TBS土曜夜の新番組は“お金バラエティ”、NHKの有吉番組との“かぶり”は偶然か確信犯か

『世の中まるごとHOWマッチ いくらかわかる金?』(公式HPより)

 TBSが土曜21時に『世の中まるごとHOWマッチ いくらかわかる金?』というお金をテーマにしたバラエティを始めたことが注目を集めている。というのも、裏番組のNHKでもお金バラエティを放送していたからだ。“かぶり”はなぜ起きたのか? その背景について、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

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 今春、TBSが土曜21時台の新番組『世の中まるごとHOWマッチ いくらかわかる金?』をスタートしました。同番組のコンセプトは、「世の中の“ちょっと気になるお金事情”を独自で調査&検証するマネーリサーチバラエティ」。1983年~1990年まで放送された名番組『世界まるごとHOWマッチ』を思わせるタイトルに同局の期待感が見て取れます。

 しかし、レギュラー放送がスタートしてから明らかになったのは、まさかの“お金バラエティかぶり”。4月27日の第1回、5月11日の第2回、5月25日に予定されている第3回のすべてが裏番組の『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』(NHK総合)と放送時間帯がかぶっているのです。

 こちらのコンセプトは、「興味はあるけど、なかなか聞くことができない“お金にまつわるヒミツ”を掘り下げる、家族みんなで見られる教養バラエティ」。ほとんど同じような印象がありますが、そもそもお金がテーマのバラエティは少ないのに、なぜ放送時間帯がかぶってしまったのでしょうか。

「2時間SP」でのかぶりは確信犯

 なぜ『いくらかわかる金?』と『カネオくん』の放送時間帯はかぶってしまったのか。

 本来、両番組の放送時間は、『いくらかわかる金?』が土曜21時~21時56分、『カネオくん』が土曜20時15分~20時50分であり、かぶっていません。しかし、『いくらかわかる金?』はスタートしてみたら「3回すべて20時台~21時台の2時間SPとして放送」という事実上の2時間番組でした。本来、土曜20時台の『ジョブチューン』(TBS系)と交互に隔週で2時間SPを放送しているのです。

 この「2番組を交互に隔週2時間SPとして放送」という編成戦略はTBS土曜ゴールデンタイムの常とう手段。これまでは本来19時台の『熱狂マニアさん!』と20時台の『ジョブチューン』を交互に隔週で19時~20時台の2時間SPとして放送してきましたが、今春から20時台の『ジョブチューン』と21時台の『いくらかわかる金?』を交互に隔週20時台~21時台の2時間SPとして放送する形に変更したのです。

 その意味で『カネオくん』との“お金バラエティかぶり”は「TBSの確信犯であり、あえて狙っていた」という見方もできるでしょう。

 さらにそれを裏付けるのは、これまで『カネオくん』が培ってきた土曜ゴールデンタイムの実績。「2019年4月のレギュラー放送開始から5年以上にわたって土曜ゴールデンタイムで放送してきた」という実績があり、言い方を変えれば「土曜ゴールデンタイムにお金バラエティの好きな視聴者層を作ってきた」ことになります。

 一方、後発の『いくらかわかる金?』は本来21時台の番組でありながら、実際の放送開始時間は『カネオくん』よりも15~20分程度早い20時前後。つまり「先に放送をはじめることで『カネオくん』が作ってきたお金バラエティの好きな視聴者層を引きつけてしまおう」という狙いがうかがえるのです。

 もともとテレビ業界では、「他局の番組が作った視聴者層を狙って同じジャンルの新番組を編成する」のはベーシックな戦略。これまでドラマ、トーク、クイズ、報道などのジャンルで見られた戦略であり、相手が民放ほど視聴率獲得に貪欲ではないNHKだからこそ思い切って仕掛けやすいところもあるでしょう。

『ふしぎ発見』の視聴者も狙う構成

 もちろん『いくらかわかる金?』の勝算は、「同じ時間帯で先に放送をはじめる」ことだけではありません。

 その最たるところが、お金にまつわる調査や検証のみに留めず、「各世代の芸能人を2チームに分けてクイズ対決」という構成を採り入れたこと。第1回は、EXILE TAKAHIROさん、上白石萌音さん、マヂカルラブリー・村上さん、アンミカさんの「TAKAHIROチーム」と、梅沢富美男さん、なにわ男子・大橋和也さん、井森美幸さん、陣内智則さんの「梅沢チーム」。第2回は、満島真之介さん、ケンドーコバヤシさん、マキシマム ザ ホルモン・ナヲさん、伊原六花さんの「満島チーム」と、TEAM NACS・森崎博之さん、なにわ男子・西畑大吾さん、藤本美貴さん、タイムマシーン3号・関太さんの「森崎チーム」がにぎやかに対決して盛り上げました。

 また、「お金に関して家族で学びながらクイズで楽しめる」という構成もポイントの1つ。これまで「くら寿司」「串カツ田中」「餃子の王将」などのファミリー層の好きな飲食チェーンをメイン企画としてフィーチャーしていることからもそれが分かるでしょう。

 その他でも「プロの歌手が路上ライブをしたらいくら稼げる金?」というドキュメント企画などもあり、「2時間SP」というスケール感で勝負していることも含めて、さまざまな点で『カネオくん』との差別化が見られます。

 さらに『いくらかわかる金?』は約38年にわたって放送された「長寿番組『世界ふしぎ発見!』の後番組だからクイズの要素を踏襲した」という見方もできるでしょう。言わば、今回の編成戦略からは、「20時台は『カネオくん』、21時台は『世界ふしぎ発見!』の視聴者層をそのまま取りたい」という意図がうかがえるのです。

 今後は、先発の『カネオくん』はお金にまつわるエピソードのオリジナリティをさらに追求し、後発の『いくらかわかる金?』はさまざまな形でエンタメ性を追求するという形で競い合っていくのではないでしょうか。

 配信視聴が右肩上がりで増えているとは言え、ともにリアルタイム視聴を狙った番組だけに、どちらが支持を集められるのか、スタッフにとっては腕の見せどころでしょう。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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