『日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション』レポート 個人コレクターの「私観」でたどる日本の現代美術史

精神科医で、日本有数の美術コレクターである高橋龍太郎。彼が集めた作品で構成される『日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション』が東京都現代美術館で8月3日(土)に開幕した。重鎮から若手まで総勢115組の作家作品が2フロアを使って展示される。11月10日(日)までの開催だ。

高橋龍太郎は1946年生まれ。学生運動に打ち込んだ高橋は、一旦は映像作家を目指して医学部を中退。しかし、自らの才能に区切りをつけ、再び医学の道に戻ることとなる。現在は東京都大田区で精神科医としてクリニックを開業、地域医療に従事しつつ、ニッポン放送の人気番組「テレフォン人生相談」で回答者を務めるなどの活動も行っている。

第1章 展示風景より 合田佐和子の作品群

高橋は1997年頃より本格的に現代美術作品のコレクションを開始する。現在までにその総数は3500点を超え、日本の現代美術を中心とするコレクションとしては個人所有でありながら世界最大級だ。同展は、初期から現在に至るまでのそのコレクションの変化を「私観」としてたどっていくものだ。

展覧会は6章構成。第1章「胎内記憶」は、高橋のコレクションが本格的に始まる90年代半ばまでに制作された作品を中心に展示する。若き高橋は合田佐和子や草間彌生などに強く影響を受けていたという。

第2章 展示風景より 左:山口晃作品、右:会田誠作品

第2章 西尾康之《Crash セイラ・マス》2008年

第2章「戦後の終わりとはじまり」では、高橋が本格的にコレクションを開始した90年代半ばの作品を、続く3章「新しい人類たち」では高橋のコレクションの主要テーマである「人間」を表現した作品を取り上げる。村上隆や会田誠、奈良美智に加藤泉など、現在、国際的にも評価の高いアーティストの代表作も数多く展示されており、高橋の先見の明に驚くばかりだ。

第3章 展示風景より 左:奈良美智《Untitled》(1999) 右:加藤泉《無題》2006年、《無題》2004年

第3章展示風景より 塩田千春《ZUSTAND DES SEINS(存在の状態)―ウェディングドレス》2008年

そして2011年となり、東日本大震災、そして福島第一原発の事故が起こる。この出来事は高橋の感覚を大きく変化させ、コレクションにも影響を与えることとなる。第4章「崩壊と再生」ではChim↑Pom From Smappa!Groupや竹川宣影など原発事故に反応した作家たちや、被災地との関わりのなかで作品を生みだした作家、震災後の空気のなかで作品を制作していた作家作品を紹介する。

第4章展示風景より 

第4章 手前:Chim↑Pom《ヒロシマの空をピカッとさせる》2009年 奥:Chim↑Pom《気合い100連発》2011年

震災以降、高橋がコレクションした作品にはアイデンティティや自己について、アーティスト自身が見つめ直す作品や、鑑賞者に問いかける作品も増えていく。第5章「『私』の再定義」では、岡﨑乾二郎ややんツー、村山悟郎などのこれまでの高橋龍太郎コレクションになかった性質の作品を紹介する。

第5章 展示風景より 左:小谷元彦《サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)》2022年 中央:鴻池朋子《皮緞帳》2015-2016年 右:青木美歌《Her songs are floating》2007年

最終章となる第6章「路上に還る」では、高橋が一番興味を持っているというストリートに軸を置いて制作する作家たちを紹介する。SIDE CORE/EVERYDAY HOLIDAY SQUADやChim↑Pom from Smappa!Groupらとともに、1960年代からいまも精力的に活動する前衛を代表する作家、篠原有司男のボクシングペインティングも展示される。

第6章 展示風景よりSIDE CORE/EVERY DAY HOLUDAY SQUAD《rode work tokyo_spilral junction》2022年

第6章 篠原有司男《89才のパンチ》2021年

東京都現代美術館の広い展示室、2フロア分使用して展示したボリュームのある展覧会、一つひとつの作品が力強く、見ごたえたっぷりだ。時間に余裕をもって、ゆっくり、そしてじっくり観賞しよう。

取材・文・撮影:浦島茂世

<開催概要>
『日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション』
2024年8月3日(土)~11月10日(日)、東京都現代美術館にて開催

公式サイト:
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/TRC/

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