイチの独身男。ふだんは大学で哲学と心理学を教えていて、大好きな電機いじりを活かし地元警察の盗撮や盗聴の技術スタッフもやっている。ところが、あるトラブルがきっかけとなって、ピンチヒッターでおとり捜査の「殺し屋の役」をすることに。
それがゲイリーの運命の分岐点になるとは! おとりは大成功。チームの仲間も高く評価してくれた。しかし、それ以上に自分自身の素質を見抜いてしまった彼は、「ニセ殺し屋」にハマり、全力で任務を遂行し始める。
ここからの展開が面白い。さまざまな殺人依頼人の雰囲気とニーズにあわせ、彼はコスプレと言わんばかりの変装をし、キャラクターを変えていく。説得力のある殺し屋になりきるってのが営業方針だ。大学で心理学を教えているゲイリーにとっては、依頼人の気持ちを読むなどお手のもの。多種多様な殺害方法や死体の処理方法を研究し、懇切ていねいに説明することも忘れない。
そんななか、さらに転機がやってくる……。支配的な夫に悩み、やむを得ず殺しを依頼してきたマディソン(アドリア・アルホナ)に一瞬で心奪われてしまうのだ。いわゆる一目ぼれ。実際に、モデルとなったゲイリー・ジョンソンもそういう女性を救うべく、刑務所ではなく保護施設へ入所できるよう取りはからった事実があったそうだ。
ここからは、セクシーで濃厚なラブストーリーと捜査に絡むサスペンスが交差しながらスリリングに進み、彼が一緒に暮らす、猫の「イド」と「エゴ」というお名前が象徴するような、ラストを迎える。
全米では5月に公開され、映画評論家の評価をパーセントで表す人気サイト「RottenTomatoes」で現在も95%が好意的レビューを書いているという高評価映画。観ている間は展開に身をゆだね、ポップコーンも進む。そして観終わったら、ああ面白かった、と充足感をあたえてくれる。そんなよくできた、おとな向けサタデー・ナイト・ムービーだ。
殺し屋稼業のいろいろな映画が引用されているシーンのなかに、宍戸錠主演の『拳銃(コルト)は俺のパスポート』が使われていて、なんだかうれしくもなりました。
文=坂口英明(ぴあ編集部)
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09/09 12:00
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