THEラブ人間・金田康平の原体験「歌詞がわからないパンクに元気をもらってた」

2011年、THEラブ人間としてメジャーデビュー。その後、積極的にソロ活動もしており、2014年にはソロ名義の3rdアルバム『NATSUMI』をリリースした金田康平。バンドとソロ、同時に活動をしながら音楽へ向き合っていた金田は、2020年に大きな転機を迎える。コロナ禍だ。それから彼の音楽への向き合い方も変わっていった。

ニュースクランチのインタビューでは、今年3月にリリースした約10年ぶりとなる4thソロアルバム『ペンギンの卵』の話から、音楽制作に対する変化について語ってもらった。

▲金田康平【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

“音楽を続けていくべきか”と本気で考えた

「自分でもSNSに”10年ぶり“と書いていますが、改めて“何年ぶりのアルバムなんだろう”と思い返したら10年ぶりだったんです。10年ぶりを狙ったわけじゃなくて、本当はもっと早くアルバムは出したかった。1日でも早く出したかったんですけど、10年空いちゃったんですよね」

事実、金田はニューアルバム『ペンギンの卵』を今年リリースするまで、いくつもの楽曲を発表しており、楽曲制作に対しては熱を込めていた。しかし、アルバムを完成させるまでにはさまざまな紆余曲折があった。

「バンドでやりたいことが100%できないという思いがあって、“めちゃくちゃやってやろう”と思って出したアルバムが、前作『NATSUMI』なんです。その後に<100曲ワンマン>という無茶をやったんですけど、やりたい放題やってもイライラがなくならず、もぬけの殻のようになっちゃった。

それから、バンドメンバーの入れ替わりが何度もあり、なんとかバンドで面白いことをやろうと注力していたんですけど、そんなときに新型コロナが流行して、バンド活動が止まってしまった」

世界中で大きな影響を与えたコロナ禍は、THEラブ人間ひいては金田にとっても大きな転機となる。

「“このまま音楽を続けていくべきか”と本気で考えました。寝られないし、飯も食えないぐらい悩んだんです。どんどん気持ちが落ち込んでいったんですけど、そのときにインスタのストーリーズで“みんな調子どう?”ってラフに投稿して。そしたら“早く音楽を聴きたい”“ライブで音楽を聴きたい”って返信がありました。

ずっと“俺はこんな人間だ”という音楽をしていたのに、ふとシンプルにファンの人たちのために音楽をしたいと思ったんですよ。自分の中でそれが音楽を続ける理由として腑に落ちて、音楽で人生を楽しめるようになりたいなって強く思ったんです」

THEラブ人間の音楽性や、ソロとして活動している金田を知っていれば、これがいかに大きな変化であることは理解できると思う。金田の音楽が内から外に向かっていく。

「それから、みんなに<一言テーマ>を募集して、それに沿った歌詞を書いて曲を作り、毎日公開していました。たぶん50日間やったので、50曲くらいは作ったかな。それがめちゃくちゃ楽しくて。

ファンのことはめちゃくちゃ好きだけど、その人たちに向けて楽曲を作った感覚は、それまでなかったんです。でも、テーマをもらって楽曲を作っていたときは、そのテーマをくれた人だけでも楽しんでもらえればいい、そう思って作っていたんです」

▲ファンの人たちのために音楽をしたいと思ったんですよ

アルバム完成までに10年かかった“本当の理由”

「それからいろんな曲を作るようになるんですけど、ステイホーム期間中にできたのが『ミントの風に吹かれても』『グッドタイムアンドバッドタイム』『つぶれかかった光のために』の3曲。いわゆる昭和の歌謡曲を、令和にアップデートするというテーマで作りました。

録り終わってそれぞれを聴いているうちに“机上の空論だな”と感じて。自分の内から出てくる楽曲ではなくて、シンプルに狙いにいった楽曲で洒落臭かった。令和の歌謡曲はやめて、2022年に発表したのはもっと内相的な楽曲で、インストも4曲くらい作りました。自分が部屋で聴きたいと思えるのは“どんな楽曲なんだろう”と考えたら、メッセージ性が無い楽曲なんじゃないかって」

この時期、歌声を封印したインスト楽曲もリリース。どうしたら聴いている人が楽しめるのだろうかと考え、試行錯誤していく。

「アルバムにできる10曲まで、あと5曲くらいになったタイミングで、シンプルにアイデアが尽きちゃったんですよね。ただ方向性は間違っていなかったと今でも思っています。これは俺のイマジネーションの問題で、楽曲が揃っていたらアルバムにもなっていたと思います。そこで一回、力尽きちゃって」

金田はライブに呼ばれて弾き語りをするようになるが、ライブを楽しめない日々が続く。

「13歳からライブをやっているのに、“俺こんなもんなのかな”と思っちゃったんです。突き抜ける感じがなくて、オファーも断るようになりました。それから“バンドとしてやってみてはどうか”と思い始め、のちに<天使たちと金田康平>という名前がつくバンド活動を始めます。そのときの演奏がすごく良かった」

金田を魅了したのは、無敵のTHEラブ人間には無いヒリヒリ感。不安定な魅力が、新たなバンドにはあった。

「自分がギターで、あとはベースとドラム。その演奏にすごく興奮したのを覚えています。バンドメンバーは、もともと良い演奏するなと思っていたけど、旧知の仲ではなかった。そんな状態から演奏をすることで、コミュニケーションをとっていく。その“まだ無敵じゃない”状態での演奏は、聴いているお客さんも不安になりますよね。いつビートが止まるかわからないけど、そんなロックンロールが俺は中学生の頃から好きだった」

完璧な演奏ではない。それが金田を魅了し、『ペンギンの卵』制作への転機となる。

「一回全てを取っ払って、ベースとドラムとギターだけで曲を作ろうと思い、完成したのが『ざるそば』という曲なんです。俺の目指しているパンクは音がスカスカしている。そんな音を目指しているんだと、『ざるそば』が完成してハッキリわかりました。それからすぐに『ペンギンの卵』のレコーディングに着手しました」

聴いていて楽しい曲を集めた『ペンギンの卵』

「自分が聴きたい曲は頭の中にあったので、楽曲制作には苦労しなかったです。やっぱり、コロナ禍以降で自分が書く歌詞はガラリと変わって、人生を楽しむために音楽を使いたいと改めて感じました。

昔のTHEラブ人間の曲を聴いていると、なんでこんなにイライラしているんだろうと思うんです。周りには家族も友人も恋人もいたのに、まるで一人ぼっちのような難しい顔をしていたなって。気持ちが一人ぼっちだったのは嘘じゃないんですけど、当時の若い自分を慰めてあげたいんですよ」

寂しい思いを抱えていた主人公は、『ペンギンの卵』で楽しい冒険へと旅立つ。

「それまでは10曲作るのも苦労していたのに、今回のアルバム制作で30曲くらいできてしまって、THEラブ人間で出した曲もあるんですよ。1行目の歌詞ができたら、筆が止まらない。とにかく楽しむ音楽を作りたくて、『ざるそば』で運命だの恋だの言っていた男の子を野に放ってみたら、どんな冒険に出るのかを覗き見しているようなアルバムにしようと思いました」

『ざるそば』の主人公は車に乗ったり、電車に乗ったり、飛行機に乗ったり。自由に冒険している様子を金田がスケッチしていく。

「『シャインマスカット小夜曲』は、仕事に疲れた彼女に、ちょっと特別なシャインマスカットを買って帰るだけの曲なんです。“お嬢さんお疲れさん。フルーツ買ってきましたよ”という歌詞が最初にできて、そこからたくさんの果物が出てきて、キテレツ大百科の『お料理行進曲』のような曲になりました。聴いていて楽しい曲を作りたい。今回の『ペンギンの卵』は、耳心地の良い楽曲というのが最低のラインでした」

何について歌っているかわからなくても、耳心地が良ければいい。それは金田がパンクを好きになった原体験とリンクしていた。

「誰かを音楽で元気にするのって、じつは歌詞はどうでもよくて、俺も歌詞の内容が英語で意味がわからないパンクで元気をもらっていた。それが『ペンギンの卵』には最低限必要だと思ったんです。

例えば、ビートルズの『Love Me Do』っていう曲あるじゃないですか。あれはめっちゃ韻を踏んでるから耳心地が良い。俺がどんな暗い歌詞を歌っていようが、聴いていて楽しい音楽、明日も楽しくなりそうだと思えるアルバムにするのが前提だったんです。

それに『ペンギンの卵』に登場する主人公には、楽しい冒険をしてほしいなって。ただ今回のアルバムで冒険が終わるわけではないし、きっとこれからもずっと続いていくんだろうなって」

▲昔の曲を聴いていると当時の若い自分を慰めてあげたくなります

15周年を迎えるTHEラブ人間の音楽を楽しんで

金田が特に気に入っている楽曲について聴いてみた。

「『はなればなれたち』が特に好きな曲なんですけど、何度聴いてもよくわからないんですよ。“誰かといる時間は番外編の映画のようなもの”から始まって、“物語が終わればまたいつもの僕に帰る”という歌詞が続く。ここは日によって意味合いが違ってくるんです。

例えば、今日の取材も、ここは番外編で家に帰って一人になったときに本編が始まる。今日は一人ぼっちの瞬間こそが自分の人生だと感じる。全くそんなことはないのにね」

『はなればなれたち』の歌詞は金田にとって、しっくりくる内容だった。

「『はなればなれたち』の歌詞を読むと、“俺ってこんな人間だよな”ってめっちゃ思うんです。2番のAメロに“ 中国雲南省の珈琲豆をキッチンで挽いている”という歌詞があるんですけど、一人ぼっちで中国の豆を手で挽きながら“お湯の温度は何度がいいんだろう”って独り言を言っている姿が思い浮かぶ。俺はロマンチストで、そんなことばかり考えちゃうんです。今まで書いてきた歌詞ではかなり上位です」

SNSでは他分野で活躍する友人から多くのメッセージが届いている。この取り組みは、どのようなきっかけでスタートしたのだろうか。

「俺から好きな人にオファーさせてもらっています。じつはまだ公開していないのが150日分くらいあって〔※3月初旬インタビュー〕。オファーする人は“その人の作るものが好き”に限定していて、俺が楽しませてもらっているぶん、今回は逆に『ペンギンの卵』を楽しんでほしいなって。

もちろん、楽しんでもらうことが優先なので、もしコメント書けたら書いてほしいくらいのスタンスですけど、みんなめちゃくちゃ良いコメントくれてうれしいですね。なかには“全然良くなかったからコメントは無理”と言ってくれる人もいるんですけど、それも正直に伝えてくれてめっちゃうれしいんです。毎日幸せです」

そしてTHEラブ人間は15周年を迎える。ツアーも控えているが、あくまで楽しんでもらいたいという思いは変わらない。

 「感謝の気持ちとも違う。ただその瞬間を楽しんでほしい。俺がやりたいことと、メンバーのこだわりを混ぜて、それをみんなで共有して、その日だけのムードを楽しみたい。若い頃は勝ち負けばかり考えて、難しい顔をしていた。今はただ楽しみたい。その結果、共演者が俺たちの演奏を見て“俺には無理だ。バンドなんて辞めよう”って思わせる、そんなライブをやっていきたいです」

(取材&撮影:TATSUYA ITO) 


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