阿久津仁愛の現在地「芝居はうまく見せようとするとダメ」

2014年、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで準グランプリを獲得。2016年、ミュージカル『テニスの王子様』で主人公・越前リョーマ役を演じ、一躍脚光を浴びた阿久津仁愛も23歳となった。

近年は舞台のみならず映像でも活躍。『around1/4 アラウンドクォーター』『BLドラマの主演になりました クランクアップ編』『ナースが婚活』と着々と出演作を重ねている。

そして、5月31日公開のムビ×ステ『邪魚隊/ジャッコタイ』にキーパーソンとなる田舎武士・水野平馬役で出演。大人になった阿久津仁愛は、今どんなことを考え、芝居と向き合っているのだろうか。

古田新太から学んだ芝居で最も大切なこと

舞台から映像までジャンルレスに活動する阿久津仁愛のドラマデビュー作となるのが、2019年に放送されたドラマ『俺のスカート、どこ行った?』。そこで出会った主演の古田新太が、今も阿久津の中で強烈な光を放っているという。

「古田さんの何がすごいかというと、現場にいるともうその役にしか見えないんです。俳優って、どうしてもオフの空気感だったり、その人の雰囲気が役から漏れ出ちゃうものだと思うんですけど、古田さんはそれがない。僕たちの前では、原田のぶおという先生そのものでした。何もかもがリアルすぎるんです。一貫して役として存在していた印象があって、どうやったらあんなふうになれるんだろうって、ずっと古田さんのことを見ていました」

阿久津が演じたのは、古田演じる原田のぶおが担任を務める2年3組の男子生徒の一人。初めての連ドラレギュラーに慌てふためくことばかり。あっという間に時間が過ぎていった。

「初めての連ドラで、なかなかの台詞量で。スケジュールも結構タイトだったんですよね。台本が来たらすぐに覚えるという感じで、正直、あの頃はいつもヤバいヤバいってなってました(笑)。でもそんなときに古田さんとお芝居をさせていただくと、ああそうか、お芝居って相手の芝居を受ければちゃんとできるんだという、すごくシンプルなことに気づかされるんです。本当に吸収させていただくことばかりでしたし、あの作品をやって映像もやっていけるかもしれないという自分の中で小さな自信もできた。もう5年も前ですけど、今でも大事な作品です」

時が経ち、あどけない10代の男の子だった阿久津仁愛も、凛々しい表情が似合うようになってきた。『邪魚隊/ジャッコタイ』で見せる長髪を後ろに束ねた姿も、品と清涼感に溢れている。

「衣装合わせのときには、ちょんまげもしてもらったんですよ。僕としては、自分のちょんまげ姿を見たことがなかったので新鮮だったんですけど、歌舞伎役者の惣之丞になりきるシーンがあって、そのためには髪は長くて多い方がいいということで、この髪型になりました。時代劇はやったことがなかったので、衣装も髪型も初めてのことだらけ。ドキドキでしたけど楽しかったです」

流司くんを見て、弱音を吐いていられないと思った

行方知れずとなった姉を探し、流浪の旅に出ていた平馬は、幕府お抱えの隠密部隊・邪魚隊と出会い、人喰い鬼の退治に巻き込まれていく。中でも、佐藤流司演じる邪魚隊のリーダー・鱗蔵との関係性が見どころの一つだ。

「流司くんは、やっぱり殺陣がカッコいいですね。今回、釣竿が武器なんですけど、そんな変な武器でも器用に使いこなされていて、すごいなと思いました。あともう一つすごいなと思ったのが暑さに強いんですよ。今回、真夏の撮影で、それが本当にキツくて。僕はハンディ扇風機を使ったり、ちょっと時間が空いたら冷房の前にいたんですけど、流司くんは涼しい顔をして普通に椅子に座っていて、撮影中も全然キツそうな顔を見せなかった。そんな流司くんを見て、僕も弱音を吐いていられないなと思いました」

邪魚隊のメンバーは、佐藤の他に、橋本祥平、小柳心、廣瀬智紀。阿久津にとっては、良き兄貴たちに囲まれた現場でもあった。

「昼休憩とか、よく食堂で一緒にご飯を食べていたんですけど、みなさん話がめちゃくちゃ面白いんですよ。中でも頼もしかったのが、心さん。撮影中も率先していろんなアイデアを出してくださったり、監督に僕たちのやりたいことをわかりやすく伝えて架け橋になってくださったり。現場での立ち回りが素晴らしくて、心強い先輩でした。お話も上手なんです。普通に喋っているだけで面白い。何でもできすぎるので、実は人生2周目なんじゃないかと思ってます(笑)」

時代劇×ミュージカルという異色の組み合わせも、本作の魅力の一つ。阿久津も気持ちのこもった歌唱を披露している。

「歌は撮影後に別撮りだったんです。そこは舞台とまったく違うところでしたね。ただ、実際には使わないんですけど、現場でもちゃんと歌っていましたし、歌入れのときもモニターに本番の映像を流してくださったので、当時の気持ちがわりと鮮明に思い出せたというか。ちょっと時間を置いた分、自分の中で平馬の気持ちをさらに膨らませることができたので、むしろ現場よりさらにいいものを出せた気がします」

映像デビューから5年。まだまだ芝居は難しい

達成感に浸る一方で、反省と課題も忘れない。

「鱗蔵と言い争いになった平馬が、鱗蔵の胸ぐらを掴むシーンがあるんですね。まず人の胸ぐらを掴んだことが人生でなかったので、それだけでもちょっとぎこちないところがあったんですけど、そこで座っている鱗蔵を立ち上がらせないといけなかったんですよ。それだけの勢いをつけるのが結構難しくて。台詞の勢いに対して動きが弱いって、監督から何度も言われた記憶があります」

約1ヶ月の稽古期間を通して役をじっくりとつくり込める舞台に対し、映像は瞬発力が物を言う世界。どちらかといえばスロースターターである阿久津は戸惑うことも多いという。

「役を掴むのに時間がかかる分、クランクイン直後のシーンがどうしても手探りになってしまうのが、今の僕の課題。下手でもいいから、最初はもっと表現を大きめにして入ったほうがいいのかなとか、自分なりのやり方を探しているところで。映像作品に出たときは、いつも出来上がりをチェックして、その都度学んでいる感じです。やっぱり見ないとわからないことってあるんですよね。でも、こうやったらいいみたいな正解はなくて。反省するシーンもあれば、撮影しているときは自覚していなかったけど、思ったより良かったなと思うシーンもある。まだまだ映像のお芝居は難しいなって試行錯誤中です」

目指す頂は、遠い。だが、途方に暮れていても前には進めない。反省を繰り返しながら、そこで得た課題を次なるハーケンとして打ち込み、岸壁を登っていく。

「出来上がった作品を見ると、自分の中でのシーンの理解度がよくわかるんです。理想はどのシーンもちゃんと深くまで理解することなんですけど、どうしてもまだまだここは理解が浅かったなと思う場面もあって。やっぱりいちばんダメなのは、うまく見せようとすること。そういうのって、映像だと全部見えちゃうんですよね」

そう自らに戒めながら浮かぶ理想のお芝居は、やっぱり古田新太から学んだことだった。

「結局、相手のお芝居を素直に受け取って、それに応えるのがいちばんなんですよね。もちろん中には自家発電して言わないといけない台詞もあるんですけど、お芝居の基本はキャッチボール。相手からもらうものが大きければ大きいほど、自分の中からいいものを出せる。そこをこれからも忘れずに、ちゃんと磨いていきたいです」

23歳。まだ道のりは長い。いつか古田新太の年齢になったとき、どんな芝居をしているだろうか。小手先に頼らず、ただ無心に、役として生きる。芝居の原点にして頂点を目指し、阿久津仁愛は次なるホールドに足をかける。

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映画『邪魚隊/ジャッコタイ』24年5月31日映画公開

https://toei-movie-st.com/jakkotai/

撮影/友野雄、取材・文/横川良明

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