「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」11月10日まで開催中 9月7日には「大地の運動会」も実施

新潟県越後妻有地域の緑豊かな里山を舞台に、2000年にスタートした世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」。9回目を数える今年は、41の国と地域から275組の作家が参加し、311点もの作品を展示。11月10日(日) まで87日間にわたって開催されている(火・水曜休)。

7月13日(土) に行われた開会式で、総合ディレクターの北川フラムは「目は広く世界に、足はしっかりと大地に、というのが基本。(越後妻有の)場所や気候、農業、生活文化に関わる人々をアートがつないでいく」と語った。今年のキャッチコピーは「歓待する美術」。来場者がアート作品を介して土地や文化、人々と触れ合い、広く世界とつながる場所となることを目指す。

7月13日(土)、開会式であいさつする北川フラム。後ろは参加作家のみなさん

作品は十日町、川西、中里、松代、松之山、津南という6つのエリアに点在。ここでは一部エリアの新作を中心に作品を紹介する。

■越後妻有里山現代美術館MonET(十日町)

越後妻有里山現代美術館MonET

「大地の芸術祭」の拠点となる施設が、十日町市の越後妻有里山現代美術館MonET。今年は、中庭をぐるりと囲む回廊を中心に、原倫太郎+原游のキュレーションによる企画展「モネ船長と87日間の四角い冒険」が展開。国内外11の作家が参加し、大人も子どもも楽しみながら体験できる作品が設置されている。

夜はライトアップされて幻想的な雰囲気に Photo by Nakamaura Osamu

原倫太郎+原游《阿弥陀渡り》Photo by Nakamaura Osamu

原倫太郎+原游の《阿弥陀渡り》は、中央の池のなかで放射状に柱のイメージが描かれたレアンドロ・エルリッヒの《Palimpsest: 空の池》の上に水上遊歩道を設置。参加者は描かれた柱なのか、はたまた遊歩道なのかを見極めながら「あみだくじ」のように池の上を歩いて渡ることになる。ほかにも、伸縮性のあるテープを使い、まるでクモが美術館に張り巡らせた巣のような巨大な構造物を制作したヌーメン/フォー・ユースの《Tape Echigo-Tsumari》、パフォーマンスユニットcontact Gonzoと建築家ユニットdot architectsによる《十日町パターゴルフ???倶楽部!!》など、バラエティに富んだ作品を体を使って楽しむことができる。

ヌーメン/フォー・ユース《Tape Echigo-Tsumari》Photo by Kioku Keizo

contact Gonzo+dot architects《十日町パターゴルフ???倶楽部!!》Photo by Nakamaura Osamu

加藤みいさ《溢れる》 Photo by Nakamaura Osamu

渡辺泰幸+渡辺さよ《回る音》 Photo by Nakamaura Osamu

原倫太郎+原游《The Long and Winding River (tunnel and table)》

一方、MonETの館内では、今も戦争が続くウクライナへをテーマとした企画が展開されている。

「知られざるカバコフ―生き残るためのアート」展示風景 イリヤ・カバコフのドローイング作品

「大地の芸術祭」にも多くの作品をのこし、2023年に逝去したイリヤ・カバコフは旧ソ連(現ウクライナ)出身のアーティスト。「知られざるカバコフ―生き残るためのアート」と題した企画では、世界初公開となる作品も含め初期から晩年まで70年にわたるドローイング作品を通して、カバコフの生涯と活動の軌跡をたどっていく。

ニキータ・カダン《大地の影》

ニキータ・カダン《妻有とホストメリの彫刻》

津南エリアでもインスタレーション作品を展開しているウクライナを代表する現代美術家、ニキータ・カダンの個展「影・旗・衛星・通路」も行われている。ロシアによるウクライナ侵攻がはじまった2022年から描き続けているモノクロの連作ドローイング《大地の影》は、広大な畑に倒れた人影のようなものが浮かび上がり、多くの命が失われている戦争がすぐそこにある不穏な日常を感じさせる。キーウ郊外の町ホストメリへのミサイル攻撃で破壊された屋根の金属と越後妻有の石とを組み合わせた彫刻作品《妻有とホストメリの彫刻》は、戦争の影響で作品の運搬がままならず、作家が自ら手持ちで作品を運んできたという。

ターニャ・バダニナ《白い服 未来の思い出》

ほかにも、新作ではロシアのアーティスト、ターニャ・バダニナが亡き娘に捧げるシリーズとして世界各地で行っている「白い服」プロジェクトを、妻有の住民の協力のもと住民たちの野良着をモチーフに表現した《白い服 未来の思い出》の展示、さらに日本で初めてウクライナのアート・フィルムを紹介する「ウクライナのアート・フィルムの現在」と題した特集上映なども行われている。

■十日町エリア

東弘一郎《人間エンジン》

十日町市七和地区は、さまざまな集落や市街の出身者が集まったニュータウンでありながらも、住民たちの結束力が強い地区だという。その拠点となっている「七和防災センター」で作品を展示しているのは、金属を使い、人が関わることで動く立体作品を手がける東弘一郎。「この地区のリーダーに話を聞いたところ、自分たちの強みは人間の力、人間がたくさん集まれることだとおっしゃっていて。そこから除雪車を人力で動かせないかと考えたんです」。豪雪に向き合う住民たちの団結力をイメージした作品は、自転車のように人が漕ぐことで動かすことができるその名も《人間エンジン》。会期中、走行イベントも行われている。

景山健《HERE-UPON ここにおいて 依り代》

十日町市の天然記念物にも指定されている高靇(こうりゅう)神社は、約12,200平方メートルもの敷地にスギ、ブナ、ヒノキなどの樹木が鬱蒼と茂り、日中でも涼しく神秘的な空気を感じる場所。こちらの境内では、景山健とアントニー・ゴームリーの作品が設置されている。

下から杉玉の中にすっぽりと入ることもできる

直径約5メートルにおよぶ大きな杉玉は、2000年の第1回から「大地の芸術祭」に参加している景山健の作品《HERE-UPON ここにおいて 依り代》。杉玉が4本の木に支えられるように設置され、中央にはそれに守られるように杉の幼木が植えられている。神霊が寄り付くものを意味する「依り代(よりしろ)」と題した作品には、「生きとし生けるもの、またそれ以外のものでも、ここで出会い、時間を共有するきっかけになってほしい」という景山の願いが込められている。

アントニー・ゴームリー《MAN ROCK Ⅴ》

空間と人の身体の関係性をテーマにした彫刻作品で広く知られるイギリスの彫刻家アントニー・ゴームリーの《MAN ROCK Ⅴ》は、1979年から続くシリーズの新作。地元の石職人と協働し、自然の力によって形作られた信濃川の石の造形に寄り添い、それをいかすように、石を抱きしめる人の身体を刻みつけた。神社という伝統的な場所に溶け合うように設置された作品は、地球環境と人間との関係について静かに問いかけている。

■松代エリア

椛田ちひろ+有理《空知らぬ雪》

椛田ちひろ+有理の姉妹作家が、棚田が美しい松代エリアにある峠集落の空き家で展開しているのは、豪雪地帯で暮らす人々の生活と雪をモチーフにしたインスタレーション。「人々が稼働させる除雪機が、雪を空へ返していく装置にも見えた」ことから想を得て、家屋の1階に除雪機の刃をモチーフにした回転するオブジェを設置。ここから「2階へと雪を巻き上げ、空へと返していくような、冬支度をしていくようなイメージ」で、1階から2階へと、家全体を使ってストーリーが展開していくような作品だ。

2014年に閉校した奴奈川小学校の校舎を利用した施設「奴奈川キャンパス」では、「子ども五感体験美術館!」をキャッチフレーズに子どもたちが木や光、音などを五感で体験できるさまざまな作品が展示されている。

松本秋則+秋本倫子《惑星トラリスin奴奈川キャンパス》

教室の入口からのびるトンネルをくぐり抜けた先に広がるのは、色とりどりの動物などさまざまな形のオブジェや、オブジェから奏でられる音楽に満たされた世界。カラフルな覗き穴からは、美しい里山の風景を覗き見ることもできる。竹を素材にしたサウンドオブジェを創作する松本秋則と猫をモチーフにした作品で知られる秋本倫子は、カラフルな色と軽やかなかたち、優しい音色に包まれた架空の惑星「トラリス」を教室のなかに創り出した。

瀬山葉子《Saiyah #2.10》

ベルリンを拠点に活躍するマルチメディア・アーティスト瀬山葉子は、回転するガラス板を利用して光を分割、再構成することで色彩の光が踊るように空間内を行き交う幻想的なインスタレーションを展開。会場には小さなガラス板が用意され、来場者もそのガラス板を使って光を変化させることで、作品に参加することができる。

関口光太郎《除雪式奴奈川姫》

ガムテープと新聞紙を使って物語性のある作品を制作している関口光太郎が、作品のモチーフに選んだのはこの地に伝わる「奴奈川姫伝説」。イヤな求婚者から逃れるために奴奈川の地を訪れたという伝説の姫が「逃げていたのがもし冬ならば、除雪しながらだっただろう」という空想のもと、なんと姫と除雪車を合体。来場者も雪に見立てて会場内に敷き詰められた新聞紙のなかを歩いたり、新聞紙を使って工作することもできる。

■津南エリア

ニキータ・カダン《別の場所から来た物》

MonETでも作品を発表しているニキータ・カダン。ウクライナのキーウを拠点に活動しているカダンが、東京電力信濃川発電所連絡水槽に設置したのは、旧ソ連時代の公園の遊具をモチーフにした作品。宇宙ロケットのようにも見えるふたつの作品には近づくことはできず、離れた場所から見ることしかできない。ソ連時代の夢や野望の象徴ともいえる遊具が置かれた「入ることのできない公園」は、手の届かない幸福な空間のようにも見えるだろう。

ここでは一部の作品を紹介したが、今年の新作だけでも80点以上もある。効率よく異なるエリアや作品を巡ることができるオフィシャルツアーの利用もおすすめだ。地元の食材を使ったランチも楽しめるコースなど、複数のコースが用意されているので「大地の芸術祭」公式HPでチェックしてほしい。

また、作品展示以外にも、会期中、週末を中心にさまざまなイベント・プログラムが開催されている。9月6日(金) には、国内外約20名のアーティストが参加し、「混迷する世界の中で美術は希望となり得るか」をテーマにしたシンポジウム「越後妻有アジアフォーラム2024」を開催。翌7日(日) には、地元住民や子ども、アーティストやサポーターなど、“多様な人が自分の得意技で参加する”大運動会、「大地の運動会」が奴奈川キャンパスにて行われる。

<開催概要>
「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」

2024年7月13日(土)~11月10日(日)、越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)にて開催
※火・水曜休

公式サイト:
https://www.echigo-tsumari.jp/

<イベント情報>
「越後妻有アジアフォーラム2024 「はじめまして」「いらっしゃい」――歓待する美術
混迷する世界の中で美術は希望となりうるか」

日程:9月6日(金) 13:00-16:00
会場:十日町情報館

詳細・申し込み:
https://et2024-e099.peatix.com

「大地の運動会」

日程:9月7日(土) 11:00‐15:00ごろ
会場:奴奈川キャンパス

詳細:
https://www.echigo-tsumari.jp/event/e095-20240907/

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