新作小説「人魚が逃げた」作家・青山美智子 物語の着想を得たのは「ニシキヘビが逃げたニュース」
TOKYO FMの音声配信プラットフォームAuDee(オーディー)の番組「元・本屋の新井、スナックのママになる。」。“日本で一番有名な書店員”の新井見枝香がAuDee内に「スナック新井」を開店。小説家、編集者、書店員に踊り子のお姉さんなど、さまざまなお客様をお招きし、出版事情の裏側や、いま一番切なくなる漫画、書店とストリップ劇場の未来にいたるまで、“大人のここだけ事情”をトークしていきます。
11月11日(月)の配信では、作家の青山美智子さんがゲストに登場。11月14日(木)に発売された短編小説「人魚が逃げた」(PHP研究所)の見どころについて語ってもらいました。
青山美智子さんは1970年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国し、上京。出版社で雑誌編集者を経て、執筆活動をスタートします。デビュー作「木曜日にはココアを」が第1回宮崎本大賞を受賞。「猫のお告げは樹の下で」で第13回天竜文学賞を受賞します。「お探し物は図書室まで」「赤と青とエスキース」「月の立つ林で」「リカバリー・カバヒコ」と、2021年から4年連続で本屋大賞にノミネートされています。
◆「人魚が逃げた」の表紙に注目
新井:2023年10月2日以来のご登場で、そのときは「リカバリー・カバヒコ」(光文社)についてのお話でした。今回、青山さんは11月14日に新刊「人魚が逃げた」を発売されます! 表紙はお馴染み、田中達也さんのミニチュア作品が使われております。書店に並んでいたらめっちゃ目を引くね。
青山:色味が派手じゃないのに目立つというか、それが田中テイストだなって思ったんです。
新井:たしかに!
青山:どちらかというと落ち着いた色なのに、目を引く上品さがありますよね。
新井:しかも既視感のある風景なんですよね。田中達也さんが青山さんの表紙のために作る作品というのは、いつも小説の世界観を落とし込んでいるんですよね。
読む前は「面白そうだな」と感じて、読んだあとは「なるほどね!」と思うんですよ。そういう楽しみ方ができる表紙です。あと、使われている青色、めちゃくちゃ好きな色なんですよね。
青山:小説を読まれた方は「あの色だな」とピンと来るのではないかと思います。銀座といえばっていう色ですね。
新井:青山さんは最初から銀座を舞台にして書こうと思われていたんですか?
青山:最初は人魚が先だった。まず、タイトルが最初でしたね。
新井:ええ~!
青山:「人魚が逃げた」が最初に来て、どこで逃げたかを考えたら、すぐに銀座が出てきた。
新井:そうなんだ!
◆脱走ニュースが人々の想像力を駆り立てる
新井:「人魚が逃げた」ってかなりのパワーワードよね。
青山:3年ぐらい前に、横浜のあるお家で飼っていたニシキヘビが逃げたニュースがあったんですよ。ニュースの場所が自宅からわりと近かったのね。それで方々から「大丈夫ですか?」と心配をされたり、近所だったこともあっていろんな人がいろんな噂話をするのね。
新井:ほうほう!
青山:SNSもそうだし、テレビでもニシキヘビのことをすごく言うわけですよ。普段、(人々は)ニシキヘビのことを考えて生きていないじゃない?
新井:うん。知ってはいるけどね。
青山:そこなのよ! みんなニシキヘビの存在は知っているし、形も想像できる。だけど、実際に見たことがある人ってそんなに多くないじゃないですか。逃げたニシキヘビと飼い主さんとの関係や、なんで逃げちゃったのかなとか、飼い主さんの気持ちとかを、みんなが自由に想像して話しているのを目の当たりにして。私もいろいろ想像しましたしね。
編集さんとその話をしているときに「これは面白いな」って思ったんですよ。みんなの日常にいなかったニシキヘビなんだけど、急に自分たちの物語を作り出したのがすごく面白いなと感じたんですね。それで、何かが逃げた話を書きたいなと考えました。
◆フィクションとリアルの境目を考える
新井:人魚が逃げたと聞いて、まず私は走って逃げることを想像したんだけど、それだと人魚じゃないのかって思ったりして。
青山:そこもみんな自由に考えるじゃない? 人魚が地上で逃げる方法をみんながいろいろ考えるのは面白いなって思ったんですよね。
新井:みんなの想像にはズレがあるだろうからね。いい想像をする人もいれば、悪い想像をする人もいるだろうし。
青山:そうなんだよね。結局書いていて思ったのは、人魚の話ではあるけれど王子の話なんだよね。「僕の人魚がいなくなってしまった」というところから始まっているので、話の主軸は人魚というより王子ですね。
新井:そうだね。青いスラックスに黒いブーツを履いている、みんなが想像する王子様ですよ。でも、話の舞台が現代だから、そういうコスプレをしている人だって思う人もいるだろうし、本物の王子なのかなと思う人もいる。そのズレ具合もよかったですね。
青山:みんなそれぞれの物語で生きているっていうのが作品の根底にあって。たとえば、思い出話と実際の話が違っていたりすることってあるじゃない?
新井:あるある(笑)。
青山:でも、話している人にとってはそれが“記憶”なわけで“正解”なわけでしょう? フィクションとリアルの境目って実はないというか、「結局みんなフィクションじゃない?」ってところから始まった本ですね。
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音声版「元・本屋の新井、スナックのママになる。」
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<番組情報>
番組名:元・本屋の新井、スナックのママになる。
配信日時:隔週月曜・10時配信
パーソナリティ:新井見枝香
11月11日(月)の配信では、作家の青山美智子さんがゲストに登場。11月14日(木)に発売された短編小説「人魚が逃げた」(PHP研究所)の見どころについて語ってもらいました。
青山美智子さんは1970年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国し、上京。出版社で雑誌編集者を経て、執筆活動をスタートします。デビュー作「木曜日にはココアを」が第1回宮崎本大賞を受賞。「猫のお告げは樹の下で」で第13回天竜文学賞を受賞します。「お探し物は図書室まで」「赤と青とエスキース」「月の立つ林で」「リカバリー・カバヒコ」と、2021年から4年連続で本屋大賞にノミネートされています。
◆「人魚が逃げた」の表紙に注目
新井:2023年10月2日以来のご登場で、そのときは「リカバリー・カバヒコ」(光文社)についてのお話でした。今回、青山さんは11月14日に新刊「人魚が逃げた」を発売されます! 表紙はお馴染み、田中達也さんのミニチュア作品が使われております。書店に並んでいたらめっちゃ目を引くね。
青山:色味が派手じゃないのに目立つというか、それが田中テイストだなって思ったんです。
新井:たしかに!
青山:どちらかというと落ち着いた色なのに、目を引く上品さがありますよね。
新井:しかも既視感のある風景なんですよね。田中達也さんが青山さんの表紙のために作る作品というのは、いつも小説の世界観を落とし込んでいるんですよね。
読む前は「面白そうだな」と感じて、読んだあとは「なるほどね!」と思うんですよ。そういう楽しみ方ができる表紙です。あと、使われている青色、めちゃくちゃ好きな色なんですよね。
青山:小説を読まれた方は「あの色だな」とピンと来るのではないかと思います。銀座といえばっていう色ですね。
新井:青山さんは最初から銀座を舞台にして書こうと思われていたんですか?
青山:最初は人魚が先だった。まず、タイトルが最初でしたね。
新井:ええ~!
青山:「人魚が逃げた」が最初に来て、どこで逃げたかを考えたら、すぐに銀座が出てきた。
新井:そうなんだ!
◆脱走ニュースが人々の想像力を駆り立てる
新井:「人魚が逃げた」ってかなりのパワーワードよね。
青山:3年ぐらい前に、横浜のあるお家で飼っていたニシキヘビが逃げたニュースがあったんですよ。ニュースの場所が自宅からわりと近かったのね。それで方々から「大丈夫ですか?」と心配をされたり、近所だったこともあっていろんな人がいろんな噂話をするのね。
新井:ほうほう!
青山:SNSもそうだし、テレビでもニシキヘビのことをすごく言うわけですよ。普段、(人々は)ニシキヘビのことを考えて生きていないじゃない?
新井:うん。知ってはいるけどね。
青山:そこなのよ! みんなニシキヘビの存在は知っているし、形も想像できる。だけど、実際に見たことがある人ってそんなに多くないじゃないですか。逃げたニシキヘビと飼い主さんとの関係や、なんで逃げちゃったのかなとか、飼い主さんの気持ちとかを、みんなが自由に想像して話しているのを目の当たりにして。私もいろいろ想像しましたしね。
編集さんとその話をしているときに「これは面白いな」って思ったんですよ。みんなの日常にいなかったニシキヘビなんだけど、急に自分たちの物語を作り出したのがすごく面白いなと感じたんですね。それで、何かが逃げた話を書きたいなと考えました。
◆フィクションとリアルの境目を考える
新井:人魚が逃げたと聞いて、まず私は走って逃げることを想像したんだけど、それだと人魚じゃないのかって思ったりして。
青山:そこもみんな自由に考えるじゃない? 人魚が地上で逃げる方法をみんながいろいろ考えるのは面白いなって思ったんですよね。
新井:みんなの想像にはズレがあるだろうからね。いい想像をする人もいれば、悪い想像をする人もいるだろうし。
青山:そうなんだよね。結局書いていて思ったのは、人魚の話ではあるけれど王子の話なんだよね。「僕の人魚がいなくなってしまった」というところから始まっているので、話の主軸は人魚というより王子ですね。
新井:そうだね。青いスラックスに黒いブーツを履いている、みんなが想像する王子様ですよ。でも、話の舞台が現代だから、そういうコスプレをしている人だって思う人もいるだろうし、本物の王子なのかなと思う人もいる。そのズレ具合もよかったですね。
青山:みんなそれぞれの物語で生きているっていうのが作品の根底にあって。たとえば、思い出話と実際の話が違っていたりすることってあるじゃない?
新井:あるある(笑)。
青山:でも、話している人にとってはそれが“記憶”なわけで“正解”なわけでしょう? フィクションとリアルの境目って実はないというか、「結局みんなフィクションじゃない?」ってところから始まった本ですね。
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音声版「元・本屋の新井、スナックのママになる。」
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<番組情報>
番組名:元・本屋の新井、スナックのママになる。
配信日時:隔週月曜・10時配信
パーソナリティ:新井見枝香
11/27 21:00
TOKYO FM+