GRAPEVINE、驚きと喜びが1曲目からアンコールまで続いていく日比谷野音ワンマンをレポート

Text:兵庫慎司 Photo:垂水佳菜

長年所属したポニーキャニオンを離れ、ビクター/スピードスター・レコーズに移籍してから、2024年で丸10年。それを記念して、GRAPEVINEは、『The Decade Show:Summer Live 2024』と銘打って、スピードスターからリリースして来た10作のアルバムから曲を選んだアニバーサリー・ライブを、日比谷野外大音楽堂と大阪音楽堂で開催した。という東阪野外ワンマンの東京編がこの日、2024年7月13日土曜日である。

大阪編は8月3日土曜日なので、以下のライブレポを書くにあたって、曲目・曲順などのネタバレは、できない。でも、普段こういう時って、「これはまずやるだろう」みたいな代表曲・鉄板曲の類いだったら、いくつかは曲名を書いてもいい、みたいになることが多いのですね。

なので、本番が終わったら、マネージャーを捕まえて、そのへんの相談をしよう、というつもりで、朝とは天気予報が変わってギリ雨具を着た方がいいくらいの天候の中、日比谷野音に足を運んだのだが。

観終わって、気がついた。いや、正確には、ライブの中盤あたりで、もう悟っていた。

ダメだ。曲目、書けない。ということを。

というか、そもそもそういうバンドじゃないか、GRAPEVINEは。それこそフェスなんかに出る時だって、代表曲目白押しみたいなセットリストでは、やらなかったりする人たちじゃないか。

自分がつい最近観た、5月5日の大阪の野外フェス『OTODAMA’24〜音泉魂〜』の時だって、「こんな真っ昼間やのに、わりとドス黒い選曲です、よろしく!」とか言ってたし、田中和将。

いや、それでも、あの時の方がまだなんぼか、ヒットパレード的なセトリだった。でも今日は違う。「スピードスター縛り」のせいだからそうなっているのでは、決してなく。

たとえば、何年か前に出た、GRAPEVINEの歴史の中でも超重要じゃない? みたいな、驚きと興奮を食らわしてくれたあの名曲、あるじゃないですか。リリース以降はワンマンでもフェスやイベントでも必ず演奏していたし、だから僕も「あれはさすがに曲名を書いてもいいだろうな」という読みだったのだが、なんと、その曲、やりませんでした。というようなセットリストだった、この日のGRAPEVINEは。

田中和将(vo/g)

かと言って、普段ライブで全然やらないような、超レアな曲ばかりを集めました、というような趣旨でもない。全体の1/4くらいは、近年のライブでよく聴ける曲もあったし、それ以外に「久々だけど、まったくライブでやらないわけではない」くらいの曲もある。で、まさに「超レア」な曲もある。

という、要は「メジャー」か「コア」のどちらかに二極化しない、かと言って「その間」で統一しているわけでもない、だからマーブル具合が甚だしい、なんとも言えず微妙で、かつ極めて絶妙な、セットリストの組み方だったのである。

どうでしょう。これは曲目、一切書かない方がいいな、と思うでしょう、どうしたって。

西川弘剛(g)

あ、このライブの3日前=7月10日にリリースされた新曲「NINJA POP CITY」は、やりました。というくらいです、さすがにこれは書いていいだろう、と判断できたのは。

ただ──ファンなら、ここまで読んでいただければおわかりかと思うが──GRAPEVINEがやるそんな内容のライブ、良くないわけがないし、すばらしくないわけがないし、楽しくないわけがない。昨日ファンになって今日初めてGRAPEVINEを観ました、という人ならちょっとわからないが、少なくとも、一定期間以上バインのファンであれば、そうだと思う。

金戸覚(b)

「うわ、この曲で始める!?」「えっ、次はこれをやる!?」という驚きと喜びが、1曲目からアンコールまで続いていく時間。いや、アンコールの最後の曲などの、ほんの数曲は「うわ」や「えっ」ではなく「あ、なるほど!」だったかもしれないが、それらはごく少数である。

で、「やり慣れている曲」と「そうではない曲」の間に、演奏&歌の仕上がりの面でギャップが一切ない、どの曲も最上の状態で演奏され歌われていくところが、さすがGRAPEVINEである。

ステージセットも装飾もフラッグも幕も何もなしでコンクリむき出し、あるのはフロントの3人の足元に敷かれたカーペットと、アンプやキーボード等の機材と、亀井亨のドラムセットが載ったライザーと、照明だけというそっけなさも、GRAPEVINEらしい。

亀井亨(ds)

そして、日が暮れていくに従って、その照明が絶大な効果を発揮し始めるも、GRAPEVINEらしいし、日比谷野音らしくもある。曲間になると、今この場所を囲むように虫の声が響くのも、日比谷野音らしい。

3曲終えたところのMCで、田中、「千代田区の雨女たちよ、GRAPEVINEです! 晴れバンドの神通力も今日は効かんかなと思ったら、止んできましたね」

高野勲(key)

確かに雨足、開演を待っていた頃よりも弱まっている。ライブ全体の中盤あたりからは、雨具を脱いでも平気になった。

中盤のMCでは、この『The Decade Show:Summer Live 2024』の趣旨を説明。「ビクターに移籍して10年だそうです。今後も10年20年、俺らが死ぬか、あんたらが死ぬか」

アンコールを求めるハンドクラップに応えて再登場した時は、「今日の野音が気持ちよかったので、またやりたいなと思います。アーユーレディ千代田区、日比谷、アモーレたちよ!」と呼びかけてから、演奏に入った。

そして「売店のお酒、飲み尽くしましたか?」などというMCをはさみつつ(自分の経験で言うと、GRAPEVINEは「日比谷野音における客のアルコール摂取量」のトップ3に入る。ちなみに、あとのふたつはハナレグミとCaravan)、数曲を演奏。超満員のオーディエンスを、この日何度目かのピークに導いた。

最後の曲を演奏し終えての去り際、田中は「幸せでした、ありがとう!」と叫んだ。そういえば二回目のMCの時にも「本日、とても幸せです」と言っていた。で、前述の5月5日大阪『OTODAMA’24』の時も、去り際に「幸せでした、ありがとう!」と言っていたような気がする。

なので、終演後の楽屋挨拶の時に、聞いてみた。

「え? あ、OTODAMAでも言うたかもなあ。というか、最近、よく言うんですよ。ほんまに幸せなもんやから」

言うまでもないが、ライブをやっている瞬間が、という話である。

<公演情報>
GRAPEVINE『The Decade Show : Summer Live 2024』

7月13日(土) 東京・日比谷野外大音楽堂

<ライブ情報>
GRAPEVINE『The Decade Show : Summer Live 2024』

8月3日(土) 大阪・大阪城音楽堂

GRAPEVINE『The Decade Show : Club Circuit 2024』

8月31日(土) 石川・金沢EIGHT HALL
9月1日(日) 長野・長野CLUB JUNK BOX
9月6日(金) 北海道・札幌ペニーレーン24
9月8日(日) 宮城・仙台Rensa
9月14日(土) 愛媛・松山W studio RED
9月15日(日) 岡山・岡山CRAZYMAMA KINGDOM
9月21日(土) 福岡・福岡DRUM LOGOS
9月23日(月) 愛知・名古屋ダイアモンドホール

MAGNIFIK GRAPEVINE×betcover!!

9月12日(木) 東京・EX THEATER ROPPONGI
出演:GRAPEVINE / betcover!!

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=11010655

<リリース情報>
「NINJA POP CITY」

配信中

GRAPEVINE「NINJA POP CITY」ジャケット

配信リンク:
https://jvcmusic.lnk.to/ninjapopcity

GRAPEVINE「NINJA POP CITY」

公式サイト:
https://www.grapevineonline.jp/

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