自身初の著書を上梓! 車いすテニス・小田凱人「僕の人生は面白い」
読む者を圧倒する生き様である。史上最年少でグランドスラム初優勝を果たし、史上最年少世界ランキング1位を達成した車いすテニスプレイヤー小田凱人の17年間は凄まじい物語である。6月21日に発売された『凱旋 9歳で癌になった僕が17歳で世界一になるまでの話』は9歳で骨肉腫に襲われ、9か月にも及ぶ入院生活の末、左足の自由を奪われた少年が車いすテニスに出合い、11歳と13歳の時にがんが再発、再手術を乗り越えて世界の頂点へ駆け上がっていく道のりである。自身初の著書でこれまでの歩みを振り返った小田は「僕の人生は面白い」と口にした。
「本を出すのは初めてだったので、ここまで深く長く振り返るというのはなかったですから、今回改めて気付いたこと、両親の話を聞いて僕の記憶になかったけど、思い出したことがあります。
すごいことを成し遂げてきた感覚はないし、『これだけやったんだぞ、どうだ』という気持ちもない。でも、自分で自分のことを面白い人間だと思いました。『すごい』とか『えらい』とかというのは思ったことないですが、『面白い』とは思う」
書籍の帯にはWBCで侍ジャパンを世界一に導いた栗山英樹氏の「なぜそこまで強く生きられるのですか?」という言葉がある。これは『凱旋』を読んだ者全員の率直な疑問だろう。
小田少年は9歳でがんにおかされても「このタイミングで車いすテニスに出合えたので逆に良かった」と回顧する。なぜ、11歳でがんが再発して肺への転移が発覚しても、車いすテニスに悪影響を及ぼすという理由で入院を拒否し、3か月にわたる過酷な抗がん剤治療と競技生活の両立を自ら決断してやり遂げることができたのか。どうして13歳で三度目の手術を余儀なくされて、完治の見通しは2030年4月だと聞いても「後ろを向いても仕方がない」と前を向くことができるのか……。
「強いなんて、思ったことがないです。メンタルに関しては持論があって、僕は強い弱いではなく、“うまいへた”だと思っていて。再発したら、メンタルが強かろうが弱かろうが、結局抗がん剤の治療をしないといけない。極論メンタルは関係ないと思っている。だからそこで強さよりもうまさがいると思っていて。どうしよもないものからうまく逃げているという感覚です」
がんと向き合い、戦い、付き合いながら、史上最年少という名の付く記録はすべて塗り替えることを有言実行してきた小田の次なる目標が世界ランキング1位での金メダル獲得である。6月に1セットも落とさずに『全仏オープン』連覇を果たした小田は、7月7日(日)にスタートする『ウィンブルドン』での連覇も、8月28日(水)に開会式を迎える『パリパラリンピック』での金メダルも譲る気はさらさらない。
「『ウィンブルドン』で負けるとランキングは2位になるので、それは避けたい。2位で金メダルと言っても説得力がないじゃないですか。やっぱり1位で金メダルじゃないと。僕の中で今回の『全仏』は『パラリンピック』のリハーサルだったので、『パラリンピック』はセンターコートでやりたい。見せたいのは競る試合。僕は面白い試合をしたいので、プロとして魅せるためだけではなく、自己満足としても競る試合をしたい。せっかく『パラリンピック』の決勝にいったら、すごい試合をしたい。相手? アルフィー・ヒューエットがいいです。今だと一番いい試合ができるのはアルフィー」
さらに小田は実現困難な目標も追い求める。
「『子どもたちのヒーローになりたい』『憧れられる選手になりたい』。なぜそういう目標を持つかと言ったら、ここまでいったら叶うという線引きがないからです。ある意味、絶対叶わない目標です。何人に憧れられたから目標達成という基準もないから、競技生活中は自分で追い求めていきたい。1位は一回なったら目標達成できちゃうが、具体的ではない目標をひとつ持つことでずっと現役を続けられると思う」
9歳で癌になって17歳で世界一になった小田の、18歳の話もきっと見る者を圧倒することだろう。
凱旋 9歳で癌になった僕が17歳で世界一になるまでの話
著者 小田凱人
ジャンル 書籍
書店発売日 2024/06/21
ISBN 9784835646954
判型・ページ数 四六判・192ページ
定価 1,650円(本体 1,500円+税)
BOOKぴあ
https://book.pia.co.jp/book/b646096.html
取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)
撮影:杉 映貴子
07/06 12:00
ぴあ