【インタビュー】岸谷香、プリプリを歌う!「あの時の自分が作った作品を、今やる意味があるなって」

Text:長谷川誠 Photo:吉田圭子

岸谷香の『KAORI KISHITANI 40th Anniversary LIVE TOUR 2024”57 th SHOUT!”』が6月14日のクラブチッタ川崎からスタートする。40周年アニバーサリーツアーということもあり、プリンセス プリンセスのアルバムを1枚まるごとセルフカバーすることもアナウンスされている。ただし、2024年の今、Unlock the girlsとして演奏するのだから、単なる再現ライブになるわけがない。懐かしさと新しさとが共存するスリリングなステージになるだろう。岸谷自身、近年は弾き語りツアー、イベント主催、ツーマンステージ開催、ジャズ編成のステージなど、新たな音楽表現に挑み続けている。5月17日に配信リリースした「Beautiful」はEDMの要素を取れ入れたダンスミュージックに仕上がった。デビューから40年経った今も、新境地を切り拓いているのだ。40周年、バンド、新曲、ツアーについて、話を聞いた。

――40周年のアニバーサリーツアーがまもなくスタートします。40周年という年月について、思うことはありますか?

40周年と言っても、間で10年休んでいるので、正味30年ですし、すべてが繋がっているという意識ではないんですよ。奥居香、岸谷香と名前も変わっていますし。だから他の人の40周年とはちょっと感覚が違うかもしれません。プリンセス プリンセスの再結成を挟んで、前期後期みたいなイメージ。その意味では、前期だけで終わらなくて良かったなと思っています。

――プリンセス プリンセスの東京ドームでの再結成ライブ以降、音楽活動の幅がさらに一気に広がっています。

そこから違った世界に飛んでいった感じがします。気がついたら、東京ドームでの再結成から第二期がスタートしたというか。そもそも岸谷香といっても、知っている人もそんなにいないし、失うものはなにもない、みたいな。だから、プレッシャーもなく、気楽に第二期のスタートを切れました。

――再結成後は、Unlock the girls結成、弾き語りツアー、感謝祭主催、ジャズ編成ライブ、ツーマンライブなど、さらに活動の領域が広がっています。

やればやるほど、次にやりたいことが見つかってしまうんですよ。プリンセス プリンセスで活動している時は、プリンセス プリンセスというカテゴリーの中での活動をやりきった感覚があったんですね。でもそれは、音楽という大きな枠の中ではほんの一部のことで。その一部分を掘り下げてやりきったんですが、ソロになってみて、まだまだやっていないことがたくさんあったんだなと気づきました。第二期が始まった時に、弾き語りという選択肢に手をだしたことが 今に繋がっていると思います。

――弾き語りをやって、どんなことを感じたのですか?

弾き語りでワンステージをやって、飽きさせないためには、ピアノもギターもしっかりやる必要があるなと思いました。多分、弾き語りを始めた頃は、今よりもピアノもギターも全然下手だったと思います。それで、これではいけないなって。

――弾き語りのステージをやるために、技術の向上も目指したわけですね。

そうですね。少なくても、ギターはかなりマシになったと思います。ピアノは、小さい頃からやっていたので、弾けたんですが、クラシックしかやってなかったんですね。でも、クラシックのピアノだけの弾き語りって、つまらないんですよ(笑)。で、ある時、キーボードの渡辺シュンスケくんと一緒に演奏しているときに、シュンスケくんのピアノをひたすら観察して、シュンスケくんのピアノは打楽器みたいだなって発見がありました。そうか、ピアノって打鍵すると、内部のハンマーがピアノの弦を打っているな、打楽器だなと初めて気がつき、そこから演奏する意識が変わりました。

――確かにピアノはメロディ楽器であり、リズム楽器ですよね。

ピアノを打楽器だと考えたら、左手の役割も変わってきたんですよ。単なる伴奏としてではなく、もっと楽しみながら弾こうと思うようになりました。そこから、ひたすら練習するようになり、楽器がさらに楽しくなりました。ブルージーに弾いてみるとか、ジャズのテンションコードを取り入れてみるとか、弾きながら、覚えていく練習方法でした。こんな押さえ方をすると、おもしろいなとか、いろいろと発見があるので、飽きないんですよ。

――そうして身についたものがオリジナリティーにもなっていくんでしょうね。

そうだといいですね。弾き語りが最初の一歩でした。弾き語りの演奏をする時点でアレンジしているじゃないですか。一番も二番も同じように演奏したらつまらないから、変化をつけたいし、イントロや間奏も工夫したい。ひとりでやるからこそ、アレンジがより重要になりました。アレンジ能力は、弾き語りによって耕されたと思います。しかも、飽きるかと思いきや、やればやるほど楽しくなりました(笑)。

――アレンジに関しては、『感謝祭』を主催する際などでも、ゲストミュージシャンの曲をアレンジするケースが増えています。 ああいう機会があることによって、かなり鍛えられたと思います。

――オリジナルを歌っている本人と共演する場面で、その曲のアレンジを変えるのだから、相当ハードルが高かったのでは?

毎回死ぬ気でやっていました。寝ても覚めても、その人のその曲のことを考えて、アレンジしてましたよね。めっちゃスパルタでしたけど、自分にとっても大きかったし、本人に喜んでもらえたらうれしいし。今回の宮沢和史さんの「星のラブレター」もそうですね。

――宮沢さんの音楽生活35周年記念アルバム『~35~』にゲストとして参加されて、THE BOOMのシングル曲「星のラブレター」(1989年発表)で、歌だけではなくて、演奏もアレンジもUnlock the girlsで担当していますもんね。

テレビ音楽番組『うたコン』で一緒にコラボさせてもらって、宮沢さんにも喜んでいただいて。成績表に“A”がついたような気分でした(笑)。いつもライブやレコーディングの現場で鍛えられる気がします。

――2017年にはUnlock the girlsを結成して、すでに7年以上経っています。岸谷さんにとって、Unlock the girlsはどんな存在ですか?

Unlock the girlsの存在はとても大きいですね。Unlock the girlsと弾き語りは私の音楽活動の二大柱です。

――この7年間でステージに立つほどに、グルーヴもアンサンブルも音色も着実に進化しています。バンドの良さは時間をかけて完成していくものなんでしょうね。

そう思います。あの子たちから「プリンセス プリンセスの曲をやろうよ」と言われた時に、“バンドになったな”と感じました。2023年のツアー、当初はプリンセス プリンセスの曲を入れないセットリストにしていたですよ。でもYukoが「『Diamonds』やりたいです」と言う。そのことが、Unlock the girlsがバンドとして成立していることを物語っていると思います。

――ライブを観ていても、Unlock the girlsで作った曲とプリンセス プリンセスの曲をまったく違和感なく、Unlock the girlsの音楽として鳴っていると感じました。

そのことはひとつの目標でした。当たり前のことなんだけど、プリンセス プリンセスって、80~90年代の日本のサウンドの典型じゃないですか。当時の音楽って、Yuko、HALNA、Yuumiには馴染みのないものなんですね。だからこそ、あの子たちと一緒にプリンセス プリンセスの曲をやる意味があるんだなと思ってます。最初は、「Diamonds」をやるくらいで十分かなと思っていたんですよ。でも、その「Diamonds」がどんどん彼女たちの「Diamonds」になっていった。実はプリンセス プリンセスの「Diamonds」とUnlock the girlsの「Diamonds」はかなり違います。幸い、私が歌っているので、声の一貫性はありますし、ファンの方にも受け入れてもらえるようになって。「『Diamonds』、まるでUnlock the girlsのオリジナル曲みたいだよね」って、自分たちでも感じるようになりました。

――5月にシングルとして配信リリースされた「Beautiful」は、EDMやダンスミュージックの要素を取り入れた作品で、さまざまな世代に響く作品になっています。

自分の聴く音楽の幅が広がったからこそ、作れた曲だと思います。リスナーとしての私は、2000年代の音楽は子育てで忙しい時期だったこともあり、空白になっているところがあったんですよ。Unlock the girlsの3人と一緒にやりだしてから、2000年代の音楽をいろいろと教えてもらいました。私も勉強しないと、彼女たちと同じように音楽の話をできないから。さらに子供たちが成人して、K-POPやヒップホップを聴くようになり、息子や娘から最新の音楽事情も教えてもらうことが増えたことも大きいですね。

――昨年、miwaさんとのツーマンライブを行う前に対談をされています。その時、miwaさんがCo-Write制作について話された時も、岸谷さん、身を乗り出していましたよね。

Co-Write、どうやるんだろうって、とても興味深かったんですよ。しかも、ソングライターのキャンプがあると聞いて、「なぬ?」って(笑)。ソニーのレーベル担当者にそんな話をしたら、「紹介します」ということになり、Co-Writeをしてみようと思い、形になったのが「Beautiful」です。

――Yusei Kogaさんとの共作だったのは?

何の情報もない状態で、「NewJeansみたいな音楽」など、いくつかイメージを伝えて、何本かの候補のトラックをだしてもらい、自分のイメージに合うものを選んだら、Kogaくんのトラックだったということですね。その後、そのトラックをかけながら、自分の中でどんなものが流れてくるか、自分で自分に聞いて、鼻歌で歌って、メロディを付けていくやり方でした。そうやってできたメロディをKogaくんに送って、デモテープにメロディを入れてもらいました。そして、「ここのコードは変えたくありません」「ここはこうしてほしいです」といくつかリクエストし、3往復くらいメールでやりとりをして完成しました。プリンセス プリンセスで昔、リレー小説を書いたことがあるんですが、そのことを思い出したりもしました。メンバー5人でじゃんけんして、順番を決めて(笑)。自分にはないものが出てくるので、あれはあれでとてもおもしろかったですね。今回のCo-Writeもとてもおもしろかったので、機会があったら、またやりたいです。

――Kogaさんとは直接会うこともないまま、完成したのですか?

そうです。だから完成するまで、Kogaくんが何歳くらいなのか、どんな人なのかもまったく知らず(笑)。完成してからレコーディングスタジオで会ってみたら、20代後半の若者で、いつも家でひとりで作っているとのことで、「こんなに大きいところでレコーディングするんですね」と驚いていました(笑)。

――トラックがある中で作曲するのは、どんな感じでしたか?

とてもおもしろかったですよ。自分だけで作曲する時って、コードもリズムもセットで考えながら作るんですが、Co-Writeはそこが限定されているから、あまりやりようがない。“制約の塊”だからこそ、普段はしないこともたくさんやりました。例えば、音域もかなり広く使っていて、フェイクも合わせると、二オクターブぐらいあると思います。リズムとコードがずっと一緒なので、メロディでいかに変化をつけるか、考えながら作りました。

――「Beautiful」のテーマは、“もう1度人生と恋をしよう”ということですが、このテーマはどんなところからでてきたのですか?

この曲サビの最後の方で、<今のチャプターでもう1度人生と恋をしよう>と書いてあるんですよ。若い頃みたいやろうとしても、できないことはたくさんあるし、時間は二度と戻らないと思うんですね。 だけど、今の状況で今できることをやれば、それで十分なんじゃないかなというメッセージを込めています。若い人によりも、人生経験を積んできた人に向けての歌になりました。

――年齢を重ねたからこそ気づく、かけがえのないものってありますよね。

いろいろなことを経験してきて、若い頃とは感じ方も違うけれど、好きなことをやっていると、気持ちだけは昔に戻ることがあるじゃないですか。そういう瞬間を大切にして、人生を楽しんでいこうよという気持ちがありました。もうひとつ、思っていたことがあって。去年のツアーぐらいから、コロナが落ち着いて、マスクを外して声を出せるようになりました。その時にステージから見た観客のみなさんが本当にうれしそうで、いい顔をしていて。「みんな、今日の自分の顔を鏡で見てごらん。すごくいい顔をしているよ」って、伝えたくなりました。その時に感じた「みんな、美しいよ、生き生きしているよ」という思いから「Beautiful」が生まれました。

――作詞は富田京子さんですが、どんな会話を?

きょんちゃんとは、今の話をLINEでやりとりをしたら、「いいね」みたいな感じで返ってきて、どんどん決まりました。お互いの共通の思い出やシーンもあってツーカーだから、やりとりも楽ちんだし、キャッチボールもスムーズでした。

――富田さんとのやりとりの中で、こだわったこと、印象に残ったことはありますか?

こだわっていたのは小さなことなんだけれど、一番の最後の<この人生と恋をしよう>のところですね。最初、きょんちゃんから送られてきたのは<この人生に恋をしよう>でした。でもそうすると、人生がもう決まっていて、好きも嫌いも含めて、好きになっていこうというニュアンスがあるじゃないですか。

――確かに、今ある人生に自分を合わせていく感じもします。

「そうではなくて、もっと同等な感じがいいんだけど」って話をしました。

――より主体的に人生と向き合うということですね。

そうなんですよ。「こっちから人生を好きになろうとするんじゃなくて、あっち(人生)からも好かれないとダメだから、“と”に変えない?」と話して、“に”を“と”に変えました。

――たった一文字だけど、印象が大きく変わります。

日本語としては、<この人生と恋をしよう>にすると、不自然かもしれないけれど、気持ちを表すには、こっちのほうがふさわしいかなって。一文字でニュアンスが変わるところが、作詞のおもしろいところですね。

――「Beautiful」は、岸谷さん自身が、“もう一度音楽と恋している”状況とも重なる曲だなと感じました。

この曲ではいろいろなことが重なっています。「Beautiful」はMVとは別にダンスプラクティス動画とダンスレクチャー動画も公開しています。もともと鈴木くん(パパイア鈴木さん。実は高校時代の同級生)と、「年々体も硬くなってくるし、ライブ前のウォーミングアップ的な曲、ダンササイズになる曲があるとおもしろいよね」って話していて。そうしたら、Co-Writeで作った「Beautiful」がぴったりじゃないかということになり、鈴木くんに振り付けをお願いして、結果的に繋がりました。

岸谷香「Beautiful」ダンスレクチャー

岸谷香「Beautiful」ダンスプラクティス

――ライブでは、客席がパパイア鈴木さんのつけた振りに合わせて、踊っている光景も見られそうですね。

ツアー、40周年にふさわしい、盛りだくさんなものになると思います。

――プリンセス プリンセスのアルバム一枚を“セルフカバー”することもインフォメーションされています。

近年、過去の作品の再現ツアーが増えているらしく、スタッフからこの提案があった時には、“ふーん”と思っていました(笑)。“Unlock the girlsでやるわけだから、再現ツアーとは違うんだけどな”って。「検討してほしい」とのことだったので、何十年かぶりに、プリンセス プリンセスのアルバムを通して聴いてみたんですよ。そうしたら、悔しいことに、感動してしまって。

――それは素晴らしいことだと思います。

何に感動したかというと、鳴っている音の中に20代の私がちゃんと存在していたことに、です。そのアルバムを作った時の確固たる思いがあって、その思いを音楽として忠実に再現しようとして執着心と執念を持って頑張っていた私がいました。その時から25年以上経って、聴いた時に鮮明に思い出せるのは、一生懸命、誠実にやっている自分がいたからだな、あれが私のミュージシャンとしての原点なんだなって。全然子供だし、未熟なんだけど、あの当時の自分がいとおしくなったというか。当時、一生懸命やっていたからこそ、今もこうして音楽をやれているんだなと思いました。そうしたら、急にやる気になりました(笑)。40周年の区切りで、あの時の自分が作った作品を、今やる意味があるなって。

――お話をうかがっていて、今回のツアー、さらに楽しみになりました。当時全力で作った作品を、今の岸谷さん、Unlock the girlsがどう演奏するのか、期待がふくらみます。

再現しようとは思っていないんですよ。再現だけなら、CDを聴けばいいわけですから。もちろん昔からのファンの方が聴いた時に、“これこれ!”と思えるものにはしますが、今の自分たちがやっている意味みたいなもの、Unlock the girlsじゃなきゃできない演奏も盛り込みたいと思っています。今回はサポートでキーボードも入る予定です。

――その中に新曲「Beautiful」も入ってくるわけですよね。

そうなんです。だから大変なんです(笑)。来てくれた人みんなにハッピーになってもらえるように、いろいろ考えています。

――しかもバンドでのツアーが終わったら、すぐに弾き語りツアーも始まります。

「隣の芝生は青い」じゃないけれど、ひとつのことをやっていると、他のこともやりたくなる性格なんですよ。バンドをやり続けていると、ソロでピアノを弾きたくなり、ソロをずっとやっていると、バンドがやりたくなるという。音楽って、いろいろな表現の仕方があるから、飽きないし、キリがないんだと思います。

<リリース情報>
配信シングル「Beautiful」

配信リンク:
https://KaoriKishitani.lnk.to/Beautiful

CD+Blu-ray「Beautiful」
2024年7月24日(水) 発売
価格:2,500円(税込)

■CD収録曲
Beautiful
Beautiful – Unlock the girls ver. –(※CDのみ収録)

■Blu-ray収録映像
Beautiful Music Video
Beautiful Lecture
BeautifulDance Practice
Beautiful Behind the scenes(Long ver.)

<ツアー情報>
『KAORI KISHITANI 40th Anniversary LIVE TOUR 2024 ”57th SHOUT!”』

6月14日(金) クラブチッタ川崎 ※SOLD OUT
6月16日(日) 仙台Rensa ※SOLD OUT
6月29日(土) 福岡スカラエスパシオ
6月30日(日) 広島クラブクアトロ
7月13日(土) 札幌ペニーレーン24 ※SOLD OUT
7月20日(土) 大阪心斎橋BIGCAT ※SOLD OUT
7月21日(日) 名古屋ダイアモンドホール ※SOLD OUT
7月27日(土) Zepp DiverCity TOKYO ※SOLD OUT

全席指定8,500円(税込)

※会場によりドリンク代が必要

チケット発売中:
https://w.pia.jp/t/kaorikishitani24tour/

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