村上春樹 人生に絶望し、立ち上がった浪人生に届けた言葉とは?「人生には必ず『どつぼ』のようなきつい時期があります。僕にもちゃんとありました」
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。7月28日(日)の放送は「村上RADIO~マイ・フェイバリットソングズ&リスナーメッセージに答えます3~」をオンエア。
当番組では、いつもはリクエストやお便りを紹介していませんが、毎回放送後に村上DJ宛にリスナーからたくさんのメッセージが届きます。今回はその中から、いくつかのメッセージを村上DJが選び、音楽とともに紹介しました。
この記事では、後半3曲とクロージング曲、「今日の言葉」について語ったパートを紹介します。
◆Boz Scaggs「Love On A Two Way Street」
ボズ・スキャッグズが歌います。「Love On A Two Way Street」
「迷い猫」さん、男性、東京都。
「18歳の浪人生です。半年前、恋人に去られ、大切な友人に生き方を否定され、さらに大学にも落ちてしまった私はこれまでに感じたことのない喪失感に深く傷つきました。今後も同じようなことが待っているのではないかと考えると、絶望しかありませんでした。そんな時、村上さんの作品を読みかえしました。中学生で文体の面白さに惹かれた作品が、18歳の今、初めて自分の中に実感を持って入ってきました。そのおかげで心が癒されたと言っても過言ではありません。今はゆっくりですが少しずつ前に進めています。よろしければ、人生の初心者にアドバイスのようなものをいただきたいです」
人生にはだいたい必ず「どつぼ」のようなきつい時期があります。僕にもちゃんとありました。20歳の頃だったかなあ。何をしてもうまくいかず、まわりから人が離れていって、長いあいだひとりぼっちでした。「今後も同じようなことが待っているのではないかと考えると、絶望しかありませんでした」ということですが、その気持ち、僕にもよくわかります。不安で、切ないですよね。
でも今にして思うと、そういう時期って、人生にとって必要なものだったんですね。そういう時期をくぐり抜け、その経験を滋養にして人は成長します。孤独の中で心は広がりを獲得します。「イケイケどんどん」だけでは人生がやがて痩せこけてしまいます。そう思ってがんばってください。そのうちに必ずいいことがあります。
◆JJ Cale & Eric Clapton「Sporting Life Blues」
J.J.ケールとエリック・クラプトンが歌います。「スポーティング・ライフ・ブルーズ」
中国の方からのお便りです。「品川狸」さん、31歳女性です。
「先日、初めて村上JAMに参加しました。普段あまり聴かない種類の音楽なので、ここじゃないと多分一生出会えない音楽だなと思いました。すごく貴重な体験でした。私は中学生の頃に初めて村上さんの小説を読んで、そこから日本文学にハマり、日本への留学を決意し、中国から日本にきました。もし村上さんの小説に出会っていなかったら、きっといまの私もここにいないでしょうね。会場の3階でステージ上の村上さんを見ていた時、本当に不思議な気持ちでした。人生は、数々の小さい奇跡と巡り合わせによって構成されてるのだなとつくづく思います。現在、自分でも何かを書きたいと思っています。しかし、いつも自分語りの文章になり、どの登場人物も自分になっちゃっています。村上さんはどうやって面白いキャラクターを作っていますか?」
僕の本を読んで、その流れで日本にいらっしゃったんですね。なんか責任を感じてしまいます。日本での留学生活を楽しんでください。
村上さんはどうやって面白いキャラクターを作っていますか?
うーん。僕の小説の登場人物は、僕が作るというよりは、向こうから勝手に出てくることが多いんです。僕はそういう人たちを観察して、文章にするだけ。わりに楽です。でもそういう人たちが自然に目の前に出てくるのを、じっと待っている我慢強さが必要になってきます。そのためには何をすればいいか?
まわりの人をよく観察すること。たくさん本を読むこと。そんなところかな?
慌てることはありません。じっくりやりましょう。
◆Summer Has Begun!〜夏は来ぬ(feat. Carole Nobuka)
Red Kimono Projectというグループが英訳の歌詞で歌います。
「Summer Has Begun!~夏は来(き)ぬ」
僕はこの歌詞を「ホトトギス、早くから起きて啼いているな」という意味だとずっと思っていたんだけど、実は「早起き啼(な)きて」じゃなくて「早も来、啼きて」だったんですね。「早くもやって来て啼いているな」ということ。長く生きていると、いろんな発見があります。
*
<クロージング曲>
Mark Whitfield「Mr. Syms」
今日のクロージング音楽は、ギタリスト、マーク・ホイットフィールドが演奏する「ミスター・シムズ」です。
「ミスター・シムズ」、ジョン・コルトーレーンの書いた素敵なバラードです。
*
さて、今日の言葉は、何かの本で読んで頭に残っている言葉なんだけど、それがどの本だったか、まったく思い出せません。僕の場合よくそういうことがあります。その場でさっと書き留めておけばいいんだろうけど、そういうときに限ってペンも紙もないんですよ。しょうがないですね。こんな言葉でした。
「どんな人間にだって何らかの価値はある。もしそうじゃないとしたら、この世界に何らかの価値のある人間なんて、ただの一人もいないことになる」
本当にそのとおりだと僕は思います。だから小説を書くとき、どんな小さな役の人物にも、ただの通りがかりの人にだって、僕は何らかの価値を託そうと務めています。だってそうしないと、本当に意味のあることって書けませんから。
「どんな人間にだって何らかの価値はある。もしそうじゃないとしたら、この世界に何らかの価値のある人間なんて、ただの一人もいないことになる」
それではまた来月。
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7月28日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 8月5日(月)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
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<番組概要>
番組名:村上RADIO~マイ・フェイバリットソングズ&リスナーメッセージに答えます3~
放送日時:2024年7月28日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
当番組では、いつもはリクエストやお便りを紹介していませんが、毎回放送後に村上DJ宛にリスナーからたくさんのメッセージが届きます。今回はその中から、いくつかのメッセージを村上DJが選び、音楽とともに紹介しました。
この記事では、後半3曲とクロージング曲、「今日の言葉」について語ったパートを紹介します。
◆Boz Scaggs「Love On A Two Way Street」
ボズ・スキャッグズが歌います。「Love On A Two Way Street」
「迷い猫」さん、男性、東京都。
「18歳の浪人生です。半年前、恋人に去られ、大切な友人に生き方を否定され、さらに大学にも落ちてしまった私はこれまでに感じたことのない喪失感に深く傷つきました。今後も同じようなことが待っているのではないかと考えると、絶望しかありませんでした。そんな時、村上さんの作品を読みかえしました。中学生で文体の面白さに惹かれた作品が、18歳の今、初めて自分の中に実感を持って入ってきました。そのおかげで心が癒されたと言っても過言ではありません。今はゆっくりですが少しずつ前に進めています。よろしければ、人生の初心者にアドバイスのようなものをいただきたいです」
人生にはだいたい必ず「どつぼ」のようなきつい時期があります。僕にもちゃんとありました。20歳の頃だったかなあ。何をしてもうまくいかず、まわりから人が離れていって、長いあいだひとりぼっちでした。「今後も同じようなことが待っているのではないかと考えると、絶望しかありませんでした」ということですが、その気持ち、僕にもよくわかります。不安で、切ないですよね。
でも今にして思うと、そういう時期って、人生にとって必要なものだったんですね。そういう時期をくぐり抜け、その経験を滋養にして人は成長します。孤独の中で心は広がりを獲得します。「イケイケどんどん」だけでは人生がやがて痩せこけてしまいます。そう思ってがんばってください。そのうちに必ずいいことがあります。
◆JJ Cale & Eric Clapton「Sporting Life Blues」
J.J.ケールとエリック・クラプトンが歌います。「スポーティング・ライフ・ブルーズ」
中国の方からのお便りです。「品川狸」さん、31歳女性です。
「先日、初めて村上JAMに参加しました。普段あまり聴かない種類の音楽なので、ここじゃないと多分一生出会えない音楽だなと思いました。すごく貴重な体験でした。私は中学生の頃に初めて村上さんの小説を読んで、そこから日本文学にハマり、日本への留学を決意し、中国から日本にきました。もし村上さんの小説に出会っていなかったら、きっといまの私もここにいないでしょうね。会場の3階でステージ上の村上さんを見ていた時、本当に不思議な気持ちでした。人生は、数々の小さい奇跡と巡り合わせによって構成されてるのだなとつくづく思います。現在、自分でも何かを書きたいと思っています。しかし、いつも自分語りの文章になり、どの登場人物も自分になっちゃっています。村上さんはどうやって面白いキャラクターを作っていますか?」
僕の本を読んで、その流れで日本にいらっしゃったんですね。なんか責任を感じてしまいます。日本での留学生活を楽しんでください。
村上さんはどうやって面白いキャラクターを作っていますか?
うーん。僕の小説の登場人物は、僕が作るというよりは、向こうから勝手に出てくることが多いんです。僕はそういう人たちを観察して、文章にするだけ。わりに楽です。でもそういう人たちが自然に目の前に出てくるのを、じっと待っている我慢強さが必要になってきます。そのためには何をすればいいか?
まわりの人をよく観察すること。たくさん本を読むこと。そんなところかな?
慌てることはありません。じっくりやりましょう。
◆Summer Has Begun!〜夏は来ぬ(feat. Carole Nobuka)
Red Kimono Projectというグループが英訳の歌詞で歌います。
「Summer Has Begun!~夏は来(き)ぬ」
僕はこの歌詞を「ホトトギス、早くから起きて啼いているな」という意味だとずっと思っていたんだけど、実は「早起き啼(な)きて」じゃなくて「早も来、啼きて」だったんですね。「早くもやって来て啼いているな」ということ。長く生きていると、いろんな発見があります。
*
<クロージング曲>
Mark Whitfield「Mr. Syms」
今日のクロージング音楽は、ギタリスト、マーク・ホイットフィールドが演奏する「ミスター・シムズ」です。
「ミスター・シムズ」、ジョン・コルトーレーンの書いた素敵なバラードです。
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さて、今日の言葉は、何かの本で読んで頭に残っている言葉なんだけど、それがどの本だったか、まったく思い出せません。僕の場合よくそういうことがあります。その場でさっと書き留めておけばいいんだろうけど、そういうときに限ってペンも紙もないんですよ。しょうがないですね。こんな言葉でした。
「どんな人間にだって何らかの価値はある。もしそうじゃないとしたら、この世界に何らかの価値のある人間なんて、ただの一人もいないことになる」
本当にそのとおりだと僕は思います。だから小説を書くとき、どんな小さな役の人物にも、ただの通りがかりの人にだって、僕は何らかの価値を託そうと務めています。だってそうしないと、本当に意味のあることって書けませんから。
「どんな人間にだって何らかの価値はある。もしそうじゃないとしたら、この世界に何らかの価値のある人間なんて、ただの一人もいないことになる」
それではまた来月。
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7月28日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 8月5日(月)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
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<番組概要>
番組名:村上RADIO~マイ・フェイバリットソングズ&リスナーメッセージに答えます3~
放送日時:2024年7月28日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
07/29 20:00
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