【不定期対談】天竺鼠の川原と。クリープハイプ・尾崎世界観「表現をする上で 『お客さん』はどんな存在なのか?」(前編)
(左)お笑いコンビ「天竺鼠」のボケ担当の川原克己と(右)ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギターの尾崎世界観
お笑い芸人、絵本作家、映像監督、俳優など、ジャンルを飛び越えて唯一無二の存在感を放つ天竺鼠の川原克己(かわはら・かつみ)さんが、各界のアーティストとお互いの創作活動についてさまざまな言葉を交わす新企画が始まりました。初回のお相手はクリープハイプの尾崎世界観(おざき・せかいかん)さんです。
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■世界観くんはたぶん〝ちゃんと変〟
川原 俺と映像作家の山田健人くんのユニットで、クリープハイプのMVとジャケット写真に携わったのがきっかけよね。
尾崎 もともとおふたりの活動を見ていたので、レコード会社のスタッフさんからユニットの話を聞いておもしろそうだと思い、お願いしました。かなりとがった企画でしたよね?
川原 このMVの本当のおもしろさって、気づいてない人は気づいてないのよ。でも、別に誰に気づかれなくてもいいから、「なんかちょっと気持ち悪いものを」ってね。
MVはドラマパート→演奏パート→ドラマパート......っていう展開が多いって聞いたから、「じゃあ両方ありきで、最初ちょっとだけ出てきたドラマを回収しないで終わるのはどう?」って。しかもそこになるべく大物の方を使いたいっていう。
尾崎 それでちゃんと出ていただけたんですよね(笑)。そもそも、3~5分の中ですべてを伝えるのは難しいので、ドラマパートと演奏パートが半々ぐらいのMVこそが不自然なんです。
あまりにも型が決まっていて、その中で誰かが新しいことをしたらまたそれをまねするということの繰り返し......。そういうものではない、ぬるっと変なことがやれて本当にうれしかったです。
川原 ね、満足できるものだった。枠の中でやっていくのではなくて、枠を崩していく違和感とか、おもしろさの芯の部分が一緒だったから、OKまでが早かったよね。
尾崎 ただ、打ち合わせはけっこうしましたよね。最初はお互いどう思っているのかを探り合っていたのか、だいぶ緊張感がありました。それとやっぱり、ただふざければいいわけではないので、そこをすごくまじめに探っていたと思います。
川原 俺自身、誰かと一緒に作品を作っていくってことはあんまりないんだけど、世界観くんはたぶん〝ちゃんと変〟だから。奇をてらって変なことをしようとしてるんじゃなくて、世界観くんの好きなものが、たまたまちゃんと変。
尾崎 ちゃんと変であることは大事ですよね。
川原 そうそう。本当はみんな変なはずやねん。チャクラが開いた状態で生まれてきてるのに、ルールの中で生きていくことでどんどん閉ざされちゃうんよね。でも、それが閉ざされてない人がたまにいる。ジミー(大西)ちゃんなんかはもう、チャクラ以外の〝何か〟も開いてるから。
尾崎 (笑)。芸人さんでいうと、どういうところでわかるんですか?
川原 ネタやなぁ。まじめなんだけど変なふうに見せようとしてる人はすぐわかる。逆に「コイツ、ほんまに変やな」もすぐわかるんよ。
ゆりやん(レトリィバァ)、ZAZY、ランジャタイとかは、ウケるかどうかじゃなくて「自分が好きだからやりたいんやろな」っていう......。なんやったら、ちょっと頑張ってまともに寄せようとしてる感じすら見える。俺もそうなんよね。
尾崎 めちゃくちゃピュアにやってるということですよね。
川原 そうそう。で、そこがちゃんとウケないねんな(笑)。でも、俺はそういう面が見えたときに「おもしろい」って感じる。本当に好きなことをしてる人は、自分が変っていうのがわかってないんやろうね。
尾崎 バンドのフロントマンだと、「どうせ変なんでしょ?」というふうに思われることもあるんですが、それがとにかく恥ずかしいんですよね。こっちは別にそこを狙ってるわけでもないのに、勝手にそう思われる居心地の悪さがあります。
川原 けっこう、昔から変って言われてきたっていうのもあるの?
尾崎 それはそうですね。声のこともあって、よくそう言われていました。別にいまさらそれに対していやな気持ちはないんです。
ただ、嘘くさいというか、無理してると思われるのが一番いやですね。これはもう相手がいることなので、こっちが決められない。だからこそ腹が立つというのはあります。
■「ファンあっての俺」は絶対ちゃう
尾崎 川原さんは、自分が好きなものをやっていく中で、その表現をどう磨いていったんですか?
川原 できる限り修正せずにやってきたつもりだけど、ずっとお客さんの前でやってると勝手に技術がついちゃうのよ。
最初はウケへんけど、一個何かを足したりしたらウケるようになる。それが積み重なって、「こうしたらウケる」が身についてしまったんよね。「いつの間にかウケようとしてるやん」って。だから俺は今、寄席の出番をゼロにしたのよ。お客さんの前で毎日ネタやってたら、わからんくなるから。
尾崎 そう考えたら、お客さんというのはやっぱり重要な存在ですよね。
川原 やっぱね......そうね。単独ライブでは「ウケなくてもいい」って思えるけど、コアなファンは俺がそう思ってることをわかって、それで笑ってまうねん。
「絶対ウケへんはずなのに、これも技術で笑かしたんか......?」ってさらにわからんくなったから、最終的に無観客無配信単独ライブをやったんよ。
そしたら、「俺はこれがやりたかったんや!」って思えたんよね。しっかり準備してネタをやってるのに誰も見られない。
さらに、この空間を引きで見たときに、これをまったく知らない人たちの存在とかも浮かんできて、楽しいなって。あれがライブの楽しさのピークで、その後にやった普通の単独は楽しくなかった。
尾崎 もうほとんど芸術家の感覚ですよね、それは。
川原 俺はたぶん、自分が本当に好きなことをやってたら、たくさんの人が笑う方向には行かないと思うんよね。
そう考えると、理想はどんどんお客さんがいなくなって、最終的にはたったひとりのお客さんにピンスポット当てて、真っ暗な舞台上で1時間コントしたい。それができて初めて「お客さんがいて良かったな」ってなるかもしれない。
尾崎 コアなお客さんは、きっとそういう部分もわかっていますよね。だからこそ緊張感がありそうです。常に自分の反応で川原さんがどう思うのかを探りながら(笑)。普通は、ファンって感謝されるのが当たり前じゃないですか。
川原 「俺あってこそのファンだからね」って、ファンにもよく言ってんねん。別にファンいらんとかじゃなくて、「ファンあってこその俺」は絶対ちゃうやん。
尾崎 自分は基本的に、お客さんがいなければやる意味はないと思っているんです。でも、その無観客無配信ライブというのはなぜかわかるなと思いました。
ただ誰もいないだけではないと思うし、逆にお客さんがいないことで感じることもあるはずですよね。結局、お客さんという存在がいないと、無観客無配信の価値もない。
川原 あぁ、確かになるほどね。
尾崎 「お客さんはそこにいるもの」という振りがあるからこそ。だから、つい身内に冷たくしてしまうような甘えがありながらも、お客さんを本当に大事な存在だと思っています。
■ダメなところがあるほうが好き
川原 俺は「自分が好きでやってる」っていうのが伝わってきたときにおもしろいと感じるって話をしたけど、世界観くんはどういう音楽が好きとかはあるの?
尾崎 ちゃんとダメなところがあるものが好きですね。ちゃんと欠点があるけれど、そんなの関係ないぐらいほかがすごいもの。自分が完璧にできないというコンプレックスがあるからこそ、そういうところに惹かれるんだと思うんですけど。
川原 欠点って、具体的にはどういうところなの?
尾崎 ツッコミどころというか、アンチも多くいるようなアーティストに強く惹かれます。
川原 それは曲も人もってこと?
尾崎 主に曲ですね。あと、これは余談ですが「自分はまだまだ売れてないから、ここから這い上がるぞ」というのを過剰にアピールする歌が苦手です。
川原 なんでや、ええやん(笑)。
尾崎 「それは作品にする前にやることだろう」と思ってしまうんです(笑)。
川原 「僕も若い頃はそんな曲作ってましたわ~」って感じではないの?
尾崎 何曲か作ったことはありますけど、「まだまだここから這い上がる!」みたいな曲ばかりだと、日本武道館やアリーナクラスの会場でライブをするときに矛盾が生じる気がして。
そもそも人を励ましたり応援したりというのも、あんまり自分の中にはないんです。それはなんかちょっと違うと思ってしまうんですよね。
●川原克己(かわはら・かつみ)
1980年1月21日生まれ、鹿児島県出身。お笑いコンビ「天竺鼠」のボケ担当。芸人以外にも映像監督、俳優、絵本作家、音楽活動など多岐にわたって活動中。
●尾崎世界観(おざき・せかいかん)
1984年11月9日生まれ、東京都出身。ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。12月4日にニューアルバムを発売予定。執筆活動も行ない、『母影(おもかげ)』『転の声』が芥川賞候補に。
構成・文/佐々木 笑 撮影/TOWA 衣装協力/Pigsty原宿店 LOST BOY TOKYO
11/16 17:00
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