「人間は基本、皆しょうもない」森田剛×赤堀雅秋が初タッグで挑む舞台『台風23号』に迫る!

森田剛と間宮祥太朗のダブル主演で、赤堀雅秋が作・演出を担い、自らも出演する新作舞台『台風23号』が、10月開幕へ向けて始動した。市井の人々のささやかな日常の描写から、それぞれの胸の内に渦巻く欲望や悪意などを容赦なく露呈させる赤堀独自の劇世界。森田、間宮、赤堀、初顔合わせの3人による化学反応に期待が集まるなか、 森田と赤堀、すでに似た煌めきを感じさせるふたりの緩い語らいから、秋の台風の目となる!?新作を探る。

壊しながら進化したい

――今回の新作は、『台風23号』という不穏なタイトル以外は謎に包まれているので、現時点で可能な限りの情報が知りたいです。

赤堀 すみません(笑)。基本的には、市井の人々の瑣末な描写であることはこれまでと変わりなく、そうしたことを描くのが自分の劇作家としての使命……というと大袈裟ですけど、まあそういうものしか描けないというのもあるんですが(笑)。今回もそのような物語になると思います。それをどういう視点で書くか、それも大仰な言い方をすると発明のようなもので、やっぱり自分がワクワクしながら書きたいんですよね。その高揚感がきっと稽古場で、演者やスタッフに伝染すると思っているので。だから多方面に迷惑をかけているのは重々承知で(笑)もう少し台本を粘らせてもらっています。

タイトルも、毎回物語が決まる前になんとなくインスピレーションでつけているんです。その時の自分の、世の中に漂う空気に対するモヤモヤした気持ちを反映しているのだと思いますが……。自然の猛威というか、畏怖というか、また社会に対する自身の虚無感とか、それらを何か乱暴に、暴力的にぶち壊してやりたいという気持ちとともに、それでも人間の営みは愛おしい、といった面も見せていきたいんですね。

――リアルな台風に翻弄される市井の人々、といった短絡的な想像とは違うと。

赤堀 いや、台風は来ないかもしれないし、それるかもしれないし、分からないです。もしかしたらもっと抽象的な意味合いの、いわゆるメタファー的なことなのかもしれないし。実際に台風の猛威によって、人々が右往左往して……という描写を書くつもりはないんです。

――台本はいまだヴェールに包まれたままで出演を快諾された森田さん、その決め手となったのは?

森田 赤堀さんとご一緒できる、それが一番大きかったです。赤堀さんの作られた映画や舞台、また赤堀さんが出演している作品も観て来ているので、このキャストで赤堀さんの書くモノをやれるなら、どんな内容のものが来ても、苦しいし、楽しいだろうと。ぶち壊したいとおっしゃっていたけど自分も同じ気持ちですね。自分自身を壊しながら進化したい、そういう強い思いで挑みたいです。一度お会いして間宮君も一緒にお食事した時に、「興味のない奴は書けない」って言ってましたよね?

赤堀 そんなこと言ってた(笑)!?

森田 言ってました(笑)。つまり僕らって素材じゃないですか。だから、今は頑張ってほしいなと。

赤堀 ハッハッハ!

――「どんな内容のものが来ても」という言葉に、信頼の厚さを感じますね。

赤堀 いや、まだそんなものはないでしょ(笑)。

森田 僕は完全に作品を観ていた側なので。結構、何気なく観る映画に赤堀さんが出ていることが多いんですよ。また出てる!って感じで(笑)。

赤堀 そんなに出てないけど(笑)。

森田 だから共演も楽しみですよ。でもこういう、ちゃんとドキドキ出来る、緊張出来る機会というのはいいですよね。赤堀さんの人となりも、これから知っていこうと。間宮君も初めてご一緒するんですけど、新しくもあり、古臭くもある、そんな不思議な雰囲気のある人ですね。

赤堀 うん、若者っぽくもあるけど、昭和の価値観を持っているような感じはあるね(笑)。何か熱いものは秘めているんだろうなという気はします。森田君に感じるのは、非常に人間らしく、生々しいところですね。何かでコーティングしてカメラやお客さんの前に立つのではなく、自分を晒す勇気があるというか。そうした佇まいが傍から見ていて素敵だなと思っていました。僕自身が演出家として一緒に仕事をしたい俳優さんというのも、そうした表層的なところでお客さんにサービスしたり、繕ったりするのではなく、もっとザラザラした手触りを感じる、人間臭い俳優さんが好きなもので。

『台風23号』公演ビジュアルより、間宮祥太朗と森田剛

こんな森田君は見たことないな、というものを書くだけ

――そんな“非常に人間らしく、生々しい”森田さんが、本作ではどのような人物として現れるのでしょうか。

赤堀 “しょうもない人”だと思いますよ(笑)。でも人間って多面性があるから、すごく善人に見える人でも、ある人からはすごく狂気の人に見えたりもする。今こうして物静かでナチュラルな佇まいでいる森田君も、腹の中では何考えているかわからないし、裏で何をやっているかわからないですし(笑)。だからキャラクター云々は、ちょっと説明しづらいのが正直なところで。でも人間は基本、皆しょうもないと思っているんです。自分も含めて(笑)。そのしょうもなさの中に、何か愛すべき部分や美徳があるのかもしれない。今回に限らず、いつもそういうものを描きたくて作劇しているつもりです。

森田 僕も普段から自分のことを、しょうもないな、やりたいことも出来ていないし、何だろうな〜と思って生きているので(笑)。だからそういう人は、僕にとってはどこか救われるところがあるんですよね。

赤堀 基本、当て書きをするタイプの劇作家なので、それで一回食事をさせてもらったんです。その俳優さんが他の作品でどんな芝居をしているかというのは、あまり参考にしないですね。むしろ、もう少し素の状態の佇まいを自分が肌で感じて、何かインスピレーションを起こして描きたいなと。例えば森田君なら、今までこんな森田君は見たことないな、こういう森田君が見られたら面白そうだなという、あくまで自分のド偏見で書くだけなんです。

森田 僕も一緒です。稽古が始まって、台詞を交わしてみてからのほうが、どういう人なのかがわかると思うし。それまでは僕も“こういう人かも”といった印象はいらないですね。

赤堀 とくに今回、初めて仕事をする人が多いんですね。過去に僕が仕事をしたことがあるのは秋山菜津子さんと駒木根隆介君だけかな。

森田 僕も秋山さんは以前に一度、ご一緒しています。その時はお母さん役でした。

赤堀 こういう初めての人が多い座組も自分の中では珍しいので、不安もものすごくありますけど、同じくらい期待もありますね。

“逆ディズニーランド”なファンタジー
「こういうヤツいるかも」と感じてもらえたら

――赤堀さんはこれまでシアターコクーンという空間で、5作品を書き下ろし、演出・出演されて来ました。今回はTHEATER MILANO-Zaに変わりますが、そうした劇場空間の違いは劇作に影響するのでしょうか。

赤堀 する場合もあるし、それをシャットアウトする場合もあります。コクーンで芝居をやった最初の頃は、自分の素養にない劇場空間で、背伸びをしてモノを作っていた記憶があるんですね。でも3作目の『世界』(2017年)の頃から、ちゃんと地に足をつけて自分の書けるものを書かなくてはいけないな、という思いになりました。今回は新しい劇場ですが、別にその劇場に合わせてということではなく、自分がやれることをやるだけだなと。小津安二郎さんの「豆腐屋は豆腐しか作れない」という言葉じゃないけど、こんなどうでもいい、ちまちました話を演劇界でやっているのはたぶん僕くらいしかいないでしょうから(笑)。そこは堂々と、どうでもいい話をやりたいなと思っています。

――作者の言う“どうでもいい話”に、観客は毎回ボディブローのようにじわじわ染み渡る衝撃を受けています。今回もどんな体感が待っているのか、楽しみです。

赤堀 演劇にはいろんな種類があって、賑やかで観ていて楽しい舞台もたくさんあります。その中で、舞台上の僕らがそこで一生懸命に生きているだけ、ただそれだけの瑣末な描写を観て、こういう演劇もあるんだなと、森田君や間宮君のファンの方々に新鮮に楽しんでもらえたらいいなと。

森田 そうですね。僕のことを長く応援してくれて、僕の舞台を観に来てくださるお客さんは、結構舞台に限らずいろんなものを観ている方々のように思うんですね。だからと言ってその方達に向けてやるという考えはないですし、赤堀さんの作品のファンの方や、初めて僕や間宮君を見るという方にも、どう見られたいと意識することは何もないんですよ。こうしようとか、こう見られたいとかいう考えは僕にとってはすごく邪魔なものだし。自分としては赤堀さんのやり方にしっかりついていけるようにする、それだけですね。舞台上で、その役としてどう存在するかが大事だと思っているので。“こういうヤツいるかも”、そんなふうに感じてもらえたらいいなと思います。

赤堀 僕の中では自分の作品を“逆ディズニーランド”と思っていて(笑)、自分の中ではファンタジーなんですね。けっしてキラキラした世界でも清潔感のある世界でもなく、しょうもない人たちのしょうもない描写でしかないんですが。でも、そういう愚かさやしょうもなさを見て、「自分のほうがマシだな」とか「俺も生きていていいんだな」って思ってもらえたら。そういうファンタジーになればいいなという思いで作っているので、ぜひ楽しみにしていてください。


取材・文:上野紀子 撮影:源賀津己
(森田剛)ヘアメイク:TAKAI スタイリスト:松川総

<公演情報>
Bunkamura Production 2024
『台風23号』

作・演出:赤堀雅秋
出演:森田剛 間宮祥太朗 木村多江 藤井隆 伊原六花 駒木根隆介 赤堀雅秋 秋山菜津子 佐藤B作

【東京公演】
日程:2024年10月5日(土)〜10月27日(日)
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)

【大阪公演】
日程:2024年11月1日(金)〜11月4日(月・休)
会場:森ノ宮ピロティホール

【愛知公演】
日程:2024年11月8日(金)・11月9日(土)
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

★ぴあアプリにて、8/12(月・休)10:00よりチケット先行受付開始! 詳細は下記よりご確認ください。
https://lp.p.pia.jp/article/news/379559/index.html

公式サイト:
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/24_taifu23/

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