《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024》最優秀作品賞はウズベキスタンの新鋭監督による『日曜日』
毎年、埼玉県川口市で開催され、今では若手映像作家登竜門として知られる《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024》のクロージング・セレモニー(表彰式)が21日に行われ、各賞が発表された。
世界各国の若手映画作家の多種多様な作品が並ぶ本映画祭のメイン・プログラム「国際コンペティション」部門の最高賞となる最優秀作品賞は、『日曜日』が受賞。ウズベキスタンの新鋭、ショキール・コリコヴ監督が見事に栄冠に輝いた。
ショキール・コリコヴ監督の初監督作品となる本作は、ウズベキスタンの静かな村で暮らす老夫婦の物語。いまの暮らしに十分満たされている夫婦のもとに、本人たちの心は置き去りにされて良かれと思う息子たちから次々と電化製品が届く。そこからふたりの生活のペースが少しずつ乱されることですべてのことが崩れていく。
その人にとっての幸せとはなにか、世代間の意識のギャップなど、現代の社会にある問題について深く考えさせられるとともに、長年連れ添った夫婦の絆が愛おしい1作になっている。
審査委員長を務めた白石和彌監督は本作について「本当に素晴らしい映画でした。おそらくウズベキスタンの田舎で暮らす老夫婦の日常が綴られるんですけど、ほぼほぼカメラが(夫婦の暮らす家の)中庭だけで展開していく。まずその構成にびっくりしました。
それから、日々の日常の中にある愛おしい時間というものが、心をこれだけ打つんだなということをこの映画を観て、改めて実感しました。観ている間、この愛おしい時間が永遠に続いてほしいって願うんですけど、人生と同じで、この映画にもやっぱり終わりがあって。その終わりの描き方も素晴らしい映画でした。
すごく小さなマクロの世界を描きながら、人間の営みがおそらく連綿とこうやって続いてきたんだろうなぁということを感じさせる。時にユーモアがあって時に残酷で、かつ現代の社会に対するメッセージが最後にしっかり込められている。とても、美しい、ほんとうに心を現れるような映画でした」と本作を絶賛した。
続けて「ウズベキスタンでどれぐらい映画が作られているかわかりませんけど、きっとこの受賞で得た賞金が次回作への大きな力になると思います。ぜひ、次回作に生かしてください、その作品をまた日本に届けてください」と早くも長編第二作に期待を寄せた。
白石監督から祝福の言葉を受けたショキール・コリコヴ監督は非常に物静かな性格で派手なガッツポーズで喜びを爆発させるようなことはなかったが「最優秀賞作品賞を受賞できたことをうれしく思っています。今回、この映画祭のおかげで、私は初めて日本を訪問して初めて日本で作品を上映することができてとてもうれしかったです。映画は私ひとりだけで作れるものではありません。大勢の仲間に支えてもらって作れるものです。ですから、この作品に携わってくれたすべてのスタッフとキャストに感謝します。そして、彼らにおめでとうと言いたいと思います。それから、この賞は母国ウズベキスタンの人々の賞でもあると思います」と語り、最後に白石監督へのレスポンスで「自作も早めに撮影して、日本で上映できるように頑張ります」と言って喜びの言葉を結んだ。
一方、日本映画で存在感を発揮したのが、谷口慈彦監督の『嬉々な生活』だった。日本で唯一国際コンペティション部門にノミネートされた本作だが、見事に審査員特別賞を受賞。さらに国内作品を対象に今後の長編映画制作に可能性を感じる監督に対して授与される<SKIPシティアワード>も合わせて手にした。
すでに母を亡くし、休職中の父、幼い弟と妹をひとりでどうにかして支えようとする中学生の嬉々の奮闘を描いた本作について国際コンペティション部門の審査員を務めた配給会社ムヴィオラの武井みゆき氏は「私は配給会社の人間なので、受賞作を決める上で、やはり日本全国のたくさんの方にお見せしたいかどうか、これはとても大きなポイントでした。やはり映画祭という特別な場所で上映されるだけではなくて、日本であれば、北は北海道から南は沖縄までいろいろな方たちに観ていただける機会をつくりたいと思える映画。それが私の場合は本日の賞を受けられた作品たちでした」と審査のポイントを語った上で、「キャストのすばらしさはもちろんなんですけれども、私は主人公の少女・嬉々の周りに居る大人の描き方も素晴らしいなあと思いました。このような時代で子どもを守らなきゃいけない大人もとても傷ついている。とても弱い存在である。そういうことをきちんと監督が受け止めてくださっている。だから、観客と(作品が)出会った時に冷たく感じない。映画館を出るときに自分がほんの少し強くなって出られるような気がいたしました。
そして、もう本当にラストシーンは、私は今年観た映画の中で一番感動したラストでした。自分で走り出したくなるぐらいな気持ちになりました。そういう思いにさせてくれた谷口監督には本当に感謝しかないです。ありがとうございました。おめでとうございます」と作品に出合えたことを感謝していた。
この言葉を受けた谷口監督は「どういうふうにあの受け入れられるのかなとか、どういうふうな印象をもってもらえるんだろうって、本当に分からないまま、ただ初期衝動で突っ走って制作した印象で……。それが今回、このように上映できて、このような貴重な賞をいただき、観てくださったみなさんから貴重なご意見をいただき、本当に作って良かったなという思いをいま噛みしめています。それから、出演してくれた子どもたちも、これから未来に羽ばたいていく人たちなので。この受賞をすごく喜んでくれると思うので、それが彼らの励みにもなったらいいなと思っています。ありがとうございます」と喜びのコメントを残した。
また、日本の若手映画作家の登竜門として注目を集める国内作品を対象にした国内コンペティション部門では、長編部門の優秀作品賞を村田陽奈監督の『折にふれて』が、同短編部門の優秀作品賞を田之上裕美監督の『はなとこと』が受賞した。
最後に開催を少しだけ振り返ると、今年は国際コンペティションにノミネートされた監督たちがほぼ来場。連日、海外ゲスト、国内ゲストのQ&Aが行われ、その終了後もお多くの人が会場ロビーに残り、ゲストと観客が言葉を交わす様子が見受けられた。その観客の熱心さについては確実に伝わっていて、何人か取材した海外ゲストはみな「上映とQ&Aのあとも話しかけてくれる人がいっぱいいた。こういう体験はなかなかない」と口にしていた。
ただ、いろいろと要因はあるとは思うのだが、作品のクオリティが高くゲストも来場していることを考えると、もう少し観客が入ってくれてもいいのではないかと思わずにはいられない。
このことには白石監督も総評で「これはこの映画祭の問題というよりは、私たち日本の映画界に関わるすべての問題だと思うんですけど、これだけ素晴らしい映画を毎日やっているので、ぜひとりわけ若い世代のみなさんに観てもらいたかった」と言及。「この会場自体がお客さんの熱気で溢れる映画祭にこれから25回、30回と続ける中で、育っていってほしいなあというのは切に願います」と期待を寄せた。
また、白石監督は、個人的に一番印象に残った作品としてトルコのクルド人映画監督ハサン・デミルタシュが手掛けた『別れ』に触れると、「この映画祭が行われている川口市では、クルド人の問題があります。ネットを見るとクルド人に対する誹謗中傷が溢れている。ハサン・デミルタシュ監督はQ&Aのときに、自分は伝書鳩になってクルド人の生活を世界中の人に届けること、文化を届けることが役割だといった主旨のことを言っていました。まさに相互理解がすべての始まりになると思います。そういう意味において、映画及び映画祭の果たす役割も非常に大きい。この作品を埼玉県川口市で行われる映画祭の中で、作品として選出して上映する。その意義を、僕はスキップシティ国際D シネマの静かなメッセージとしてとらえました。こういう作品を上映するからこそ映画祭をやる意義があると、心から思っています。このことに敬意を表したいと思います」とコメント。
この白石監督の言葉が表すように、映画祭という場の意義、映画祭の果たす役割について少し考えるとともに次回の開催になにをすべきかを考える開催になった気がする。
なお、本映画祭はスクリーン上映とオンライン配信上映を合わせたハイブリット形式での開催。昨日20日からオンライン配信上映がスタートし、24日(水)23:00まで続くので、受賞作はもちろん気になりながら見逃した作品があるようならば、こちらでチェックしてほしい。
受賞結果は以下の通り。
<国際コンペティション>
最優秀作品賞:『日曜日』 監督:ショキール・コリコヴ
監督賞:『連れ去り児(ご)』 監督:カラン・テージバル
審査員特別賞:『嬉々な生活』 監督:谷口慈彦
観客賞『連れ去り児(ご)』 監督:カラン・テージバル
<国内コンペティション>
SKIPシティアワード:『嬉々な生活』 監督:谷口慈彦
優秀作品賞[長編部門]:『折にふれて』 監督:村田陽奈
優秀作品賞[短編部門]:『はなとこと』 監督:田之上裕美
観客賞[長編部門]:『雨花蓮歌』 監督:朴正一
観客賞[短編部門]:『立てば転ぶ』 監督:細井じゅん
取材・文・写真:水上賢治
《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024》公式サイト
【オンライン配信】
配信期間:7月24日(水) 23:00まで
特設サイト「Cinema Discovery」にて(会員登録が必要)
07/21 19:30
ぴあ